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〇〇住宅のT・I氏~第五話

翌日12月20日、いつものようにサロンで仕事をしている妻の携帯が鳴った。

知らない番号が表示されている。

新規のお客さんから電話が入ることも度々ある妻は、接客中ではあったものの電話にでた。

すると相手はT・I氏だった。


〇〇住宅のT・Iです。昨日はありがとうございました。
奥様、あの…、会社から電話をかけているのですが、少し話しづらい内容でしたので離れたところから携帯でかけさせていただきました。


妻は不思議に感じたという。
〇〇住宅の営業マンが会社の電話以外でかけてきたことは今までになかったようだ。

T・I氏は続けた。


昨日伺った件ですが、大家さんも把握してくれてまして、無事にキャンセルができることになりました。
ただ… 、こちらで預かっている仲介手数料は返金しない方向でやらせていただきたくて…。


T・I氏は妻へこのような話しを持ち掛けてきたという。

接客中だった妻は、後ほど折り返すと伝えて電話を切った。

そしてすぐに僕へLINEをしてきたのだ。


さっきT・Iさんの携帯から電話があって、なんでも仲介手数料を返金しないとかって言ってたの。
なんか話しづらい感じだったよ。
営業成績にでもひびくのかしらね。
私、仕事中だから和弥くんからかけてあげてくれない?


僕は妻からT・I氏の携帯番号を聞き、すぐに電話してみた。

コールは鳴るが、電話にでることはなかった。


しばらくするとさっきの番号から折り返しの電話がかかってきた。


T・Iさん?稲です。妻が忙しいようなので僕からかけました。
どうかされました?


僕は何も聞いてないフリをして、そう伝えた。


あっ、いや、今、大家さんにも確認をしてまして、うちの上司とも判断中になります。
そのことをお伝えしようとしたまでです。


僕は彼よりも人生経験がある。電話の向こうで彼が焦っていることくらいすぐにわかった。

僕はとぼけて質問した。


なんか、返金ができないとかって妻が言ってましたけど?


いや、それは、例えばお客様のワガママで一方的にキャンセルになる場合は、仲介手数料の返金ができないこともあります。という意味でした。
こちらではもう印鑑も押していただいているので…。


これがT・I氏の言い分だった。


僕は彼に、少し時間があるかを確認した上で、昨日の出来事と僕の意見を伝えた。


いずれにせよ、当初伺っていた駐車場2台というお話しが1台だったわけです。結果的に。
おばあちゃんと直接お話した感覚から、もうあの芝生には停めれないとも確信しました。
なにも僕はウソをついているわけではないので、そのまま上の方に話をしてみてください。
理解して頂けると思いますよ。


僕がこう伝え終わるか終わらないかのときに、かぶせるようにT・I氏が口を挟む。


僕の意見としましては…。


しかしその意見を僕は認めなかった。

今までの数回のやり取りのときも、T・I氏は割り込んで口を挟んでくることがあったのだ。
営業マンとして、これほど失礼なことはない。
僕は彼の話をさえぎって伝えた。


T・Iさん、もし上の方が納得していないなら僕が直接話します。
そちらに伺ってもいいです。
だからT・Iさんは何も心配せず、上司に話してみてください。
別にT・Iさんが悪いわけではないんだから。
大家さんのほうで言われている内容が違ってただけでしょ?


そう僕に言われ、T・I氏は少しの間黙っていた。


わかりました。本日は代表が休みなので、明日確認してみます。
そしたらまたご連絡致します。


お手数かけてすみませんが、宜しくお願いします。
連絡待ってますね。


彼の電話を切ったあと、僕は口ずさんだ。


代表が休み…。


何かがおかしい。
僕の中でうまく進んでいない感覚が残った。

そんなに難しい話ではないはずだ。それとも不動産業界には独特のルールでもあるのだろうか?

もしくは妻が言っていたように、単純に彼の営業成績を守りたいだけの行動だったのだろうか。

しかし最後に彼は約束してくれた。明日上司に確認すると。
上司がマトモな大人であれば理解してくれるだろう。


僕はT・I氏からの電話を待つことにした。

そして普通であれば、ここで問題は解決するはずだよね?

しかしこれでは終わらない。
これで解決ならば、わざわざこのブログに書きやしない。

彼はこのまますんなり終わる、輩ではなかったのだ…。

つづく…

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