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ダニエル・ハリトーノフ 公演直前インタビュー

11/27から始まるピアノリサイタル「ドイツ・ピアニズムの巨匠~ロマン派3つのソナタ」に向けて、ダニエル・ハリトーノフにリモートインタビューを行いました。

2年ぶりとなる来日公演で選んだプログラムへの思い、作曲することについて、日本での隔離生活についてを伺いました。特に、今回演奏する曲について、解説を交えながら熱く語ってくれました!

リサイタルにお越し頂く前に、ぜひご一読ください♪

★~★~★~以下、インタビュー~★~★~★

Q1 パンデミックで厳しい状況の中、日本に来ていただきありがとうございます。今は隔離期間中ですが、どのようなお気持ちですか。また、どのように過ごされていますか。

 こちらこそ、ありがとうございます。私はこの状況にとても敏感になっていますが、このような簡単でない時代に、隔離の有無にかかわらずコンサートで演奏することができるということはとても幸運です。
私はこの方策(隔離など)の必要性について完全に理解をしています。特に日本は、そうすることで夏季オリンピックの開催を成功させることができましたし、とても尊敬しています。
 この隔離期間中、私は筋肉に関係するエクササイズを行うようにしています。もし隔離後も元気でいたいならば、健康を維持することは非常に重要です。もちろん、ピアノの練習もしていますよ!


Q2 -1.「テンペスト」と「悲愴」は初期から中期に作曲された有名な作品ですが、その頃のベートーヴェンの苦悩と関連してとても強い感情を表すような要素があるように思います。これらの曲を演奏する上でのあなたのお考えをお聞かせください。またはそのような背景よりも、曲そのものに注目した演奏をされますか。

 もちろん、私は歴史に注意を払っています。 第一にこれはとても面白いプロセスですし、第二に私は背景を知らずにこれらの作品を演奏することはありません。
 間違いなくベートーヴェンは音楽史上最も偉大な人物の一人であり、クラシック音楽界への彼の影響は貴重です。彼は演奏者、作曲家という2つの方法で影響を与えました。演奏者として、「オーケストラ」の方法…つまり、すべての音域、ペダル、ダイナミックなコントラストを積極的に使用して、現代のピアニズムを発明しました。 作曲家としては、彼のソナタ形式の継続的な改善により、次世代の作曲家がその形式を使用する際の新しい方法を考案しました。例えば、リストの1楽章のソナタや協奏曲のように、あるいはシューベルト(さすらい人幻想曲)やショパン(バラード1番のソナタ=アレグロ形式)のように、ソナタ以外の作品でもこの形式を使用することができました。
 多くの音楽学者は、ベートーヴェンのソナタはピアノ曲としてのソナタのためだけでなく、交響曲のための彼自身の「実験室」でもあると言っていました。そして私の見解では、ピアノソナタ第8番「悲愴」は、その両方の素晴らしい例です。ベートーヴェンは以前のソナタ(1番や5番など)からいくつかのアイデアを取り入れ、劇的でありながらコンパクトで統一された状態に改善し、同時にそれは後の第5交響曲を予期させます。いくつかの大きな類似点があるのです。ソナタの第1楽章の終わり、交響曲の第3楽章に見られるメインのライトモティーフ(「邪悪な運命」または「運命の打撃」)、第2楽章の美しいメインテーマ ー弦楽四重奏によく合いチェロの音域で始まるー などです。唯一の大きな違いは、エンディングです。交響曲では輝かしいハ長調であり、ソナタでは運命と闘う準備ができていることを示す最後の決定的なパッセージです。それは、1797年にベートーヴェンの病気の最初の症状が現れた後、彼の最も暗い時期の始まりにすぎませんでした。
 そして最も暗い時期のピークは、ベートーヴェンが友人のヴェーゲラーへの手紙(彼の聴覚の問題について書かれたもの)そして「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた頃で、ピアノソナタ第17番「テンペスト」を完成させた1802年でした。このソナタの周りの状況を見ただけで、ベートーヴェンがその瞬間に感じていたもの、音楽にこめたものを想像することができます。それは悲しみから絶望まで、また少しの希望を持った感情の混合です。ノーベル賞を受賞したロマン・ロランは、「このソナタの作曲者自身が聴き手に話しかけている」と書きました。また、ピアノソナタ第17番はピアノソナタ第14番「月光」の論理的な続きであるという意見もあります。ベートーヴェンがそれについてどう思ったかはわかりませんが、それらは少なくともお互いを反映しているようなものです。本当に個人的なことを言うと、私もその意見に同感です。(特質の観点から)1楽章と3楽章の場所が入れ替わっています(つまり、3楽章が1楽章的な特性を持っているということ)。もし、それだけではあなたの興味を刺激するのに十分ではないということでしたら、もう一つの事実があります。ピアノソナタ17番はベートーベンのピアノ作品中、唯一のニ短調なのです。とてもユニークですよね。


Q2 -2 ブラームスのピアノソナタ1番は最初に出版された作品で、若きブラームスの思いのこもった作品です。また、彼の音楽はベートーヴェンに影響を受けていると言われています。ブラームスのピアノソナタの中からこの1番を選んだ理由を教えてください。

 ブラームスは、ベートーヴェンに多くの影響を受けた作曲家であり、それは彼の最初のピアノソナタではっきりと目立ちます。この曲は実際には2番目であり、作者の意志によって作品1として公開されましたが、初期の若々しい時代のものです。統一された主題素材(第1および第4楽章)、非常に活気に満ちた飽和したテクスチャ(ブラームスのお気に入りのコード、オクターブ、ダブルノート)、および多くの強弱記号ーこれらはすべてベートーヴェンの音楽に由来します。ブラームスはこの後のソナタで「fff-ppp」という範囲に戻ることは決してないので、その動的コントラストを少し詳しく見る必要があります。その後の作品では最大値は「ff-pp」のみとなるので、これはこの作品に少しユニークさも与えます。
 そしてブラームスの作品には引用もたくさんありますが、これはベートーヴェンから始まり、シューベルト、シューマン、さらにはパガニーニまで続き、古いドイツの歌で終わります。最後の曲は最も興味深いものです。というのも、このソナタ1番の第2楽章のバリエーションのテーマとして使用された曲(「Verstohlen geht der Mond auf」)をブラームスは最後に出版された作品「49のドイツ民謡集」の最後の曲にしているのです。
 このソナタはブラームスにとって始まりの象徴であったと言えます。そして今回の私のプログラムのアイディアは、世界の現在の状況と一致しています。暗くて困難な時期(ベートーヴェンの8番と17番)の後には、常に何か新しい明るい始まりがあるのです(ブラームス1番)。


Q3.アンコールで自作の曲を演奏されることもありますが、どのようなイメージ、シチュエーションで作曲をされるのですか。

 私にとっての作曲は、自分自身の感情や感覚を表現する機会です。時々、楽器を弾いているといくつかの短いアイディアが自然に浮かんで、後で抽象的または具体的なイメージを伴いながら、完全な一曲へとなります。もしそれが起こったら、私は幸せなのです。そしてその曲をコンサートで演奏することが出来たなら、2倍幸せです:)


Q4.日本の観客の皆さんへ、メッセージをお願いします。

 親愛なる日本のみなさんへ!この2年間、皆様にお会いすることが出来ず寂しかったですが、また戻ってくることができてとても幸せです。皆様にもうすぐお会いできることを願っていますので、健康には気をつけてお過ごしください。コンサートで会いましょう。そして楽しんでくださいね!

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(インタビュー/文 インプレサリオ東京)


★公演詳細はこちら→ https://impres-tokyo.com/

★チケットご購入はこちら→ https://myticketnavi.com/event/list

★ダニエル・ハリトーノフ 公式Instagram↓
https://www.instagram.com/danielkharitonov.official/

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