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「アイデアと思いつき」について、ファシリテーターとして考えたこと

私はワークショップをとおして「正解のない問いにアイデアで答えを出す」ことに向き合っている。ビジネスではそれを「創造的に問題を解決する」と言うこともあるので「答えを出す」というよりも「答えを作る」と言った方がよいかもしれない。そこでファシリテーターをやっていると「アイデアって何?」「アイデア発想で大切なことは何だろう?」と思いをめぐらせることが多くなる。ここでは、アイデアについて考えてきたことを書いてみたいと思う。

アイデアと思いつきは違う

アイデアとは何かを考えながらファシリテーターをしていて、ふとあることに気づいた。アイデアをたんなる「思いつき」だと誤解している人がいるのだ。それもかなりたくさんいる。ふせんに思いついたことを書き出せば、それがアイデア発想だと思っている人もいる。

「俺さ、いま、いいこと思ついちゃったよ」という枕詞はふだんの会話でよく耳にする。そういうのが得意な人(いわゆるアイデアマン)に依頼しても、おそらく創造的に問題を解決することはできない。なぜなら、その場の思いつきしか出てこないからだ。それで解決のアイデアが生まれるなら、ワークショップもファシリテーターも必要ない。

だからといって思いつきを否定しているわけではない。思いつきそれ自体は大切だ。むしろ私はファシリテーターとして、その場の即興的な思いつきを歓迎するし、ワークショップの参加者同士がお互いの発想を結びつけたり、相乗りできるように工夫もする。その一方で、漠然と思いつきを出して「いいね」「それ、ヤバい」とほめ合うだけのワークショップも何度か見たことがある。それはリクリエーションのようなもので、参加しているときだけが楽しくて、あとに何も残らない。

ひとりの思いつきよりも、みんなで考えたアイデア

例えばこんな経験をしたことはないだろうか。会議やミーティングで、声の大きな人、弁の立つ人が思いつきで発言をする。そうした人はベテランや年長者であることが多い。何か言いたそうな若手もいるが、ここで口を挟むとろくな目に合わないことを知っているので発言しない。そうこうしているうちに、その思いつきの案は議論が深まることもないまま通ってしまい、巻き込まれた人たちの気持ちの中にもやもやの嵐が吹き荒れる。ほとんどの場合、こうした思いつきは実効性をともなわない。アイデアをたんなる「思いつき」だと思っていると、そういうことが起こるのだ。

だからこそ、アイデア発想の場づくりをするときには「アイデアと思いつきは違う」ことに自覚的でありたいと思う。一人の思いつきでものごとが決まるよりも、みんなの発想をつなげて新しいアイデアにたどり着きたい。そんな理想的なワークショップのために何をしたらよいかを自問自答しながら、ファシリテーションをしている。

アイデアを考えるときに大切なこと

ではどのようにアイデアを考えるのかについて、話を進めてみよう。以前、デザインエンジニアでTakram代表の田川欣哉さんのワークショップに参加したことがあり、アイデアとは何かを考えるヒントをもらった。イノベーションとは新結合であるという話のなかで「独創的なアイデアは無から生まれるのではなく、以前から存在していたもの同士が出会い、結合することで生まれる」と田川さんは語った。さらに「それが社会に浸透して初めてイノベーションだといえる。浸透するというのは人々に使ってもらうことだ。どんなに独創的なものでも使ってもらえなければ、それはチャレンジでありイノベーションではない」と教えてもらった。

アイデアを生み出すことに慣れていない人にとっては、イノベーションという言葉を使うと難易度が上がってしまうかもしれない。なので私はアイデア発想のファシリテーションするとき、田川さんのワークショップで学んだことを翻訳しつつ、自分の経験もふまえながら、次のようなことを伝えるようにしている。

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アイデアで人の気持ちが動くかどうか

このうち3つめの「人の気持ちが動く」についてはもう少し説明が必要かもしれない。人の気持ちが動くとは、人が嬉しくなったり、幸せを感じたり、ほっとしたり、あるいは明日が今日と比べてもっと良い日になると思えることだ。それに向けてアイデアを研ぎ澄ましていく。そういうアイデアこそが人々に受け入れてもらえて、社会に浸透する。つまり問題解決の答えになると思う。

また自分たちのアイデアが「問いの答えとしてふさわしい」かどうかを見極めるのもポイントだ。そのためには何のためのアイデアなのかを理解している必要がある。アイデアはあくまでも手段であって、手段は目的(問い)のためにあるからだ。じつはワークショップで良いアイデアにたどり着けるかは、アイデア発想の前に良い「問い」を設定できるかどうかにかかっている。

紹介した3つはどれも重要なのだが、とりわけ最後の「人の気持ちが動くかどうかを考えて、問いの答えとしてふさわしいものをひとつ選ぶ」には、私がアイデアを考えるときに大切だと思っていることがメッセージとして込めてある。

ワークショップの醍醐味

ところで話は変わるけれど、いまから120年ほど前、アイスクリームは紙皿で販売してスプーンで食べるものだったらしい。1904年にアメリカのセントルイスで万国博覧会が開催されたとき、たまたまアイスクリーム屋とワッフル屋が隣あわせで店を出していた。ある日、アイスの紙皿とスプーンの在庫が切れてしまいアイスクリーム屋が困っていたところ、ワッフルを円すい形に巻いてアイスを配るというアイデアをとなりのワッフル屋が考えた。そこからコーンとアイスが結びついて、いまのソフトクリームが生まれたという。(画像は20世紀の出来事シリーズとしてセントルイス万博を題材にしたアメリカの切手)

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ファシリテーターをやっていると、思ってもみなかったアイデアが生まれる瞬間に出会うことがある。それがワークショップでアイデアを生み出すことの醍醐味だ。そんなとき、このソフトクリームの話を思い出す。万博の会場で隣り合わせだったというだけで、何が生まれるかわからないという面白さ。そして、そのアイデアは万博を訪れた人たちの気持ちを幸せにしたはずだ。私はそんなふうにアイデアを生み出すことの面白さを一人でも多くの人と分かち合いたいと思っている。


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