サイレントイメージ

カルチャーづくりはほぼ、焚き火-これから体験コンテンツをつくりはじめる人達へ-

最近は逃げBarをつくったせいで逃げるのに忙しないのですが、 Silent it #サイレントフェス 今月10日で創業6周年を迎えました🎉 
 
大したリソースも持ってないし、営業も1度もしたことないし、何ならイベント開催すら最近はサボっているくらいですが、なぜ6年も続いてこれたのか、それはたぶん、自分以外の人たちがサイレントフェスという火に薪をくみつづけてくれているから。どうしてそうなってきたのか、この6年をざっくりと振り返ってみたいと思います。
 

そもそもサイレントフェスって?

サイレントフェスはSilent itの主催するサイレントディスコブランドで、Silent itの母体となるOzone合同会社の登録商標です。ステークホルダーが多くややこしいのですがSilent itもOzoneも雨宮の別名です。

そもそもサイレントディスコとは何かというと、専用のワイヤレスヘッドホンを装着し、DJやライブをオンタイムで共有する”無”音楽イベントの名称です。周りから見ると無音に見えるため、どこでも、いつでも、大人数で高音質、大音量のライブを楽しむことができます。

元々はオランダの環境活動家により広められ、世界各地の電波法に応じて独自にローカライズされています。ヘッドホンならではの立体音響も再現可能で、最大半径30m以内であれば何名でも同時に不思議な一体感と没入感を味わうことが可能です。あらゆる騒音問題を解決し、新しい熱狂を生む未来型音楽体験。

そしてSilent itとはサイレントイベントの専門事業として、サイレントフェスを始め、サイレントシネマ、サイレントヨガなどの企画開催、専用機材のレンタルサービス、イベントの運営サポートなどなどを行なっています。

持ち札はヘッドホン20台のみ、黎明期の生き残り戦略

6年前、サイレントフェスという概念はこの世になく、サイレントディスコという言葉もまた日本ではほとんど知られていない概念でした。ヘッドホンを使いライブを楽しむ、という企画自体は1981年に大瀧詠一さんが「ヘッドフォンコンサート」という名前で渋谷公会堂で企画をしていたり、メディアに取り上げられていない範疇においても、長年様々なところで企画開催されていたのだと思います。

それ以降においてもサマーソニック08にてサイレントディスコエリアが開設され、フェス好きの間では話題のコンテンツになりました。しかしあくまでそれは参加する側の特別なイベントとして。自らそのシステムを使ってイベント開催ができる、というフェーズにはなかったかと思います。(そもそもサマソニのサイレントは機材が海外製で技適通ってないため日本人では扱えないという事情もありますが、、)

そして6年前、たまたま欧州のメディアを見ていてその存在を発見してしまった自分は、当日新卒で入った会社を辞め、得た給与を全てヘッドホンの購入に使い、そのせいもあって色々な関係性も失い、全財産がヘッドホン20台。あの日は確か、クリスマス。

エンターテイメントも経営も全く経験のなかった自分がなぜ見切り発車をしてしまったのか、そのあたりの話は脱線してしまうのでこちらをご覧ください。

誰も知らない体験、誰もやったことのない事業、経営のノウハウも持っていないしまさに暗中模索の日々でしたが「誰もが自由にどこでもフェスのような空間がつくれるようになったら、街はどんなに良くなるだろう」という光明にも及ばないような妄想だけを持っていました。

なのでサイレントフェスは始めた当初から独占するつもりはなく”手放す”ことを前提とした企画でした。自分のものとして独占するのではなく、日常に音楽がもっと緩やかに紐づくための仕組み、文化となることが動機だったので、事業モデルも自然にサポートする方向に進んでいきました。

とはいえ、黎明期。まずはこの概念を広めなくては!ということで1年目、2年目はがむしゃらにイベントを作りまくりました。(累計30本ほどの主催と50本ほどのサポート)

サイレントフェスは「場」との組み合わせが面白さを生む企画なので、全てのイベントを違う場所でという課題を課して、焚き火で言うところの「杉の葉(よく燃えるので着火材として使われる)」となる「場」を探し始めました。

最初はシェアハウス(自宅)、次に夜の公園、その次は昼の河川敷、ライブハウス、道路、暗闇、海、色々と試していく中でやっと火が着いたのが「こたつ」でした。(こたつだけに・・・)

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当時PR TIMESのスタートアップチャレンジを活用して、イベント毎にプレスリリースをしていたのですが、この企画だけがやたらとメディアに取り上げていただき調子に乗って連続で3回開催したのですが全ての回で満員御礼に。(その翌々年くらいの話ですが同企画をZepp Tokyoでも開催することになりました)

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メディアは火を増幅させる風のような存在。焚き木が不十分なまま火を大きくしてもすぐに燃え尽きてしまいますが、一瞬燃え盛った炎に誰かが気づいて、薪を持ってきてくれることもあるかもしれません。
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《おまけ》
*駆け出しのイベンターにオススメの無料でイベントPRができるサービス

・PR TIMES スタートアップチャレンジ
・イベントバンク
・Peatix
・Eventon
・Eventsearch
・ことさが
・ValuePress

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そして、薪を持ってきてくれる仲間が集い続けられる仕組みも、リリース前に併せて用意しておくと良いです。例えばそれはファンコミュニティとなるグループを作ることだったり、公式SNSをフォローしてもらう導線を流すことだったり、1度きりで終わりにならないためにも繋がり続けられる仕組みがあると次に積み重なっていきます。(Silent itの場合はサイレントフェスアンバサダーという制度をつくり、無料でイベントに参加し続けられる代わりに運営協力をしてもらうファンコミュニティを作ったり、毎回のイベントがお安く参加できるファンクラブをCAMP FIREで作ったりしてました)

サイレントフェス(DJ)以外にも、シネマやトーク、ライブやヨガなど想定しうる様々なユースケースを試し、何かと”世界初”をつけてリリースしていました。笑

そして、黎明期といえば何より心配なのはお金の問題だと思います。火が着くまでの体力をいかに保持するか、色々なやり方があるとは思いますが、自分は自身のプロジェクトと似たジャンルの複業をしていました。”ゆるい就職”という週3で15万稼ぐプログラムに参加して、VRの会社で週2だけイベント企画を中心としたマーケティングを手伝わせていただいていてました。重要なのはコミットする時間は明確に決めておくことと、出来る限り互いをクロスオーバーさせられる可能性を探ることかなと思います。

その他イベントとお金の話については上記のような記事を昔書いたのでよければ見てみてください。

火のないところに煙は立たず

こたつフェスという企画は、正直自分の中で手応えのある企画ではなく、ただ、何が当たるか分からないしとりあえずゆるくやってみるか〜という感じでリリースしただけのものでした。しかし成果はこれまでの手応えある企画達を上回るもの。その理由を考えてみると来場者と主催者側の温度感がようやく合う企画だったのかもと思いました。

大事なコンテンツゆえに、その思いやマジックエクスペリエンスをちゃんと伝えたいという主催側の想いは、時に深く長文になったりしてしまいまいがちで(カッコつけがちで)初めてそのコンテンツを見る来場者側からすると複雑でよく分からない風に映り遠ざけてしまっていたんだなぁ、、と。

それより「なんとなく面白そう」くらいでつくる企画の方が来場者側の温度感に近くて、メディアにも伝わったんじゃないかなぁと思います。今考えれば本当に基本的なことなんですけどね。。

そしてそれは”妥協する”ということではなく、入り口を柔らかく、面白くするということ。中に入った体験設計はむしろしっかりこだわり抜きます。

そして2年目くらいから、サイレントフェスだけでなく”量子力学的フェス”「Quantum」や”泥フェス”「Mud Land Fest」などなどサイレントじゃないフェスもつくりはじめます。その経験が相対的にサイレントの個性を改めて知る体験にもなりました。

火が着いて以降からはクライアントワークも増え、カレッタ汐留や品川シーズンテラスなどの商業施設から、横浜市や阿波市など全国各地の行政まで様々な場で体験づくりをプロデュースさせていただくようになりました。

そして開催からおおよそ翌年には銭湯で「ダンス風呂屋」という企画を催し、こたつフェスの火が消えた跡地には、湯けむりが立ち始めました。

サイレントフェス みんなのテレビ
読売
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湯けむりはあれよあれよと広がっていき、これをきっかけに方々からのご依頼は更に増え、企画は映画化するまでに至りました。そしてダンス風呂屋という企画自体もサイレントフェス同様に手放し、フリーライセンスで全国各地の銭湯で自由に開催できるように解放しました。

湯沸かしサナ子、29歳フライヤー

開催後くらいからSilent itでは”ローカルパートナー制度”という施策を打ち、全国各地各都道府県に1人ずつSilent itのパートナーとなるオーガナイザーを選定するプロジェクトを始めました。現在は京都(京都)、枚方(大阪)、水戸(茨城)、名古屋(愛知)、和歌山市(和歌山)のパートナーと協働しているのですが、この頃より全国で同時多発的にサイレントイベントの狼煙が立つようにもなってきました。

ローカルパートナー制度では営業代行の委託もしていて、都内のサイレントフェスに来なくても各地で開催されるサイレントイベントを起点に、参加された企業や個人からSilent itへ依頼が回ってくるようになったり、枝分かれ式に認知が広がって自走していく仕組みができてきました。

また、都内の大手代理店との仕事が増えてきたせいかDJ以外のユースケースも増え、例えば同会場で2つ以上のトークセッションを行う際の音響だったり、駅内の広告キャンペーンだったり、ASMRが流行りだした頃からはバイノーラルマイクを使った声優のライブナレーションだったり、幅広い用途でご利用いただくようになりました。(それに併せてHPもアイデンティティを明確にして、ユースケースごとに依頼できるようデザインを改修)

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当時は誰に話しても「サイレントフェス?なにそれ、哲学?」という感じでしたが、最近は初めてお会いする方でも「ああ、ヘッドホンのあれね」と反応が増えてきて、toBの企業イベントやキャンペーンからtoCのホームパーティーや屋上映画祭までシーンが広がり、幅広く薪をくべていただいている皆さまのお陰で、まだ火は灯っています。

本家サイレントフェスの方も常連の方々が増えてきて、なんというか初めて来た方は「え、踊っていいの」みたいな感じで踊りづらかったりするのですが、率先して巻き込んでいただいたり、サイレントならではの面白さみたいのを伝えていただいたり、文化が伝染するような光景も見れるようになってきました。

焚き火もだいたい、薪のくべ方やタイミング、種類など、誰に教わるでもなく、みんなで囲んでいるうちに誰かがやっているのをみて学んでいくものですが、カルチャーづくりというのはそういうことなのかもなぁと思います。

まずは焚き木を組んで、発火材を探して設置し、燃やして風を送り込んで、火が囲まれ始めたらどんどん手放して、自走をサポートする、そんな風にしてSilent itはお陰様で続いているような気がします。

そして今年は

冒頭に書いたように「逃げBar White Out」というサイレントフェスシステムを常設したMusic Cafe&Barのような場所を横浜につくりました。

逃げ場ビジュアル
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”いつでも、どこでも、だれでもできる、未来型音楽体験”というアイデンティティは変わりないのですが、サイレントフェスの色をより濃く伝えられる空間がこちらです。世界観としてはアンダーグラウンドカルチャーではなくて、超オーバーグラウンドカルチャー。爆音でなく無音で、暗くなくて明るくて、地下でなくて1階、繁華街でなくベッドタウンの駅徒歩1分で、アルコールでなくエリクサー、ジャンクフードでなくオーガニックフード、といった形で既存のクラブの真逆の形式をとっています。

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ここで毎月満月の夜に「Full moon silent fes」というエントランスフリーでエリクサーでアガれるサイレントフェスを開催しているほか、こちらの箱でサイレントイベントを開催する場合は箱代とセットで通常の機材レンタル料金より格安でレンタルできたりします。 (詳細はこちら)

タイミングを見て平日の昼間にもレギュラー開催したいと思っていて、例えば近所の主婦が家事のリフレッシュに踊りに来る、営業周り中のサラリーマンが気持ちのリセットに音楽を聴きに来る、買い物中の老夫婦がチルアウトしに来る、そんな感じでもっと日常に紐づく形でサイレントの、音楽の新しいカルチャーをここから作れないかなと画策中です。

一緒にサイレントフェスという火を囲んでくれる仲間もいつでも募集中◎
7年目のSilent itもどうぞよろしくお願いします:)


Silent it
アメミヤユウ



「こんな未来あったらどう?」という問いをフェスティバルを使ってつくってます。サポートいただけるとまた1つ未知の体験を、未踏の体感を、つくれる時間が生まれます。あとシンプルに嬉しいです。