見出し画像

親の死に目に会えなかった人の話

「夫と2人で育休を取得するんです。」
そう言うといろんな反応が返ってくる。

「男の人って育休取れるの?」
「育休って夫婦で同時に取れるの?」
「旦那さん育休中何するの?」

私たち夫婦が初めて育休を取得した2017〜2018年は、今よりももっと男性育休に対する認知が低かった。
なので、男性である夫が育休を取得することや私と同じタイミングで取得することに対して「そんなこと出来るんだ。」という、ちょっと驚いたような反応が多かった。

そんな反応の中でずっと心に引っかかっている言葉がある。

その日は、出向元のメンバーが集まって出向元の決算報告や制度改定の話を聞く交流会だった。
普段はあまり会話しない部署の人も集まっていて、私は同じ部署の40代の女性と他部署の50代男性の間に座っていた。
同じ部署の40代の女性とは夫の育休のことを何度か話していて、交流会の後に「出向元に帰任せずに産むの?旦那さんはいつから育休取るんだっけ?」という話をしていたと思う。
その話を横で聞いていた50代の男性から「イナバさん妊娠してたんか!」と声をかけられた。
そこから何かのきっかけで夫も一緒に育休を取得する話になったのだ。
当時は夫も同じ職場だったので話題になることが多く、その時も夫がどのくらいの期間取得するのか?同時に取得することが可能なのかを聞かれた。
一通り育休制度について説明した後、50代の男性からこんなことを言われた。

「それは制度の抜け道を使ってる。ずるいわ。俺なんか、親が死ぬ時も仕事休めなくて間に合わへんかったのに。あれは悲しかったな。」

その時は横にいた同じ部署の人が「今はそういう時代だから!」というようなフォローをしてくれたように思う。
私はなんとコメントを返して良いかわからなくて、何も言わなかった。

この50代の男性の発言からは、以下のような考え方を読み取ることができる。

  1. 本来の育児休業は女性が出産後に育児をするために用意されている制度。
    そのため男性である夫側が同じ条件で制度を利用して長期間仕事を休むことは想定されていない。夫婦で同時に取得するのは想定外の利用方法である。

  2. 男性は何よりも仕事を優先すべきだ。親の死に目に立ち会うよりも仕事を優先する必要がある。育児のような緊急性のないことで長期間仕事を休むべきではない。

その時は50代だし男性だしそういう考え方の人もいるんだな、くらいにしか思っていなかった。
本来なら私たち夫婦が育休を取得することと、この男性が親御さんの死に目に会えなかったことは全く関連のない話だ。
私たちは違法に制度を利用しているわけではないし、仕事を放り出してでも病院に駆けつけないという判断をしたのは彼自身なのだから。

でも、自分の親の死に目に立ち会えなかった悔しさや悲しさが、何年も後に男性が育休を取得する話を聞いて想起されるという事態。
そちらの方が深刻な問題なんじゃないだろうか?
こんなに関連性の低い内容で思い出すくらい、その人が何度も自分を責めていたということだし、今でも後悔しているということだからだ。

そう考えるとますます、望んでいるなら男性も育児休業を活用すべきだし、やりたいことがあるならやった方がいいと思うようになった。

「ずるい。」という感想にはたぶん、羨ましいという気持ちが含まれている。
本当はあの時仕事を休みたかった。
休んで駆けつけたかったけれど、できなかった。
仕事を代わってくれる人がいなかった。
自分が犠牲にしてきたことを犠牲にせずに権利を行使している人を見ると恨めしい気持ちになる。

高度経済成長期に、『男性は仕事・女性は家庭』と分業したことで日本は確かに経済成長した。
その時の価値観を引きずったまま、『男性は仕事してなんぼ。』と思っている人の中にも、自覚していないだけで自分で選択できなかった悲しさみたいなものを抱えている人は結構いるんじゃないだろうか?

自分で選択する、自分は何が大切なのかを自覚する。
私ができることはそのくらいかもしれないけれど、消化しきれない恨みや悲しみをずっと心に留めながら生きている人が少しでも減ったらいいな。

ありがとうございます!!!ワーママが少しでも生きやすくなるような発信やら活動に使わせていただきます!