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2023.2.19~20 わたしに戻る旅-後編-

旅の記録も後編になりました。社会人6年目の春先、自分と社会の狭間で揺れるそんな時期に思い切って計画した1週間の旅。最後まで良い旅だった。

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岡山のゲストハウス「とりいくぐる」で目覚める朝。新潟を離れてもう6日になる。昨日の事例発表の仕事が終わったのもあり、晴れの国のはずの岡山が雨模様なのもあり、なんだか気が抜けたような気分。
女性ドミトリーはほぼ満室で、あちこちでごそごそと物音が聞こえる。古い建物なので基本的に寒いけど、私はすきま風に慣れているしそもそも新潟よりきっと気温は高い。

したくをして、昼の鳥取行きの電車の時間までつかの間の岡山を楽しむことにする。この間まで岡山に住んでいた友人に聞いた、朝からあいているカフェに入る。スコーンとカフェオレを頼んでほっと一息。
昨日調べて、近くにTwitterをフォローしていた本屋さんがあることがわかった。けっこう歩くけれど頑張ろう。昨日までに買ったおみやげや本が重いので、まずは郵便で新潟に送る。駅中の郵便窓口は忙しそうで、そっけない対応だった。

住宅街と路地を歩いて行った先の本屋「スロウな本屋」は落ち着いた古民家風の建物の中にあった。入ってみると、ずらりと絵本が並び、その奥にはこだわりを感じる新刊本たちが並ぶ。好みの本がいくつもあったし、読書会なども開催されているそうで、これはいい本屋に来れたなと思った。その時間はお客さんが私一人だったので、店主の方といろいろお話しできた。

とりいくぐるに戻って少しお客さんと話し、(倉敷に住んでいる20歳の女の子でいろいろ悩んでいそうだったので冊子を1冊あげた)気が付くと電車の時間が近づいている。昨日からなんとなくラーメンが食べたくなってるから昼ごはんにかけこみたい!と駅中の博多ラーメン屋に走るも、日曜日の岡山駅はけっこうな人の数で、20分じゃ食べられないと言われた。

旅行中って「親切な人に立て続けに会う日」と「悲しい対応が立て続けにある日」がある気がするなと思う。それでその地域の印象がちょっとだけついてしまったりする。実際はどの町にはいい人も悪い人もいるんだろうけど、そのひとりひとりに「まち」の空気が影響しているものはきっとあって、それは何なんだろう、というのを考えてしまう。

2時間ほど揺られた特急「いなば」は窓が大きくて、山々が見えて、良い電車だった。これから6年ぶりに会う友達のことを思い出して、少し緊張する。思い出をいくつか思い出す。千葉の農家に行ったり、新潟に来てくれたりしたなあ。
さっきの本屋で買った柴崎友香さんの「待ち遠しい」が面白くてどんどん読み進める。ところどころはっとする文章があるし、3人の女性主人公たちが愛らしい。

着いた駅は「郡家(こおげ)」。(絶対に一発じゃ読めない)会社でやっているお店のスタッフでもある彼女はわざわざお店を抜けて車で迎えに来てくれていた。
お店は意外と近くて、10分ほどでもともと小学校だった建物に着く。校庭に面した1階部分が広々としたカフェになっていて、すごく居心地がよさそうだった。
コワーキングスペースやシェアオフィスもあるこの建物をぐるっと案内してもらい、あとはお店の閉店時間まで私もカフェでゆっくりしたり本を買ったり。去年オープンしたばかりの本とドーナツと駄菓子のお店「ポトラ」は明るくて広くて新刊本がずらっとたくさんあってとても良かった。寺尾早穂さんの「天使日記」にびびっときて買った。

夜は、鳥取駅の近くのお店でごはんを食べて、彼女のアパートに泊めてもらった。グレーの毛色がかわいい猫のきなこちゃんに出迎えられる。ここ数年ずっとinstagramで見ていた友達ときなこちゃん、そして照明から家具から本からセンスの良い部屋が、目の前にセットで表れて不思議な気分。
夜はドラマ「ブラッシュアップライフ」を一緒に見た。なんとなく好みの近さもあり、ドラマの話も映画の話もいくらでもできる。

自分の居心地の良さをしっかりと自分でつくって生きている。それが部屋のすみずみから感じられて、その日々を想って、なんだかとても勇気づけられる気がした。猫ちゃんがいる暮らしも、自分のコントロール外のものがそこにいて愛と気配があって、すごく良い。

次の日は鳥取のいくつかの場所を一緒にまわった。まちなかの本屋定有堂(素晴らしい選書と並べ方)に始まり、湯梨浜町の方へドライブして行きたかった汽水空港、友達イチオシのカフェHAKUSENにも。
車の中で、カフェで、ごはんやで、本屋で、たくさん話した。新卒で田舎の小さな会社に就職して企画や場づくりをやるような仕事をしてきた共通点や、同い年の女子ということから生まれるあれこれ。暮らしや、趣味や、自分というものへのまなざし。会わなかった6年という期間に彼女をつくったものたちの話を聞いていると同時に、自分の6年間も想う。重なり合う部分もあれば、大きく違う部分もあって。確実に話せる語彙とその裏にある経験が増えた今の私たちには話したいことがたくさんあった。

気がつけばもう鳥取駅で帰る時間。駅前のロータリーでおろしてくれた。あっという間だったけど、ここに来ることにして本当によかったな。そう思いながら大阪に電車で向かう。外はもう暗くなっていて、あとは夜行バスで新潟に帰るだけだ。
電車の中で、さっきまで何日も一緒にいたような顔をしてしゃべっていた彼女がinstagramで私との1日について書いてくれたのを見た。じんわりと心にあたたかさが広がって、しばらくこの文章を胸に生きていけそうだ、と思った。ついでに、新潟の近所のお父さんから「雪つもってるよ」というメッセージが入る。帰っていきなり雪かきかあ…。

大阪では岡山で食べられなかった博多ラーメンを食べたら、豚骨ラーメンというものを久しぶりに食べ過ぎて匂いがきついことに驚愕し、そしてヨドバシカメラで目当てのものがなかなか見つからず、微妙な気持ちで夜行バスの乗り場まで歩く。あがったりさがったりするのも旅行だ。日常だってそうなのだけど。淡々とそれを受け入れていきたいな。

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新潟に帰って再び日常が始まった私は、いきなり何かが大きく変わったわけでもなく、相変わらず落ち込むし悩むし注意散漫でやるべきことだけに集中するということができない。でも、たぶん一言では言えない影響がじんわりとあって、例えばそれは部屋を少しきれいに保つことだったり、なくしていた自分の自信/これまでを認めるみたいな意識が戻ってきていることだったり、やりたい仕事への道筋を少し具体的にイメージしていけるようになっていることだったりするんだけど、だからやっぱり旅という風を自分の日常に吹かすことはすごく良いことなんだ。時間というものが無限ではないこと、その機会を自分でつくろうとしなければあっという間に3年、5年と経ってしまうことをもうしっかり知っているからこそ、今、いまの私で行ってよかった。


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