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子供の心に火が灯った瞬間に出会った話

 教師として、何を喜びとしていますか? 何を目指しますか?
 教師という仕事は、子どもたちの人生に深く関わる仕事です。責任は大きいです。一方で、子供たちの成長を目の当たりにし、大きな喜びを得ることができる仕事でもあります。

 私は教師になって20年近くなります。
 その中で、まさに「子供の心に火が灯った!」と肌で感じたことが、一回だけありました。

 子供がのめり込む授業、活発に話し合い深め合う授業、こちらの予想を越えてくる授業。そういった時間以上の、一瞬でその子の学習観すら変わってしまうような、そんな時間に巡り会ったのは、とても幸せなことだったと思います。
 紹介するのは、そのエピソードです。

<ある児童が走り回りながら叫んでいたセリフ>

 小学校3年生の理科の授業のことです。

 その子は、遮光プレートを片手に校庭を走り回っていました。上記のセリフを叫びながら。
 学習内容は「太陽の光と影」について。「太陽の反対側に影ができる」ことを確かめるための野外観察の時間でした。
 一体何があるのかと言うと・・・。

<校庭に出る前の教室でのやりとり>

「影は、ものが太陽の光を遮って、遮っているものの反対側にできる。」ここまでは、知識として知っている児童も多いです。ただ、それでは知っているだけなので、知識から体験や実感にできないものかと思い、ちょっと逆の問いかけをしてみました。

「じゃあ、影の中から影を作っているものを見ると、その向こうには何がある?」

 ちょっとした思いつきでの問いかけだったのですが、これが効果的だったようです。
「え?何があるの?」
「影は太陽の反対側にできるから…」
「え?本当に?」
「空があるんじゃないの?」
「太陽の反対は影だから…その反対は…太陽?」
 と、こんな見通しを持たせて観察に出てみたのです。仕込みとして、校庭にはあらかじめ、朝のうちにカラーコーンを20本ほど置いておきました。

 さて、そんな見通しを持っていたものだから、子供たちは各々影の中に入って、影を作っているものの向こうに太陽があることを確かめています。私はその様子を、「想定通り、少し生きた学びになったかな」などと思いながら見ていました。そんな時です。

「うわー、ホントだ!」
「うわー、すごい!」
「ここもある!ここにもある!」

 大騒ぎしながら校庭を走り回る1人の児童の姿が目に止まりました。一緒にやろうと言う友達の声も耳に入っていません。
「先生、すごいよ!どこから見ても太陽があるよ!」
どの影から見ても必ず太陽が見えること、その事実に、ものすごい感動と興奮を覚えたようです。

 私も心が震えました。

 まさか、こんな瞬間に出会えるとは…!

 この子、もともと勉強は得意ではありません。そのため意欲も低く、理科でも、あまり考えることはせず、友達の言ったことをノートになんとなく写している、そんな子でした。
 それが、この一件から変わったのです。
 ノートの記述は言うまでもなく、予想や見通し、考察の学習場面では、必ず手を挙げ、自分の考えを自分の言葉で述べるようになりました。もともと素直なことも手伝い、予想通りでも違っていても、結果を正面から受け止め、また考えます。
 そんな風になったので、テストの点数は急上昇。常に満点を取るようになりました。目を見張るような変化です。

 まさに、「心に火が灯った。」

 このエピソードは、研修会の講師で呼ばれると、紹介します。どうすれば、そんな授業ができるのかたまに聞かれることがありますが、残念ながら狙ってやったことではありません。
 しかし、変わらぬ授業づくりのマインドで毎日積み重ねたことは、ある日突然花開くのかもしれません。それは、自分が関わっている間ではなく、5年後10年後かもしれません。私は、その日を信じて種を蒔き続けたいと思うのです。


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