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企業のMissionとかVisionとかCultureとかとお昼ごはん。

もう10年も前の話だけど、「来社した客にはご飯を食べさせたい」という信念をお持ちの部品メーカー様のWebサイト制作を担当したことがある。サイト設計のための調査段階では社長にヒアリングしたり工場見学をさせてもらいに何度も訪問するのだけど、訪問時間は必ず午前を指定された。

それはなぜか。お昼ご飯を食べるのが大切なのだ。

お昼前になると「今日は何が食べたいんだ!」と社長に威勢よく聞かれる。これまでの人生の勘で、こういう方には即答が最適解だと知っているので、その度に「今日は蕎麦が食べたいです!」「ハンバーグがいいです!」と野球部レベルの活発さで即答していた。

裸一貫で大きな会社に育て上げた社長さんだからなかなか圧がある。でも、こういう人には正面からがっぷり四つで相対した方がいいのだ。「ハンバーグぅー?」としかめつらをしながら自分でクラウンを運転して、近所の美味しい店に連れて行ってくれた。お店でもペロリと食べるのが大切。遠慮は禁物。

ぼくはこういう方が嫌いではないので(圧はあるけど嘘がないのがいい)、向かい合ってお昼を食べながら色々な話を聞いた。こういうときに仕事の話をするのは野暮なので、還暦の社長相手に毎回話題を見つけるのが一苦労だったけれど、人間関係を作るんだからまあそれくらいの苦労はした方がいい。

隔週で2ヶ月くらい通って、その度にお昼を御馳走になって、地方の部品メーカーとしてはちょっと飛躍があるWebサイトを提案した。それまではカタログ的なWebサイトだったけれど、社員さんを前面に出し、固有技術と得意分野を大いに語ってもらうWebサイトをやるべきだと提案書を出した。

何度も通って全部署の社員さんのヒアリングをして、会社特有の開発ストーリーがあることは把握していたし、何より社長が社員さんを大切にしていた。自分としてはやる価値があると思っていたけれど、それまでのWebサイトとはガラッと変わるので社長に受け入れてもらえるまで時間はかかるかな…と思っていた。

結果的には「まあ、やってみろ」で一発OKだった。あれはちょっと嬉しかった。提案が通って制作フェイズに入ると社長と会うことは少なくなり、御子息の専務がWeb担当者にバトンタッチした。ほぼ同世代だったのでスムーズに制作は進み、ひたすら取材を重ねた。社員さんの開発座談会もやってもらった。

おかしかったのが、御子息の専務にバトンタッチしても訪問する時間はやっぱり午前で、やっぱりお昼を御馳走してくれたことで。「もうご馳走してくれなくてもいいですよ」と笑いながら言うと、「それだと怒られるんで」と笑いながら返された。結局、サイト制作で訪問する度にお昼をご馳走になった。

ただそれだけの話だけど、企業のMissionとかVisionとかCultureの話になる度にぼくはいつも10年前のお昼ごはんを思い出す。社長からMissionとかCultureとかの単語が出てきたことは一度もないけれど、「なるほど、こういうことか」と思ったし、今でも思っている。それは言葉ではなく行動なんですよね。

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会社のお名前を出してしまうと長野県塩尻市の『信州吉野電機』様です。10年前に一所懸命作ったWebサイトをまだ愛用してくださっています。

10年前の話だし、代替わりもされたし、もうお昼をご馳走するなんてしていないと思いますが、ぼくは今でもとてもよく覚えています。

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