第8話 関係が動き出した

さて寺デートが終わったあと、一旦解散し、彼らの仕事終わりにまた集まることにした。

集合先はショーンの部屋だ。ペペはお店の上に住んでいたけれど、ショーンは、お店の先にあるマンションに住んでいた。夜中に男の家に行くなど何があっても文句言えない危険な行為だが、彼らがただの遊びで一緒にいるようには思えなかったし、どうせ男のためにマレーシアに来たようなもんだから今更そんなことこだわってらんないという理由で行った。夏子がいたから一人じゃなかったしね。

部屋は思ったより広く、きれいだった。何人かのミャンマー人と同居しているようだった。ミャンマー人始め東南アジアの人は、何人かで住みたがる。家賃の節約になるしね。

他愛のない話で盛り上がっていると、ペペが私にこっそり耳打ちしてきた。

「夏子とショーン、二人きりにしちゃおうよ!」

私は驚いてペペを見た。ペペはいたずらを思いついた小学生のような顔で、わくわくしながら私を見ていた。


確かに夏子とショーンはいい感じだ。ノリが合っているし2人とも楽しそうにしている。ショーンは明らかに夏子のことが好きだし。出かけているときに時々ショーンが夏子の腰に手を回したりしているのを私は見逃していない。私は他人に関しては万引きGメン並みに見逃さない。

おそらく2人の仲が進まないのは夏子の自制心である。この状態でカップルになるなど、アバンチュールで男捕まえたバカ女になってしまうのではないかという不安、将来が見えない貧乏ミャンマー人との恋愛に対する不安、例えカップルになっても、日本とマレーシアの超遠距離恋愛になってしまうという不安。そんな不安が夏子の心にあり、踏み切れずにいるのだ。

え?なぜわかるかって?私も同じだから!(笑)

しかし何しに再びマレーシアに来たのか。この気持ちに結論をつけにである。さあ、夏子、答えを出す時間だ!

なーんて心の中で考えていることを夏子は知る由もなく、ショーンといい感じに笑いあっている。そして視界の端で、ぺぺがドアに向かってあごをクイッとしている。早く行こうという合図だ。

私はスクッと立ち上がり、

「じゃあ、私たちちょっと外出してくるね。2人でごゆっくり」

そう言ってドアの方に向かった。

すると予想外に夏子が、

「え!何それ!いや!私も行く!」

と予想外にショーンと2人きりになるのを拒否したのだ。

ちょっとあまりの予想外にぺぺも私も一瞬ポカンとしてしまった。

そして、日本語はわからずともどうやら夏子が2人でいるのを拒否したと察したショーンが、ちょっと傷ついた顔して不機嫌になってしまっている。


しかしここで引き下がるわけにはいかなかった。私は心を鬼にして、さっさとぺぺと外に出た。本気で嫌だったら、ついてくると思ったからだ。

結果、外に出て少し待ったが、夏子は出てくることはなかった。どうやら覚悟を決めたようだ。ホッとして、私たちは歩き出した。

私たちはビーチを散歩することにした。どちらからともなく自然に手をつなぐ。すこしドキドキする。初めて手をつないだ小学生みたいだ。

波の音を聞いていると、心が落ち着く。人間の祖先が元々海の生き物だったというのも納得がいく。それに加えさわやかな風がいい感じにペペの上着の裾をひるがえしている。

ペペは私の手を自分の腰に回した。私は抵抗することなく後ろからペペを抱きしめてみる。そのままホテルまでの道を歩いた。なんとなく、このまま関係が進むかもしれないと思った。


あっという間にホテルの前まで着いてしまった。ペペはこの後どうするつもりだろうか。夏子はショーンのところからしばらく戻らないだろうから、ホテルの部屋に来るつもりなのか。どうしよう。でも、夏子も決心したみたいだし、そろそろ私もペペとの関係を真剣に考えなければ。

私夜のビーチのロマンティックさに流されて、ホテルの部屋に入れていいという気持ちになっていた。しかし軽い女と思われたくなくて、ペペをホテルの部屋に入れる正当な理由を必死で頭の中で探した。


「じゃ!また明日!」

……

一瞬、また何が起きたかわからなかった。

え?もしかして帰ったの?ホテル誰もいないけど?私密かに覚悟してたんですけど?

よくわからないまま、去っていった彼の後ろ姿を見つめた。


その日は、異国でまさかの一人寝となった。


翌朝、ショーンと仲良く手をつないで帰ってきた夏子に、

「あの…私、婚約者ができました」

と、報告されましたとさ(笑)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?