カミール⑧小さな出会いといじめ?
カミールの束縛が激しく、今後の付き合い方を真剣に考えないといけないと思っていたとき、ひとつの出会いがあった。
それは授業が始まる前のことだ。私は相変わらず授業が始まる10分前には学校について、一人でポツンと皆が来るのを待っていた。私も郷に入れば郷に従えばいいものを、遅刻厳禁の日本で育ってきたため長年の習慣で10分前行動が身についている。
いつもと違ったのは、まだ時間になっていないのに誰かが来たことだ。めずらしいな、とその人の顔を見ると、カミールの同居人のムハンマドだった。ムハンマドはカミールの幼馴染らしい。仲良くカミールと留学してきたが、カミールの方が英語の上達が早かったようで、まだ下のクラスにいる。幼馴染なのになぜだか仲が悪く、お互い避けているようだ。まあ、いくら幼馴染でも一緒に住むと相手の嫌なとこが見えたりするんだろう。知らんけど。
そのムハンマドが教室に入ってきた。普通に入ってくるもんだから、教室間違った?と少し焦った。しかし私を見て「ヘーイ」と挨拶してきたところを見ると、どうやら私が目的のようだ。
「ハイ」と私は挨拶を返した。カミールの同居人とはいえ、まともに話すのはこれが初めてだ。カミールの家で何回かは挨拶を交わしているが、すぐ部屋に入ってしまうので話すチャンスもなかった。
そのムハンマドが私になんの用だろう?と疑問を持っていると、
「カミールとずっと一緒だから、話すチャンスがなかなかなかったんだ。でも君はいつも早く来るから、こうして早くきて、やっと話すチャンスができた。」
とこんな感じのことを言った。なぜ「こんな感じ」とぼかすかというと、ムハンマドはカミールほどペラペラではない。そして私もネイティブではないから、彼が何を言いたいかを汲み取ることはできない。ゆえに想像で補填している。
「はあ…そうなんだ。」
何と言っていいかわからず、私はぼやけた返事をした。なぜカミールがいると話かけられないのであろうか…
「僕、ずっと君と友達になりたかったんだ。友達になれる?」
えらく直球できた。友達になれるも何も、ムハンマドのことをそこまで知らない。てゆうか名前すら、カミールに確認するまでおぼろげだった。
「そうだね…仲良くなれたら」
また曖昧な返事をしてしまった。この場合はどう答えるのが正解だったのだろう。まあ、少しカミールに疲れていた時期だったので、他の人とも絡んでみたいという思いもあった。しかし友達になれるかは、色々話してみないとわからない。
「よかった!連絡先交換しよう!」
曖昧な返事はムハンマドには通じなかったようだ。ムハンマドには「OK」に聞こえたらしい。
もうそれ以上どう言えばわからなかったため、連絡先を交換することになった。
「ありがとう。でも、僕が君に話しかけたこと、カミールには絶対言わないでね。」
そう言い残して、ムハンマドはダッシュで去っていった。そのあとすぐにクラスメイトがぼちぼちと来出した。
なんか色々わけがわからなかったが、なぜが私とムハンマドが「友達」になったことをカミールには言ってはいけないと言われたので、カミールにはそのことを黙っていた。
その後、やっぱりというかなんというか…ムハンマドからのメール攻撃が来た。
ムハンマドのメールは文法やらスペルが適当で、解読がなかなか大変で疲れる。私はそんなにメールをするほどムハンマドに時間をとられたくなかったので、「学校で喋ろう」と返事をしたのだが、それはいつも無視された。なんなんだ、一体…。
しかししばらくたった時、何かの拍子でカミールにムハンマドの話をしてしまった。カミールは私がムハンマドのことを知っていることにびっくりし、そのあとたちまち目が吊り上がった。
「ムハンマドと話してるの?なんで?」
怒りを隠さずにカミールが聞いてきた。
「話してはないけど…メールしてるから」
ごまかす術を持っていなかったため、また正直に話してしまった。
「なんでメール?どこで連絡先教えたの?」
またカミールの束縛系の発言が始まった。そうやって威圧的に話せば私が言うことを何でも聞くと思っている。この関係性に疲れていた私は、
「どこでもいいでしょ。カミールには関係ない」
と、不機嫌に返し、「この話はもうしない」と締めくくった。
カミールはそれ以上何も言えなくなってしまったらしく、黙ってしまった。なんだ、こんな感じで突っぱねればいいんだ。私はカミール対策術をひとつ取得できて、ちょっと嬉しくなった。
しかし嬉しくなっている私とは対照的に、大きな目を見開いてカミールは何かを考えたまま動かなくなっていた。それがまさかあんな幼稚なことを考えているとは知る由もなく…
翌日…
授業の合間の休憩時間。このときは全クラスの生徒が一斉に外に出てきてそれぞれ時間をつぶす。私は大体コンビニに買い物をしに行ったり、ソファに座って談笑する。(主にカミールだが)
なんだかおかしいとすぐに気づいた。というか気づかない人はいないだろうというような異様な雰囲気なのだ。
その原因がすぐにわかる。ムハンマドだ。彼が、明らかにみんなに無視されたり睨まれたりしているのだ。ムハンマドはそれをわかっているかのように、一人で壁にもたれて携帯をいじっている。私の記憶では、ムハンマドは休憩時間はクラスメイトとよく談笑してしたが…
私はすぐにカミールに
「ねぇ…なんかみんなムハンマドに冷たくない?」
と聞いてみた。
するとカミールはまた大きな目で怒りを表現して、
「ああ…あいつは悪い奴だから。みんなに無視されても仕方ないんだ。」
と言った。
これには私もびっくりした。昨日、ムハンマドとメールしているとカミールに言ったら、次の日にムハンマドがみんなから無視されている。ものすごいタイミングが良くないか?
「それって…私が原因とかじゃないよね?」
念のため聞いてみた。するとカミールはかぶせるように
「君はまったく関係ない。元々あいつは嫌われものなんだ。」
と吐き捨てた。しかも結構な大声で。ムハンマドに聞こえてしまうような気がして、これ以上追求するのは無理だった。
カミール…もはや彼は最初に出会った頃のイメージとは完全にかけ離れてしまっている。最初のイメージは、孤独な心優しい少年だった。しかしいつの間にか、束縛してきたり、威圧的な態度をとってきたり、挙句の果てにみんなに言ってムハンマドを無視するということまでしてのけている。本当のカミールはどんな人なんだろうか…私は完全に混乱した。
結局ムハンマドはその日、誰とも話していなかった。
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