吹雪のち、快晴。長女が産まれた日のこと。

猛吹雪の朝に

AM 8:00
吹雪の中、歩く。大雪警報が出ていて、視界が真っ白になっている。いつもなら絶対に外に出たくない日だが、今日は違う。

我が家に子供が生まれる日だ。ギュッと重い雪を踏みしめながら、病院へ向かう。

公約「元気な赤ちゃんを我が家に」

AM 8:30
妻と一瞬だけ面会。膨らんだお腹と一緒に、握りコブシを顔の横につくって、選挙ポスターみたいな写真を撮った。

帝王切開直前にもかかわらず、妻は笑顔を見せてくれた。母は強い。本当に尊敬する。

「ご主人はここで待機していて下さい。先に赤ちゃんがこのホールに戻って来ます。」
病院の方からそう告げられ、待機開始。

自販機からの助け舟

AM 8:40
10分しか経っていない。もっと待っていたような感じがする。
エレベーターが上下し、今いるフロアの数字が点滅するたびに、そわそわする。

無事に産まれてきてほしい。本当に無事に産まれてきてほしい。

異次元の体感時間

AM 8:50
ついに座っていられなくなり、立ち上がる。意味もなく立ち歩く。

AM 9:00
見送ってから、そろそろ30分が経つ。
間違いなく、人生で一番体感時間が長い30分だった。本当に時間の流れが遅い。永遠のように感じる。

AM 9:10
外を眺める。相変わらずの大雪。ふわっとゆっくり降るパターンの雪なので、余計に時の流れが遅くなっている気がする。

AM 9:20
広いホールで、深呼吸をする。
エレベーターが開く音、自分の呼吸の音、「ヴーーー」という鈍い音だけが聞こえる。
自動販売機って、こんなにうるさかったんだ。ちょっと音が気になるな。

水を買う。必要経費の120円。
謎の吐き気と不安を紛らわせるための飲料。常に何かをしていないと、複雑な感情に飲み込まれそうだった。

最初は音が気になっていた自動販売機も、水の存在に気づかせてくれたという面では、うるさくて良かったのかもしれない。
おかげで少しラクになった。

AM 9:40
病院の方が来てくれた。
「先ほど、無事に赤ちゃんが産まれました。おめでとうございます。もうすぐこちらに来ます。」

赤ちゃんとの初対面

AM 9:50
待合室に、赤ちゃんがきてくれた。数分だけ顔を見ることができる。
一生懸命に口をもごもご動かしては、ちらっとこちらを見る。

この子が10ヶ月間、妻のお腹にいたんだね。
我が子は、こんな表情をするんだ。
お、そんなに髪の毛生えてるの？

たくさんの言葉が浮かぶ。

いつも気にかけてくれた親。いつも通りでいてくれる友達。いつも一緒に楽しく過ごしてくれた妻。

赤ちゃんの表情一つで、いろんな人たちの顔が目に浮かび、感動した。

今日のことは絶対に忘れない。自分の親が、自分の誕生日を大事に思ってくれる理由がわかった気がした。

妻、帰還

AM 10:40
出産を終えた妻が無事に戻ってきてくれた。本当に感謝の気持ちでいっぱいになった。「お疲れ様」では、到底言い表せない。

持病起因の入院、毎日2回の自己注射、切迫早産、いろんな困難を乗り越え、元気な赤ちゃんを産んでくれた。

つらいことも何度もあっただろうし、我慢も多い10ヶ月だったと思う。落ち着いたら、とりあえず美味しいものをたくさん食べてほしい。

新生児室での赤ちゃん面会

AM 11:10
体重測定などを終えた赤ちゃんが新生児室で待っていた。
2270g。手も足も何もかもがミニチュア。赤ちゃん過ぎる。かわいいがすぎる。

「毎日話しかけてたんだよ。パパだよ。わかるかな。」
「指ちっちゃいね。握ったね。」
「色んな音が聞こえるね。びっくりだよね。」

ころころと変わる表情に目を奪われる。ずっと見ていられる。この、か弱い生き物を、全力で保護しなければいけないという使命感も覚える。
これが親なのか。保護者って、そういうことなのか。

すべての人に親がいる、という当たり前の事実を改めて認識した。そして、人類はみんな赤ちゃんからスタートしている。

快晴の昼下がりに

PM 12:30
病院から出ると、外はすっかり晴れていた。朝の猛吹雪は一体何だったんだろうと思う程の快晴。
これ以降は、ルンルン気分で子供関係の手続きを役所で行っただけなので、割愛。

生きていると、良いことも悪いことも起きる。朝には吹雪でも、長くは続かない。今日の天気に、そんなことをいわれているような気もした。

つらい時も楽しい時も、家族の力になれるようにがんばっていきたい。
元気に生んでくれてありがとう。元気に生まれてくれてありがとう。

↓産まれる前の記録