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カミール⑦束縛が激しくなる

無事に友情を復活させた私とカミール。

カミールも反省したということで、安心して元の関係に戻れると思っていた。


思っていたのだが…


「今どこ?すぐ帰ってきて。帰りにスタバまできて。」

カミールからそんな電話がかかってきた。

その日私は、遠くのショッピングモールに一人で映画を見に来ていた。

なぜ遠くのショッピングセンターまで行ったかというと、そこで日本の映画をやっていたからである。

日本にいたら絶対に見ないような作品だったが、日本語にものすごく飢えていた私にとってとても魅力的に感じたのだ。

もちろんカミールに一緒に行かないかとは聞いてみた。しかし行かないと言ったので、一人で行くことにしたのだ。

いつも学校帰りに一緒にいるもんだから、どうやらカミールは一人で映画に行くことがどうやらお気に召さなかったようだ。

ショッピングセンターに行く途中にも、鬼のようにメッセージが来ていた。まるでGPSのように、逐一自分の居場所を報告しなければいけないのだ。婚約者には「映画行ってくる」という1通のメッセージだけで、なぜカミールにはこんなにメッセージを送らないといけないのか…ちょっと息苦しい。

映画の途中にも、メッセージと電話が頻繁にある。これでは映画に集中できないではないか。途中でイラっとして電源を切ってしまった。ちなみにマレーシアでは誰も携帯をマナーモードにしないし、かかってきた電話にも普通にでる。映画に集中しようぜい…

そして映画が終わって電源を入れた瞬間、冒頭の電話である。

「え…でももう遅いし、帰ってご飯食べたいんだけど」

「帰ってなにかあるの?一緒にご飯食べたらいいじゃん」

「別になにもないけど…わかった、帰り道だし行くよ」

電話を切って少しため息が出てしまった。なんだか友情が復活してから、息苦しさが続いている。

別に一緒にいるときは楽しいのであるが、こういう電話とか、前にも増して激しいメッセージとか…こういうのが来るたび息苦しい。

そんな思いを抱えながら、カミールのいるショッピングセンターまで向かう。

そして合流して、いつもの行きつけのチキン料理屋さんで夕飯を一緒にとった。

「女性はあまり一人で歩かないほうがいいんじゃない?ちょっと変だよ。」

「え…?日本では別に珍しくないと思うけど。」

「日本では知らないけど、ここイスラムの国だから。一人でいると変な男とか寄ってくるよ。」

「そうなんだ。まあ変な男には気をつけるよ」

以前ぺぺにも、「女性一人であまり出歩かないほうがいい」と言われたことがあったので、それぞれ文化の違いがあるということは理解している。しかしマレーシアではそこまで変なこととは思えなかったので、カミールの言葉適当に流してしまった。

カミールはちょっと不満そうな顔で

「もう一人で映画行かないでね。」

と言い、少しむくれ顔でご飯を食べている。

それなら誘ったとき来たら良かったのに…私は返事をせずご飯を食べる。

カミールは、自分たちイスラムの文化や食事は私にけっこう押し付ける。私は初めて接するイスラムの文化や食事が珍しく、楽しかったため特に何も思わずに合わせてきた。

しかしカミールは私の文化などは全く受け入れようとしないのだ。おそらく、日本映画は受け入れられないため映画も断られたんだと思う。

さらに息苦しくなってきた。あの襲われかけた日以来、カミールは私に指一本触れてきていない。しかし、触らない代わりに束縛がきつくなったような気がする。

結局その日のディナーは盛り上がらず解散となった。


それから一週間もしないうちに、授業が終わったあとにカミールが別のクラスの女の人に呼び止められた。同じリビア人で、誰かの奥さんだったと思う。服装やヒジャブなどで、敬虔なイスラム教徒だということがすぐわかる。

その日も学校終わりにスタバに行く予定だったので、カミールのことを外で待つことにした。ガラスのドア越しに彼らの話ている姿が見えた。

なにやら、すごい言い合いをしている。女の人は結構激しめの口調だ。カミールも興奮した顔をしている。眼力が最大になっていた。

なんかあったのか?と心配していると、話の途中なのにカミールは外に出てきた。え?めっちゃ怒ってはるのにいいの?

そして私の方をガッとつかんで、エレベーターの方に連れていくのだ。

女の人は、ドアのところから何か叫んでいる。そしてカミールも何か叫び返している。全部アラビア語なので、何一つ理解できないが、女の人が何か注意しているように感じた。

「ねえ…話終わってないんじゃないの?大丈夫?」

肩をつかまれたままだったので、そっと手を避けて聞く。

その行為が気に障ったのか、ちょっとムッとした顔をして

「彼女には僕の問題に口出しする権利はないんだよ。イスラム教はこういうことがしょっちゅうだ」

何かよくわからなかったが、女の人がカミールの行動を見かねて注意したっぽかった。カミール何したんだ…豚でも食べた?

まさかものすごい誤解をされていたことは、まだこの時は知らなかった…

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