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「神様が叶えてくれることはそう多くないから、」

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ならざきむつろさんの企画、「note Advent Calendar」 に出させていただいた小説をまとめたものです。
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「負けないこと。」

「負けないこと。」

『負けないように頑張りなさい。』

と、ある日子どもたちを前にして言った。

もう修子はいなくなった後だった。
たしか、二人の初めてのミニバスの試合を迎えた日曜日の朝に、玄関で声を掛けたのだ。
なぜそんなことを言ったのか、今となってはもう思い出せない。

『負けないって、相手のチームに?』

真っ直ぐな瞳は、揺らぐことなく僕を見た。
唐突で、恐らく何かを深く考えているわけではなく、ただ聞いてみただ

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ならざきむつろさんの企画、note Advent Calendar用に書かせていただいたお話を1つのマガジンにまとめました。全五話で、現在四つ公開しております。よろしければ。私の担当は1日だったのですが、もうクリスマスまで残り後僅かという時間の流れの速さに驚きを隠せません。

note  Advent Calendar 2014.12.01

note Advent Calendar 2014.12.01

※こちらは、ならざきむつろさんのクリスマス企画に参加させていただくnoteになります。

ならざきむつろ様 ⇒ https://note.mu/muturonarasaki

詳細 ⇒ https://note.mu/muturonarasaki/m/me1eb4af839f0

本日12/1に私がお届けするのは、クリスマスにまつわるひとつの出来事を、それぞれの視点から描いたお話です。

大変申し

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「ガールズトークのススメ」

「ガールズトークのススメ」

「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」

大抵の人間が一度は耳にする有名な書き出しが妙に気になったのはいつだろう。

慌てて開いた現代語訳の先を目で追えば、結果として書かれていたのは「ではなぜ人にこれだけの差があるのだ。」というような続きだった。

小さい頃から祖父の書斎にある本を片っ端から読んでいたが、その中で一番、本を読みながら考えさせられた。

そして気づく。

「人が人の上に人を置

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「君のために口を塞ぐ」

「君のために口を塞ぐ」

世の中「幼馴染み」なんて括りに幻想を持ちすぎだ。

「お前ら出来てんじゃねーの?」

高校に進学して、本格的に面と向かって言われたのは、確か高1の一学期期末前だった。
そんなんじゃねーよ、と、適当にあしらってから、幼馴染みというだけで、まだ付き合えてもいないのにこれだけからかわれるなんて、損でしかないな、と思った。

「じゃあさ、ロングとショートだったらどっちがいいよ?」

カズがどこから持ってき

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「奇跡は起きないって知ってる。」

「奇跡は起きないって知ってる。」

独り身、バツイチの女にクリスマスの予定があるなんて、店長は随分疑うような目で見ていたなぁ。

修子は先週、シフトを出したときの店長の顔を思い出して、もう一度顔をしかめた。

何があるわけでもないのだけど、と、説明しようとすると余計に怪しく感じられて口を閉じたが、やっぱり話しておいた方が良かったかしらと頭を悩ませる。
気づけば12月も半ばだ。

シフトを、決められた用紙に記入しながら、それ以外の自分

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「たった一つの願いごと」

「たった一つの願いごと」

「言っておくけどね、別に予定がなかったわけじゃないから!」

世の中がクリスマスに浮かれている中、人もまばらな下り列車に揺られつつ、果歩はつっけんどんに言い放った。

実際、別に予定はなかった。

「わかったわかった、悪かったよ付き合わせて。」

隣に座る遼太がさも面倒臭そうに携帯をいじりながら返答する。そういうことにしといてやるよ、とでも言わんばかりの横顔が、また殊更に腹が立つ。
果歩は遼太を視

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