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演技する想像力とワークショップ

私はワークショップのファシリテーターをしていて、とくに正解のない問いにアイデアで答え出すための場づくりに取り組んでいる。ビジネスの現場では新しい商品の開発やビジョンづくりなどを目的に多くの企業がワークショップを取り入れている。学校教育でもワークショップ型の授業が盛んに行われているし、創造性を引き出す場として芸術活動、住民参加の街づくりなど幅広い分野でワークショップは実践されている。そのなかでも、最も歴史が古いのは演劇だ。世界で初めてワークショップが行われたのはハーバード大学の演劇の先生による授業で、授業の枠を超えた活動だったことから区別するためにワークショップと名付けられたそうだ。

数年前、私がとっていたある授業で俳優の方がゲストに来て、役者同士でやっているワークショップを経験させてもらったことがある。身体と思考を動かしながら即興でアクションするというワークで、思いつかないようなアイデアが生まれる経験をした。そこで学んだのは、目の前のアイデアから目を離し、周囲の人の動きや気配を五感でとらえることの大切さだった。役者はこうやって想像力を鍛えているのか、と実感した。私はこの授業がきっかけでワークショップの楽しさを知り、ファシリテーションの力を信じるようになった。

無意識にとる癖(くせ)と表現は違う

もうひとつ、これは即興とは別の話になるけれど、劇作家・演出家の鴻上尚史さんが『演技と演出のレッスン』という著書のなかで「癖と表現は違う」という話をされている。分かりやすい言葉で演技の核心に触れている気がするので、紹介しておきたいと思う。

あなたが胸の前で両手を組んでみたとき、左右どちらかの親指が胸の方にくる。その次に左右の指を組み換えるとムズムズして気持ちがわるくなる。違和感なく無意識に両手を組んだ方がその人の癖ということだ。

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しかし、ドラマや映画のワンシーンで、組んだ左手の薬指の指輪をアップで見せる場合、俳優は指輪を目立たせるために、左右のどちらの指を上に組むのかを選ぶ必要がある。何も考えずに無意識にアクションするのはただの癖で、考えられる可能性の中からひとつを意識的に選ぶのが表現ということなのだ。

私はアイデア発想のワークショップでファシリテーターをするときに「思いつきとアイデアは違う」という話をしている。だからこの「癖と表現は違う」という話は胸にストンと落ちた。同時に役者の演技を支えている想像力や技術について、もっと知りたくなった。

私がやっているような正解のない問いと向き合うワークショップで求められる想像力と、役者が身に着けている想像力とでは訓練の仕方も使い方も違う。しかし、想像力によってアウトプットの深さや説得力が違ってくるところは似ている。そして役者同士が即興のなかでお互いの違いを受けとめたり、表現力を鍛えたりするワークには学ぶべきヒントがたくさんあると思っている。


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