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音楽フェスつくってるだけで食っていけるの?

こんばんは。今日はお金の話。ぼくは肩書きを一応「フェスデザイナー」ということにしているのですが、はじめましてな人たちに「音楽フェスつくってるんです」なんて話すと「え、それが仕事なの?」ということもしばしば。

まぁそれもそのはず。フェスに限らずイベントを1度でも主催したことある人たちなら”いかに儲からないか”がよくわかるんです。ましてや社会人となってそこそこの大人がフェスしかつくってないなんて、両親でなくても不安になっちゃいます。

とはいえ「サイレントフェス®」を皮切りにフェスデザイナーとなって早4年目。会社もつくって3年目に入りました。一応毎年黒字決算で、自分としては十分満足できる生活もさせてもらってます。お金の話なんて釣りっぽくて気が引けるけど、隠すことでもないのでお話しします。あとTwitterのアンケートで関心が高かったので。笑

フェスづくりという仕事

「フェスデザイナー」という肩書きに違和感を持った方もいるかと思います。一般的に「オーガナイザー」や「プロデューサー」「クリエイティブディレクター」と呼ばれる人たちと同じようなことをしています。ただ、ぼくのつくるフェスは「頼まれたものを制作する/最適化する」というよりは「体験を通してスペキュラティブデザイン(問いを生む)している」という志向でつくっているので「オーガナイズ(最適化する)」「プロデュース(制作する)」との違いを表現しています。

また通常はオーガナイザー(最高責任者)プロデューサー(総指揮者)ディレクター(現場責任者)と役割を分けて組織的にプロジェクトしていくわけですが、2、300人規模くらいのフェスであれば当日の運営以外は全部1人でやっちゃうこともあるので、既存の役割に当てはめずらいというのもあります。

なんせ「フェスティバル」という場をつくる上で必要な役割は多様で、どんなフェスかにもよりますが上述を除くと例えばこんなものがあります。
・美術
・音響
・照明
・広報
 ・ブッキング
・ロジスティック
・会場調整
・営業
・ブース管理
・来場者管理
・インフラ管理
・スタッフ管理
などなど..
それぞれの役割にチーフとスタッフがいて、ステージが増えればそれだけ必要な役割、人員も増えていきます。

これらをディレクターが統括し機能させ、プロデューサーはディレクター含めた全員を組織し監督し、そのすべての方向性と意思決定と資金調達含めた責任をオーガナイザーが持つ、という運営体制が標準形です。(あくまで標準形なのでフェスによってオーガナイザーが複数いたり、ディレクターがいなかったり、それぞれ形は異なります)

ステージ制作や、音響、照明機材、アーティストの出演費や雨天用のテントや仮設トイレ、それらの業者への委託費、運搬費、スタッフへの謝礼などなど全部含めた経費を、チケット、ドリンク、グッズ販売、企業協賛、出店費、寄付、などなどでまかないきれたらフェスデザイナー(オーガナイザー)へやっとお金が回ってきます。それがフェスづくりという仕事。

実際のところ儲かるの?

例えば200万の予算で500人の動員をして50万の利益がでるフェスを始めるとしましょう。そうすると5000円のチケット料金をとるか、2000円くらいにしておいて、残り150万を協賛やドリンク販売などでペイするかなど考えるわけです。イベント経験のある方なら前者のように5000円で500人集めることも、後者の150万を協賛やドリンク売り上げでいただくことも、大変な壁に感じるのではと思います。

実際に上記のようにまわっているフェスももちろんありますが、多くのフェスはなかなかうまいこといきません。現実はもっと巨視的に回収していきます。例えば極端にいうと初回は1000円にして多くの人に楽しんでもらって、100万円の赤字は次回以降から少しずつ回収していくというような感じです。

フェスを続けるとそこには常連さんのようなお客さんができてきます。そうするとそこにコミュニティができて、やがてフェスのなかに文化ができてきます。そうすると出演アーティストやコンテンツ、ではなくそのフェス自体に価値を見出して来てくださるようになったりします。(フジロックや、ナチュラルハイなんかそんな感じに見えます)

ぶっ飛んだ事例だと『橋の下世界音楽祭』という名古屋で開催される催しは、参加費は基本無料。ただ、企画趣旨から場作りまであまりに素晴らしく粋なので、参加者は会場に設置されたお賽銭箱に1万円をポイポイいれていくという状態です。3日間その場で過ごしていると不思議なことに最終日には「粋かどうか」が判断基準になっている自分がいました。

フェスづくりが儲かるかどうかなんて一概には言えないですが、少なくとも儲けるためだけのためにフェスづくりをやっている人はほとんど聞きません。(企業は別として)

そして、今ないものをつくりたいからオーガナイザーなんていう存在が現れるわけで、なんとか利益がでたとしてもつくりたい世界観のために、次々と投資してしまいがち。準備や運営がクソ忙しいときは「もう2度とやるか」なんて思ってるくせに、、業が深いんです。

ちなみに全体としてフェスの動員数自体は年々右肩上がりで、市場規模も2017年時点で283億円となっています。(参照:ぴあ総研) フェスティバルが夏の定番レジャーとして一般化し、フェスの数も全国的に増加傾向にあります。こういうデータを見て「フェスをすれば人が集まる!」とお思いになりお声がけいただくこともありますが、フェスの数が増えるということはブッキングがより難しくなり、価格も高騰し、動員もある種奪い合いとなってしまう側面もあり(一般的に年に何回も行くことじゃないので)フェスをやっときゃ人が集まるというものではないのです。

相対的に企画はよりコンセプチュアルになり「フェス」という概念の幅も広がっています。「どこまでがフェスなの?」という疑問もあるかと思いますがそれはまた別の機会で。何より音楽市場全体を広げて底上げしていかないことには真に持続可能にはならないのです。

じゃぁみんなどうしてるの?

ぼく自身の例で話すとフェスづくりだけで食っているわけではありません。まずフェスづくりは、自分主催で開催するものに関してはほとんど利益をださずに体験の質に投資しています。これはアーティストにとってのポートフォリオみたいなもので、そうしてつくったフェスをHPに掲載したり、SNSにアップしたり、メディアに取り上げてもらうことで「うちでもそれやってほしい!」ってお声がけいただき制作費をいただいたり、はたまた別の形で形でお仕事いただくこともあります。(イベントやプロジェクトのコンサルティングや、コンセプトデザインなどなど..)

またサイレントフェス®の場合はブランドの特許を取り専用機材のレンタルサービスもしていて、話題になる企画を開催すればするほど日本全国の興行時における「騒音問題」の解決策としてうちに辿り着きやすくなっています。そのため始めて1年目はあらゆるシチュエーションで音楽だけじゃなくトークやシネマなども開催して、日本最初のサイレントイベント事例づくりをしていました。

固定でプランナーとして参画させていただいている企業もいくつかありますが、基本的には月に1、2度くらいの関わりなのでほとんどの時間はフリーです。講演や打ち合わせなどで全国を旅したり、プロジェクトベースで単発で入っていったりが気軽にできるので、その移動中に次の企画を考えたり、こんな風に記事を書いたりして生活してます。

自分以外の例でいうと例えばよくあるのは店舗(カフェや雑貨屋など)を運営している方。日常と非日常を両方つくれていると、色々と相乗効果がありそう。フェスで起きる偶然の出会いに、必然的な再会の場を用意できてるというのは良いなぁと思います。

あとはフェスを一緒につくっていたチームで、太陽光発電の電力会社をつくっていたりとか、音響屋をしてたり、デコレーターをしてたり、様々なフェスづくりの現場を転々としているオーガナイザーもいたりします。

もちろん普通にサラリーマンをしながらフェスづくりをしている人もいますし、雑誌やwebメディアを制作しているところもあれば、本当にこの人どうやって生きてるんだろう・・っていう人もいます。笑

フェスづくりだけでは食っていけないとか以前に、そもそもフェスづくりだけしたいわけでもないんだと思います。そしてフェスを媒介に色々な人と出会い、旅をするように出来事を紡いでいく、セレンデピティ(偶然の幸福)に溢れた生き方がそこにはあります。

まとめ

フェスづくりだけで食っていけてる人は少数ですが、フェスを媒介に複合的に長く続けていけば、そこにやがて文化ができて仲間が集まり、しかるべくタイミングで資本を投入してスケールしていければ、フェスだけで食っていくこともできるのではと思います。(口でいうのは簡単ですけどねw)

ただフェスづくりだけで食っていく必要があるのかどうか、それがしたいのかどうかは前述の通りです。元手となる予算の集め方も、個人だけで頑張らずとも仲間内で共同出資を募ったり、クラウドファンディングを活用したり、金銭的なリスクの少ないやり方はあるので、当然苦労はありますがそれに耐えうる熱量さえあれば、つくりたいフェスを作り続ける事自体はそう難しいことではありません。

評価経済というような価値観から経済資本だけでなく、社会(人的)資本にも視野が広がっている時代ですが、資本という概念すら気にならないほどの得体のしれないエネルギーが、想いを込めたフェスづくりからは感じられる瞬間があるはずです。

とはいえお金も必要ですよね!ってことでフェスとお金については引き続き実践研究していきます!


あめみや @amemi_c5

*「フェスづくり」の入門講座9月9日に渋谷で開催!

*地上60階、夜景に囲まれた天空フロアで映画の試写会!

*風呂とフロアを沸かす、銭湯サイレントフェス♨︎

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「こんな未来あったらどう?」という問いをフェスティバルを使ってつくってます。サポートいただけるとまた1つ未知の体験を、未踏の体感を、つくれる時間が生まれます。あとシンプルに嬉しいです。