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人生を楽しむ天才 ~岡田悠さんの「0メートルの旅」を読んで~

2020年、旅行が幻になった。残念極まりない。

各地の空港のラウンジがいつでも使い放題のカード持ってんのにさ。

隙あらば、どっか行こうと思ってんのにさ。新婚旅行もお蔵入りだ。

自己紹介で「趣味:旅行」と必ず書くほど、旅行好きだったのにさ。


あー、旅行にいきたい。せめて旅行に行った気分になりたい…
誰かの旅行記で疑似体験したい。平日の昼休みに、気持ちだけでも旅に出たい。

そう思った僕は、
会社員でありライターの岡田悠さんの本、
「0メートルの旅 日常を引き剥がす16の物語」を購入した。

旅行って、何が楽しかったんだっけ?
旅って、なんなんだろう?

そんな気持ちで読み進めた。岡田さんの視点や、ものの考え方に、いちいち「おもしろいな~」とぶつぶつ言いながら、あっという間に読み終えてしまった。

読み終わったころには、「旅って、やっぱり必要だな」と思い、それと同時に、「別に遠くに旅に出なくたって、すぐそこで冒険できるじゃん」とも思えた。

「0メートルの旅」は、

・第1章:海外編

・第2章:国内編

・第3章:近所編

・最終章:家編

と、旅の目的地の距離が徐々に0メートルに近づいていく構成になっている。

海外編

最初の「南極編」は、16,350,000メートル。離れすぎて、ちょっとわけがわからない。南極に行ったことがないし、具体的に想像もつかない。

なのに、現地のペンギンがめっちゃクサかったり、南極の氷海へダイブしたり、岡田さんの体験が手に取るように伝わってくる。

秀逸な例えで、わからせてくる。文字だけなのに、臨場感がある。寒い部屋が、より寒く感じた。

海外編は南極のほか、初めての旅「モロッコ編」や、有名なバズnote「イラン編(経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった)」など、どれも読みごたえのあるエピソードばかりだった。

中でも、好きな話が「パレスチナ編」。

バンクシーが最初に描いた壁絵がある街「パレスチナ」で、バンクシーの作品をめぐって、ある物語が生まれるんだけど、これはぜひ本作で読んでほしい。

僕が好きだと思ったのは、この文章。

街を案内してやるよ、とキャップ帽が言う。こういう自称ガイドにはついていかないのが旅の鉄則であるが、かといって話しかけてくる全人類を無視していると無言で旅が終わってしまう。その一人に応じてみることで、予想のつかない物語が始まる可能性だってある。(P90より)

街をうろうろしている"自称ガイド"は、当然スルーすることもできたし、本人も言うように、「怪しいから無視しろ」って地球の歩き方とかにも載ってるし…

「思い通りにならないこと」や「人とかかわることで起きる何か」を求めて、実際に行動してみる岡田さんの姿勢自体がおもしろい。自分がその場にいたら、と考えると間違いなく無視してしまう。だって、こわいもん。

異国で知らない人に絡まれるのはこわい。数年前、パリのモンマルトルを訪れた時、185cmくらいの黒人9人組に腕をガシッとつかまれた時のことを思い出した。会話してみたら何か生まれるかもしれなかったけど、バッドエンドしか見えなかった。

国内編

海外旅行では異文化のうわべを撫でているような感覚に陥るが、国内旅行では深いところまで沈んでいける(P147より)

僕は海外旅行へ行ったとき、「観光客に見せたい部分しか、僕には見えなかったんだろうな」と思う。ダイジェスト版だけ見たような気持ち。

国内旅行は、日本人だからこそ深く楽しめる部分があるけど、刺激が足りなく感じる。この本を読むまではそう思っていたが、それも楽しみ方次第だと思いなおした。

岡田さんの旅は、行く前の準備や楽しむ角度がおもしろいんだと、国内編以降を読んで確信した。行く場所自体の魅力だけでなく、おもしろそうなことへのアンテナを張っているからこそ、書ける旅行記がそこにあった。

「仙台編」の”宮城県でエルサルバドルに触れる旅”

宮城県でエルサルバドル?何言ってんだ、この人?と思ったが、その発想と行動力に笑った。

仙台で、「日本代表 VS エルサルバドル代表」のサッカーの試合があり、エルサルバドル人と交流を試みる話。

行く前に、エルサルバドル代表のSNSをフォローしまくったり、自作でエルサルバドルTシャツを作ったり、準備の量がすごい。本田圭佑並みに「いい準備」してる。

どう転んでも、おもしろくなる状況にもっていくのがうまい。オチはぜひ実際に読んでほしいが、周りの人の巻き込み方が、さすが。

「箱根ヶ崎駅編」では、ゴールデンウィークにできるだけ空いている場所を探すために、東京都内にあるすべての駅が記されたデータベースを自作。実に930駅。空いている駅を探すためにそこまでする?

知らない駅に降りるというのは、いつだっていいものだ。冒険心がくすぐられて、何もかもが新鮮に見える。(P184)

未知への探求心は、近い場所でも満たせる。海外旅行派の僕に刺さった一文だった。

近所編

「近所編」は、岡田さんの遊び心が光っていた。寿司屋のクーポンを3年間記録し続けて規則性を発見した狂気のnote「駅前の寿司屋編」や、1年前に自分宛に書いた手紙を探す「郵便局編」。

僕が特に好きなのが「畑のフランス料理店編」。

江戸時代の古地図で現在地を確認できる「大江戸今昔めぐり」というアプリを使って一週間生活してみた話。いつもの道と200年前の道を比較して、冒険に出る。この人は暇さえあれば何か新しいことをやってくれる。本当にすごい。

「古地図にある道だけを通る」というルールをつくって、迂回しながら進む。

自分で作り出す物語。行動するために、自分でデータ集めやルール作りを徹底しているからこそ、ついてくる結果。

うまくいかなかったことも、試行錯誤して楽しむのがうまい。今のご時世に必要なマインドなんじゃないか。

僕も、新婚旅行に行けないことを逆手にとって楽しむしかない。そう思った。

家編

部屋の中でエアロバイクを174日間こいで、Googleマップ上で日本を縦断した話。

このパートは、岡田さんの旅に対する思いと、旅の正体に迫った文章が詰まっていた。

今いる場所が、近所だって、南極だって、部屋の中だって、自分の受け取り方次第でワクワクできる。

普通の毎日も特別な景色だし、旅の景色も自分の日常の延長なんだと思った。

僕も、岡田さんのように、

「いま目の前にある0メートルを愛すること」を大事にしたい。

旅ができない今、旅を疑似体験した気分になれる「0メートルの旅 日常を引き剥がす16の物語」


旅好きな方も、そうでない方にも、とってもおすすめです。

あと、内容にあまり関係ないですが、結婚した理由に共感しました。僕もそうでした。↓

結婚したのは、2人のほうがなんか面白そうだったから。(P33)

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