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ぼくの秘書としての3つの仕事と、イメージとは異なる秘書の現場。費用はほぼ無制限だ。

1. 秘書として担当する仕事は3つある。

会社によって秘書の役割は変わるようだが、ぼくの会社では下記3つが主たる仕事になる。

社長秘書もしくは社長経験者サポート。社長の社内外の活動をお手伝いする仕事。資料作成が主な仕事。一緒にあちこち行ったり、社長が行く場所に前乗りして、下準備もする。社長を引退すると、会長になり、その後、相談役になる。この人たちのサポートもする。

役員全員の総務。役員があつまる会議や懇親会などのイベントを運営。あと転勤・住居の手配など。役員になった人、退任する人に、その通告もする。役員になる人に、「役員おめでとうございます!」といい、退任する人には「いままでお疲れさまでした!」と最初に言う役割。

役員報酬の運営・制度設計。役員の給料を決める役割。一般社員と給料の決め方が違うので秘書室管轄。給料が、一般社員と全然違うので、秘書室でひっそりと決めているのだろう。はじめて社長の給料をみたときに、「月給がぼくの年収だ。。。」と驚いた。

秘書室からは都庁と富士山がよく見える。景色は良いが、10名が小部屋にこもっており、秘密結社みたいだ。

過去の役員の個人データファイルがあったり、取締役会議議事録を閲覧すれば、インサイダー取引は容易にできる。ちょっと危ない場所だ。そこで、これらの仕事をしている。

2.秘書室にまつわる話

そんな秘密結社みたいな場所での金銭感覚はセレブである。社長が出張する際はファーストクラス。ヨーロッパに往復すれば250万円だ。また会食するお店は吉兆。これはひとり10万円だ。ホテルもリッツカールトン、帝国ホテル、ペニンシュラ。それもスイートに泊まるので10万円はする。急遽キャンセルなんてこともして、キャンセル料を躊躇なく支払ったりする。

世の中に、「こんな高いサービス、誰が使うんだよ」っていうのがあるが、それは大手企業の社長が使っているケースが多いのではないだろう。

一般社員の現場では、出張旅費を節約したり、ファイルを使い回したり、残業代減らしたり、など経費削減を頑張っている。けど、皮肉なことに、そのような経費削減は社長がヨーロッパ出張へいけば全てが吹き飛ぶ。良し悪しは別として、そんな構図になっている。

電話をかけてくる人もセレブだ。いきなり「大泉ですけど」なんて電話がかってくる。取り次いだ秘書は「大泉さん、、、。あ、総理。おまちください」と、当たり前のようにつなぐ。

また社長同士は電話をするときもアポイントを取る。秘書同士が、「何時何分に電話をかけさせていただきます」と約束し、その時間に秘書同氏が電話し、内線でつなぐ。「それでは、せーので繋ぎますね、せーの」と内線をつなぎあう。「直接、携帯で電話すればよいのに」と非効率に疑問を覚えるが、これがいいらしい。

ちょっとした秘書の集まりもある。同業との秘書会、メインバンク主催の秘書会、秘書協会の秘書会、などなど。その会合では「秘書あるある」で盛り上がる。「秘書あるある」を言えば、「必ず笑う」というお約束の空気感がある。

全体的に浮世離れしている世界なのである。大手企業だけかもしれないが。

3.社長に飲みに連れていかれる

木下課長から引き継ぎをうけていると、すでに時間は定時をすぎていた。秘書室内に「しゃちょ~、しゃちょ~」と機械音が流れる。社長が執務室から出るときに「社長が席を外した」と知らしてくれるサインだ。みなが顔をあげて、壁にあるモニターに目をやる。社長の執務室から、七田社長が出てくるのが分かる。

今日の晩は特に予定がない。山田部長は「今日はあぶないな」と言っていた。飲みに連れていかれそうな日を、山田部長はそのように表現する。女性秘書も「今日はあぶなそう~ですね」なんて言っている。ぼくは、まだ秘書室にきて1週間ほどしか、経っていないので、その感覚は不明だ。

七田社長が秘書室に入ってくる。手の形がおちょこになっている。「もしよければ、今晩行きませんか。おいしいお店があるんだよ」とやや遠慮がちに誘ってくる。誘うときは丁寧だ。女性にも来てもらいたいのだろう。

女性は家庭があるので、基本的にみなさん来ない。そこで、3名の男性秘書が一緒にいくことになる。いつもそうだ。

3人とも、いそいそと後片付けをして、地下にある車寄せに移動する。地下ではレクサスが待ち構えている。そのレクサスに乗り込む。レクサスはこんな乗り方をしないので、かなり狭い。特別仕様で3000万円ちかくするレクサスだ。半ドアになったら自動的に閉まる仕様になっており、木下課長がのるとウィーンと中途半端にしまったドアが自動的に動いた。

どこに行くのだろう。良いところに連れて行ってくれると期待した。レクサスがちかくのお店に止まる。

がブリチキンだ。

「から揚げかよ!」と期待していただけに、すこしがっかりだ。確かにうまいけど、どこかの料亭にでも連れて行ってくれるのかと考えていた。

レクサスの運転手に2時間ほど待機をお願いし、中に入って痴話話だ。

話の内容は、来週のアドバイザリーボードの話だ。

ベテラン秘書の山田部長に、「おい、山田、来週のアドバイザリーボードの準備は順調なんだろうな」と突っ込んでいる。山田部長も慣れたもので「すべて完璧です」なんて言っている。

大手企業になるとガバナンス体制がしっかりと出来ているか、それが株主にとって重要になってくる。そのガバナンス体制を充実させるために、うちの会社ではアドバイザリーボードという会議を年に2回開催する。メンバーは社外取締役と国内外の有識者だ。

二回のうち一回は海外で開催する。海外で開催する理由は、普段と異なる環境だと思考が広がるし、また海外の知見を吸収する機会だからだ。ただ、海外に行くとなると結構な費用がかかる。しかも奥様も一緒だ。海外では夫婦で会議に出席することは珍しくないらしい。そこを模倣して、奥様と一緒なのだ。ファーストクラスのため、ヨーロッパに行けば一組500万円だ。日本人は6組いるので、3000万円になる。結構な金額だ。

今回はデンマーク開催である。費用と時間は結構かかる。

アドバイザリーボードでは、役員報酬と次期社長候補が議題になる。そして将来社長候補になる人も呼ばれ、会社の将来ビジョンについてプレゼンをさせる。そして社長、社外取締役、有識者がその人物を評価する。

『なんで、こんな会議をするんですか?』と無邪気に七田社長に質問をすると。

「おまえ、将来の社長を、たったひとりの意思で決めるのは危ないだろ。もしおれだけに社長を決める権限があれば、おれの子分を社長にして、そして傀儡政権をつくることだってできる。昔はそういう社長が結構いたんだ。それは危ない。そのため、外部の目を入れることが重要なんだよ。」

権力は踏襲されるんだよ。権力は集中する。歴史がそう言っているんだよ。一般人には分からないようになっている。けど、脈々と権力は継承されている。国、会社、自治体、すべてそうなっている。見えないだけ。都合が悪いから。自分で調べてみろよ」

権力を持っている人に言われると、妙な説得力がある。65歳なのに唐揚げをモグモグ食べている。経営者は胃腸が強いのが特徴、と言われる。この人も強い。

4.社長宅に訪問連れていかれる

立て込んでいた案件が終わったためか、ハイボールでいい気分になったのか、上機嫌になっている。

「よし、おれのうちに来い」と23時を過ぎているのに、お宅訪問だ。

『奥様に申し訳ないですよ。やめましょうよ』と良いと、「嫁が怖くてやってられるか」なんて、新橋サラリーマンのようなセリフがでてくる。

それから携帯を取り出して「ママ、これから秘書連れていくから。よろしくね。」なんて少しトーンが下がった話し方をする。社長も奥さんには頭が上がらないのだろう。

青山に到着する。少し古いが立派なレジデンスだ。

「おれの家の隣に、どこどこの外資系社長がいて、その下にどこどこの、、、」と有名な会社の社長が住んでいる場所らしい。駐車場には、高級車のみが置いてある。

聞いてみると家賃は120万円だ。ぼくのいえは11万円だから約10倍だ。

なかに入ってみると、たしかにすごい。100平米の部屋なのでリビングが以上に大きい。つくりも格好良い。興味本位で家の中を見せてもらった。社長も嬉しそうに、「ここがおれの勉強部屋だ。見ろ」とドンドンなかに入れてくれる。

部屋の中には経営書がずらりと並んでいる。この手の本は死ぬほど読んでいるようだ。ただ部屋が散らかっていて汚い。この人は片付けが苦手なタイプなのだろう。

リビングで用意していただいたワインとピーナッツを食べていると、突然なにを思ったか、「おい、お前歌え」と無茶ぶりを言ってくる。

『いやですよ』と僕が言うと、代わりに「それでは私が」と山田部長が慣れた感じで歌いだす。聞いたことない歌だ。下手とも上手とも言えない。七田社長は歌わせたものの、全く聞いていない。歌わせたということで満足しているようだ。権力の横暴だ。

120万円のレジデンスに来ることはなかなか無いので、刺激的ではあったが、社長と家飲みをしても、面白みはかける。家のみは気の合った友人が良い。

1時を過ぎて解散だ。私は運転手さんと帰る方向が同じだったので、レクサスで送ってもらった。そこだけは、ちょっと特別な気分だ。

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