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ヘルスケアスタートアップのCDOをやってみる(着任)

デザイン会社の代表であることは変わらずですが「ミナカラ」のCDOになりました。

昨年末、2020年12月17日(木)、株主総会での決議を経て、オンライン薬局を展開する 株式会社ミナカラのCDO/執行役員に正式に就任しました。今後、自身が代表をつとめるデザイン会社 broom inc. の活動と並行する形で、ぼくは、2つの顔を持つことになります。

この場合の「CDO」とは、Chief Design Officer (最高デザイン責任者)のことです。なんか文字にすると仰々しいですけど、要は、会社の経営にデザインやブランディング(その他諸々)の視点を取り入れ、事業やそのコミュニケーションをより良くする、組織全体の文化を醸成していく、そういう役回り、とぼくは捉えています。

もともとミナカラは、broom inc.のいわゆるクライアントで、2019年中頃あたりから、ロゴやビジュアルの刷新を中心に、ぼちぼち付き合いがありました。そんな折、2020年中頃に、ミナカラの創業者でCEOの喜納さんから、CDOに就いて!とオファーをもらい、「YES」と、わりと即答したことをきっかけに、現在に至ります。即答したとはいえ、そのオファーに対する第一印象はというと..

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っていう状態なわけで(笑)
でもそこから、口説いてしまう喜納さんも喜納さんだし、それを受けるぼくもぼくで、後で詳しくは書きますが、この話に登場する人と会社が、なんというか、"やわらかい"と思うのです。(自賛すみません)

とはいえ、実際には、その背景でいろいろと考えを巡らせていたわけなので、書いておこう、と。→ 特に、いちデザイナー、デザイン会社経営者、ベンチャー経営者、CDO、そして2つの活動を並行する人、その辺りの誰かしらがおもしろがってくれたらいいなあ、と。

この話に登場する2つの会社の紹介

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■ broom inc.
ぼくが代表をやっている会社。モノの企画・設計、ブランディング、事業開発まで、 デザインを軸に、だいたいなんでもやっています。
www.broom-studio.com

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■ 株式会社ミナカラ
ぼくがCDO/執行役員になった会社。オンライン薬局「ミナカラ」を軸としつつ、その背景では医薬品メーカーへのデータフィードバックを通して薬の改善を行うなど、医療機関でありながら、新しいビジネスや業界を牽引するベンチャーとしての側面も持ち合わせるヘルスケアカンパニー。
https://about.minacolor.com/

↓ちなみに、つい先日ミナカラが提供するサービスの価値を30秒にまとめた動画をつくりました。と、ようやくこういうアウトプットが出始めるといった具合で、ブランディング〜デザイン観点では、まさに"これから"といったフェーズ、"のびしろ"だらけです。

さて、では。なぜ、デザイン会社の代表をやっているのに、ヘルスケアカンパニーのCDOもやるのか?ということについてですが、理由は大きく3つ。ミナカラでのぼくの役割についても交えつつ、書いていこうと思います。

理由① デザイン会社ではできないこと 〜 利害の一致

このセクションでは、いちデザイナー/デザイン会社の経営者として書くことにします。まず、broom inc.でやっていることを簡単に言えば..、多種多様な会社、ブランド、プロダクトを対象に、それらをより良くする企画〜アウトプットを行っている、といった具合で、最近ではありがたいことに、ほとんど何も決まっていない段階から一緒にブランドを立ち上げたい、商品をつくりたい、と声をかけてもらうことも増えてきました。

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どんな場合でも、勝手に方針を固めたり、アイデアを押しつけたり、そういう一方的な進め方は行わず、クライアントと二人三脚でつくっていく意識を持って取り組んでいます。

ただ正直なところ(ここではあえて裏を返しますが)、"自分ごと"と"他人ごと"、その両方の意識が混在しているというのも確かです。同業者を道連れにしたいわけではないですが、これは多分、broomに限らず、多くのデザイン会社がそうであるはず。

また、そういう関係の中で、口を出さないようにしている部分もあったりして。例えば大きなところで言うと、経営判断。

「〇〇は決定事項なので、それに沿ってつくってほしい」というケースの〇〇部分。それは前提として在るものであって、仮に思うことがあっても、よっぽどじゃない限り、ぼくは口を出さないようにしています。

なにせ、ぼくよりもはるかにその会社のことを理解している経営者や担当者が考えに考えた末、それに至っているはずなので、外部のディレクター/デザイナーの立場にあるぼくがとやかく言うこと自体、おこがましい。というか、もし逆の立場だったら「何言ってんだよ、小僧!」ってなりますし。もちろん、はなからそういう部分にまで口出してくれってケースや参画の仕方によってはそこまで言及する場合もあるけど、大抵の場合そうではありません。

その点、"自分(たち)が経営する会社"なら、自身の理解が一番深い=とやかく言える、というか言うべきだし、それにより前提部分からデザイン・ブランディングの視点を組み込むことができる分、ビジョン、戦略、マーケ、サービス、製品、と、芯から爪の先まで一貫して質の良いコミュニケーションを築くこと = あらゆる体験を引き上げること、に繋げられると考えています。(このあたりが近年国内でもようやく、経営の観点からもデザインを重要視し始めたり、CDOのポジションを設ける会社が増えてたりしている理由かな、と。)そして、それが本当の意味での「事業にコミットする」ということだとも思っていて..

つまるところ、デザイン会社は、多種多様な事業に対してフレキシブルに価値提供ができる反面、その体質を貫く限り、本当の意味での「事業にコミットする」を叶えられない、ということ。言い換えると、事業にコミットしたことがないのに、本当の意味での価値提供ができるのか、そんなジレンマを抱えています。

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自分は何も成し遂げてないのに、他人に説教を説く人たまにいるじゃないですか。なんか感覚的に、あれに近い感じするなーって。だから、デザインに携わる者/デザイン会社を営む者として、特にbroom inc.のように表層的な部分ではなく、一歩踏み込んだところから価値を見出すアプローチを行っている者としては、どうにかしてこのジレンマから脱却して、説得力をまとった価値提供をできるようにしたいなーと思うわけです。

その点、(CDOという"ポジション"は置いておいて)ミナカラにコミットするということは、まさにそのジレンマからの解放なわけで。ひとつの会社/事業にビッタリ着いて、"コト"が起こる前から、お節介をやけるのは、求めていたそれ以外の何でもありません。

また、ミナカラは会社として事業をスケールさせることはもとより、本気でヘルスケア自体をより良いものにしようとしている、そういうところが単純に好き。そんな熱量のあるモノ・コト・ヒトと関われること自体、すごくありがたい話です。

反対に、ぼくとしては、それに報いるためにも、これからミナカラのデザイン・ブランディング領域を飛躍させることを絶対条件として向き合うつもりでいるし、そういう視点を以てこの会社の経営をリードすることがミッションだと思っています。報いるためとは書いたけど、そうでなくても、デザイン会社の代表をやってるわけですから、もうこれは、プライドの話でもあるわけで。

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そして、すこし飛びますが、途中の話は、これからミナカラに入る可能性のあるデザイナーにとっても同じことが言えるのではないかな?と。デザイン会社でいろんな仕事をするのも良いけど、キャリアのどこかでひとつのサービスに集中することも同じくらい大切で魅力的なことだと思うのです。

ぼくの場合、22歳で早計に独立したので、そのチャンスがありませんでした。というより、その当時はいろんな相手といろんな仕事ができた方が楽しいって程度にしか考えていなかったし、そういうカタチが、ある意味デザイナーの花形として認知が拡がっているのもまた事実な気もします。それでいざ、自分で会社を立ち上げてみて、現在思っていることは、「多」よりも「濃」。そのほうが、経験の在り方としても間違いなく成長が加速することもわかりました。だからもしも、ぼくが今とはちがう世界線で仕事を選ぶ過程にあるなら、一つの事業にどっぷり身を埋めることをまずやっておきたいな、って。

現在、ミナカラの中にデザインチームなるものを組成しようとしていて、デザイナーの採用も動いています。broom inc. のクライアントに紐づく情報は一切開示しないことが前提なので、その辺りは教えられないですが、自身の経験や考え方、デザインそのものについて議論することはそのチーム内でも積極的に行っていこうと思っています。逆に、broom inc.での手法やある種の作風みたいなものを押しつけるようなプロセスは踏まないようにしようとも心がけていて、「ミナカラが良くなるかどうか」ただそれだけを判断軸に、積極的に新しいコミュニケーションをどんどん許容していきたいと思っています。

理由② ヘルスケア分野の課題と向き合い方への共感

次に、ヘルスケア分野における課題について。
ここからは、デザイナー/デザイン会社の経営者ではなく、ぼく個人としての意思を書いていければ、と。唐突ですけど、例えば、世の中には、数え切れないほどたくさんの医薬品が流通してますが、それが一体どんな薬なのかを本当に理解して使っている人は、結構少ないのではないでしょうか?
「Aの薬が効かなかったからBの薬を買った」そんな話を薬剤師がくわしく聞くと、実はAもBも成分が同じだった、ということが意外なほど多く起こっています。

こういうのを、ミナカラ内ではよく「情報の非対称性」と表現していますが、製薬会社や薬剤師といった、医薬品のプロ、つまり売り手のみが専門的な知識・情報を持っていて、ユーザーがそれを知らない、という状況が現在でも往々として在るわけです。

具体的な課題として↑の例を挙げましたが、仮にそれを抜きにしたとしても、「自分や自分の大切な人が、病気や不調の際に、"正しく"対処できること」は、ミナカラとしても、ぼく個人としても、やはり実現したい一つの未来だなぁ、と。

そして、そういったビジョンに添い、人々が日常生活で抱く健康に関する困りごとや不安、ちょっとした疑問にも耳を傾けられるように、ひとりひとりにいちばん近くで寄りそえる「オンライン」という場所を選んだミナカラに、とても共感しています。また、一般に課題として顕在化していない、まだまだ良くできる「余白」があることも、ヘルスケア分野の可能性であり、それをしっかり見据えているミナカラの魅力でもあります。

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最近、製薬会社と組んで、PB(プライベートブランド)医薬品をいくつかリリースしました(PBの開発プロセスとかも、そのうち公開予定)。ここでぼくたちがつくりたかったのは、単なる薬ではありません。

医薬品として薬剤師が推せるクオリティであることはもちろんのこと、購入前後を問わずいつでも薬剤師にチャットで相談できるサポート体制とそれにより実現する新しいユーザー体験、そしてオンラインサービスの特性である"データ集積"を活かすことでより良い薬をつくる、その仕組みです。

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まさに、PB=ミナカラだからつくれる薬。というより、新しい"セルフケアのカタチ"なわけです。PBの例に限らず、こういう本質の部分から向き合っている企みが他にもいろいろあります。まずは、それらを浸透→スケールさせることを第一の目標としつつも、今後も引き続き、課題を課題として認識すらできていなかった潜在価値をどんどん掘っていきたいな、と。

理由③ やわらかい企業体質

冒頭でもすこし書きましたが、ミナカラは"やわらかい"会社です。外部から見るとちょっとおかしいんじゃないかと思うくらいw、もちろん良い意味で。

まず経営陣について、ぼくを含めて4人いるのですが、みんな異能で、みんなちょっと変ですw

創業者の喜納さんは、起業家でありながら薬剤師だし、ミナカラ創成期にエンジニアとして入社した吉谷さんは、今はマーケターに変身して事業をゴリゴリ引っ張ってるし、CSOの森尾さんは、もともと投資銀行というプロフェッショナルファームからベンチャーに飛び込んだ勇者だし、ぼくは、デザイン会社の代表を"やりながら"のコミットだし。

「私と小鳥と鈴と」状態です。

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経営陣に限らず、社員のみんなのバックグラウンドも多様だし、おもしろい人がたくさんいます。働き方についても、もはやどれも社内ではあたりまえになってることだけど、薬剤師の面々もビジネス領域にがっつり首をつっこむし、遠方に住まいほぼ完全リモートながら、他の人の追随を許さないくらい良い仕事をしている人もいます。

なんか、もうすでに、おもしろそうじゃないですか、この会社w
でも真面目な話、いわゆるイノベーションって、こういう土壌があって成るものだと、ぼくは思います。

そして、数年前からそれと合わせて、「共創」という言葉をよく聞くようになりました。しばしば、「みんなの意見を"足して"つくろう」みたいな捉え方をされていますが、その捉え方については、ぼくは大反対。「共創」とは、誰か一人が先駆けを切り、イニシアチブを取ることが前提にあると思っています。リサーチしてみる、アイデアを出す、絵をかいてみる、テストしてみる、なんでもいいと思うのですが、「一人が用意した、議論の土台として足り得るものを、みんなで叩いて、より良くする」、それこそが"共創"の本質的な価値のはずです。

そして、そういうのを実行できるメンツがミナカラに集まっている、そんな気がします。だからこそ、外部から見て"やわらかい"ともすれば"いびつ"な文化が、きちんと機能しているし、延いては、独自の価値をつくり出していける、そう考えています。

総じて、そういう人や文化に魅力を感じたことが、ぼくがミナカラに参画することの大きな理由にもなったし、組織としてより高いレベルのクリエイティビティを獲得するために階段を登ること自体が楽しみにもなっています。

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ちなみに、ミナカラのタグラインにも「イノベーション」という言葉を使いました。ずっしりと責任を感じる大きな言葉ですが、自分たちで決めたからには、しっかり体現していこうと思います。

ミナカラの現状〜まとめ

途中でもすこし書いた通り、ミナカラは、デザインやブランディングに対して、わりと最近になって、本気で向き合い始めました。

もともと、メディア事業を主軸に歩みを進めていたところから、数年前にEC事業へ転換した経緯もあり、これまで、ミナカラの事業成長を担ってきたのは、マーケティング領域の力が大きい、と捉えています。それは間違いなく現在でも会社としての強みだし、客観的に見てもシンプルにすごい!この強みは今後も継続していくという前提で、あえて、その"これまで"について悪い言い換えをすると、「良い体験のプロダクト」ではなく「売り上げが立つプロダクト」をつくってきたという見方もできます(もちろん全部がそうなわけではありません)。そして今、その気づきを経て、ユーザーにとって最高のヘルスケア体験を提供するべく、会社の体質ごと変えていこうと、ミナカラは動き出したところです。基礎の基礎から、その本質をもう一度見つめ直して、まずしっかりとしたコミュニケーションの骨格を築こうと、リスタートに近い視点で奮闘しています。

ヘルスケアという、複雑かつ、慣習や制約がつきまとう分野だからこそ、"そもそも"から向き合うことや、わかりやすく伝えることがとても重要で、その解決自体がそのまま事業の価値向上への有効打になり得ると考えています。そしてそれはまさに、デザイン・ブランディング領域のお家芸なので、そこに向き合い始めたこれからのミナカラにぜひ期待して、暖かく見守っていただけると幸いです!

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