見出し画像

カレー味の羊水と、僕の日報

「今日はあなたの服を買いました。気に入ってくれるかな。」

「現在、福岡旅行中です。ラーメンの麺の硬さ、びびって普通にしちゃったよ。カタにするべきだった?」

「出前とっちゃいました。今日はカレー味の羊水かな。」

僕は、妻のお腹の中の人に、毎日話しかけている。聴力がはっきりする前の段階から、日報をかかさず送っている。

生まれてきてすぐに、「この人が日報の声の主か!」と気づいてもらいたいから。少なくとも関係者だということは認識してもらいたい。

あの抑揚のない声は、パパだよ。

できるだけユーモアを交えて話しかけているが、もちろん日本語がわからないだろうし、お腹の中では「ガサガサ、ザーーーー」としか聞こえていないだろう。

何も届いてなかったら悔しいよ。

まだ顔も見ていないし、声も聴いていないのに、あなたを推すことが確定している。これはすごいことだ。この現象は、説明のしようがない。

お腹の中でにょろにょろと動いているのを手のひらで感じるたびに、すでに愛おしくて仕方がない。

白黒のエコー写真や、不自然に盛り上がったお腹を見て、あなたの存在をかみしめる。

なんとも不思議な感覚。今しか書けないこの感覚は、書いておくべきだと思った。

すぐそこにいるのに、10ヶ月も焦らしてくる。こんなにも登場が待ち遠しいことはない。外を歩いているときも、ふとしたときも、いつもあなたのことを考えている。

街中で見るベビーカーや抱っこひもを目で追ってしまう。今までは全然子供が目に入っていなかったのに、いつの間にか子供だらけのようにも思える。

バイアスってすごい。

人生のレールが、ガコンッと別のルートに入ったような感覚。この分岐は、人生の中で最大のものだろう。

どんな子になるのか、なにをして遊ぶのか、好きな食べ物はなにか。いろんなことを経験してほしいし、いろんなことを教えてあげたい。

でも、あなたがどんな子になるかは、あなた自身が決めることだ。
教わることも多いんだろうな。

思春期に入って、口を聞いてくれなくなったとしても、心の中でこの日報は続けていきたいと思う。

元々、一方的な日報だし、聞いてくれなくてもいい。

今年30歳になった僕は、あなたが20歳になる頃には50歳になっている。どんな父親で、どんな娘なんだろうか。
その頃には、親の気持ちがわかるようになっているだろうか。

「もう、50歳なんだからしっかりしてよ」なんて言われて、何も言い返せずにただニコニコしているかもしれない。

オムツを替えたり、ゲップをさせていたときのことを思い浮かべて、泣いているかもしれない。

そんなときは、「あ、うちのパパ更年期きたわ。マジか。」と思っておいてね。

胎内記憶があるとしたら、どの日報が良かったか聞きたいな。

あと少しで会えるあなたへ。

「今日は何味の羊水かな。」

↓産まれた日の記録

「画面右下の♡マーク」で評価してもらえると励みになります。 「気に入ったらサポート」ボタンをタップしていただけると、嬉しいです。 使い道は、すべて水分と決めてます。 ・100円→セブンカフェのコーヒー ・500円→スタバで何かしら ・1000円→Amazonで2Lの水9本