見出し画像

第13話 付き合ったとたん、早速問題勃発

色々周り道しながらも、付き合いをスタートさせた私たち。周り道していたので残りの滞在日数はあとわずかだ。もう1分1秒でも惜しい。仕事なんてそっちのけで24時間一緒にいたいというのが本音だ。

しかし…現実は上手くいかないものだ。

付き合って1日目で問題発生したのだ。普通、付き合い立てというのはキラキラしていて、相手のことをずっと考えてて、怖いものなど何もないというものだと思っていた。そう、夏子とショーンのように。しかし初日から問題勃発だ。今思えばこれが今後の付き合いを暗示していたような気がするが…当時はそんなこと思いもしなかった。

その問題というのは、彼のボスだ。

当時40代くらいの、中華系の女ボスである。女でありながらボスの地位につけているというのは、おそらく仕事バリバリできる人だったんだろう。しかしなかなか従業員の好き嫌いが激しい人でもあった。

そう、この女ボス、ぺぺが大のお気に入りだったのだ。ショーン曰く、この女ボスはぺぺのことを「男として意識している」らしいのだが、その情報は怪しい。しかし、お気に入りであることは確かだ。

その女ボス、私と夏子は勝手に「女帝」と名付けた。本当に女帝という感じの人だったのだ。

この女帝は清々しいくらいわかりやすい人で、付き合う前から、なんだか私のことが気に入らなかったのだろう。仕事終わりに待ち合わせの約束をしたら、いきなりぺぺにだけ残業を2時間言い渡したり、私たちがお店で話しをしたら、ぺぺに大量の仕事を押し付けたりしていたのだ。

別に私はそこまで気にしていなかった。何なら、少し「あなたのお気に入りのぺぺは私に夢中」という謎の優越感があったのだろう。女帝は私に話かけてきたりもしていたが、笑顔でかわすこともできていた。

しかし、付き合ったとたん問題勃発だ。

ぺぺは滅多に仕事の休みをとらないが、前もって私のために1日休みをとっていてくれて、その日は一緒に過ごそうねと約束してくれていた。

しかし直前になって…その事実を知った女帝が、休んではいけないと言ってきたのだ。

これにはさすがに悲しくなった。私たちに残された時間はあとわずかなので、その休みがとれた1日はとても大切な1日になるはずだった。今までは笑顔で女帝の嫌がらせをスルーしてきたけれど、こればかりはスルーできない。

しかし、ぺぺは仕事だから仕方ない…ごめんねとあきらめモードに入っていた。ぺぺは優しいのがいいところだが、断れないのが悪いところだ。

私はすかさず夏子にメールした。夏子の彼氏ショーンはかなり私たちの恋愛に協力してくれている。なかなか熱い奴だから、なんとかしてくれるかもしれないという期待を込めてだ。

送って1分もしないうちにショーンからぺぺに電話がきた。前から思っていたが、ミャンマー人は基本的にレスポンスが良すぎる。

ショーンは電話越しでもわかるくらい怒っている。スピーカーでもないのに、電話からショーンの怒っている声が丸聞こえだ。内容は、「なんで嫌だと断れないんだ!」とか「メメが可哀そうだろう!」といったものらしい。

やはりショーンは熱い男である。友達のためにこんなに熱くなるなんて、なかなかできないことだ。そうやって私は少し感動したりしていたが、ぺぺはどうしても休めないと言い張る。

ついに業を煮やしたショーンが、自分が女帝に電話すると言いだした。さすがにそこまでしてもらうのは申し訳ないので、私が「もういい」と止めた。

今思えば、私たちは調子に乗り過ぎてしまったように思う。元々仕事とプライベートの線引きがあまりないマレーシアだが(日本とは逆でプライベートメイン)、ぺぺの職場に押しかけて居座ったり、仕事途中でホテルまで送ってもらったりもしていた。

今となっては女帝が腹を立てても仕方ないなと思うが、当時社会人経験のなかった私には理解できず、思い切り泣いた。

ちなみにショーンは夏子と付き合って以降、ほとんど仕事に行っていない。当時は夏子のためにそこまでするショーンが素敵に思えたが、今思うと女のために仕事を長期間休む奴は社会人としてどうなのかと思ってしまう。私も年をとったものだ。

結局、休みはとれず、付き合って初日は涙のスタートだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?