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映画もサブスクの時代です、けれども。

序文——

Amazon Primeの威光溢れる軍門に下り、だいたい3年。

いまやその影響は、音楽鑑賞にも映画視聴にも浸透している。
毎月月額料金が掠められているとおもうと、たまに脱退したくなるが果たせない。
学割プランが効いて、素朴にグッドプライスなのが抵抗力を弱めてくる。
半年間無料体験の太っ腹サーヴィスも見事に奏功し、スッカリ日常に馴染んだ。
『幼年期の終り』で地球を支配したオーヴァー・ロードみたいなものである。
あんまり長いこといるもんで、違和感が感じられなくなってしまった。

かくして、わたしの鑑賞生活のうちの広大なエリアをAmazonが統治している。
しかし——支配は完全ではない。Primeでもカヴァーしきれない作品があるのだ。
わたしの興味・関心を惹く作品は、案外そういったアナーキーに混じっている。
Primeに追加されるのを日がな待つのも億劫なので畢竟、取り寄せることになる。

ディスクは高い。それゆえTSUTAYA店頭に赴いてレンタルするのも手である。
しかし、悲しい哉、実店舗でも取り扱いがないことも往々にしてある。
借りるよりも手元に置きたい性分ゆえ、けっきょくディスクを買うわけである。

きょうは、わざわざ買い求めた甲斐があったワという映画作品を5つご紹介。
このうちのどれかが諸君の食指を触発するショックになったら大成功である。
ディスクを買うとクリエイターの創作継続にも繋がるはずですから、ぜひ。

💿プロメテウスの庭/ブルース・ビックフォード

この作品を紹介したくて起稿したほどである。それほどアナーキー作なのだ。
ご覧あれ、Amazon市場におけるディスクの高騰ぶりを。これで安くなった方だ。
「面白そうだからえぢゃないかえぢゃないか」と即決できる富裕は多くないはず。
もろもろ諦めてAmazonから購入せず、監督にメールを送りましょう。

幸いにも監督は公式サイトを設けており、問い合わせの窓口が開通している。
非常に寛大に国際配送に応じてくださるため、英語でも怖気づかず注文すべし。
残部が大変僅少で価格もまずまず高いものの、Amazonよりは安い。
本作はブルース・ビックフォード(Bruce Bickford)が生涯取り組んだ粘土(クレイ)アニメーション制作の粋華である。人間の手で息吹を与えられた粘土たちがうねうねと動く。生まれ、何者かになるまえに、新たに生まれ、砕け散り、歪み、生命を謳歌し、崩れ、次の存在に繋がり、生まれる。粘土が一瞬も安定せず揺動し続ける、果てしない生々流転。画面上で渦巻くアルゴリズムに、ともすれば吐き気を催し、眩暈を起こす。——では、なんのために観るのか。怖いもの見たさか、けっきょくわたしも「粘土」と同じく、壊れ、歪み、終わっていく儚いモノだからか。
諸君も観ながら、考えてみてください(YouTubeでも観れる様子)。

💿海の上のピアニスト/ジュゼッペ・トルナトーレ

以前、仙台の映画館「フォーラム」で観た「イタリア完全版」に感動して購入。
もともと日本で公開された当時カットされた部分を補った「完全版」。
いやー、たまらない映画ですぞ。ノスタルジーを描く名人ジュゼッペの逸品。
海の上で生まれ育ったピアニスト——想像が膨らみます。
船上に留まりピアノの有限な鍵盤に人生を賭ける者にとっての「自由」とは。
エンニオ・モリコーネの手になる胸踊らせる名曲の数々にも注目せられたし。
その、美しいけれども超高難度の演奏を無事こなす俳優にも惚れ惚れする。
なるほど、それだけ汗かくのも納得がいく。楽器を弾きたくなること必定。

💿天井桟敷の人々/マルセル・カルネ

公式サイトにある美輪明宏のリコメンドにほだされて、購入。
戦中に撮影されたという事実を考え併せると感慨もひとしお。
一切の諷刺色を排することにより、むしろ激しく反戦を訴えかける。
演劇が、人生が、芸術が、わたしたちの危機には欠かせないのである。
脚本を務めた詩人ジャック・プレヴェールのセリフも、逐一うっとり間違いなし。
「また会える?」「好き合う同士には、パリも狭いさ」(うろ覚え)
壮大な劇が、大団円を迎え、そして円環の相のもとに起点に戻る……
プレヴェールは岩波文庫から詩集が出ているのでぜひ読んでみてほしい。
大学時代に触れることができ光栄におもう書物の一つである。

💿ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション

輝かしい賞の重みに耐えかねて、果ては路上に立ったアニメーターの作品集——
まず、瞠目するのはライアンの人間観察力。歩く人体の躍動を知り抜いている。
そしてそれを有機的なアニメーションに出力する手腕も見事である。
用いられる色彩も楽しいときて、どんな心象風景だったのか興味がそそられる。
ただ一枚仕上げるだけで苦労する点描をアニメーションに応用したのも衝撃だ。
どんどん光を増しながら、ふたりの人体が神聖な何かに姿を変えてゆく……
作品にはとことん圧倒されるけれど、創作意欲を触発もしてくれる。名品。

💿ナポレオン・ダイナマイト/ジャレッド・ヘス

掉尾ラストを飾るのが、この作品でいいのだろうか。いいのである(反語法)。
はじめ「バス男」の邦題で公開され、さんざ非難を浴び、のち原題に沿ったもの。
全米が腰砕けになった、底の底まで超ゆるい映画である。古今最強の脱力系。
「全米が〜」の謳い文句は普段なかなか好かないが、本作にはふさわしい。
以前、講義の一環でアメリカ人の女性とたどたどしいスカイプ・英語トークを交わしていたとき、彼女がいちばんアハハと大笑していたのが『ナポレオン』についての話題が出た場面である。「Oh…I love it, I do love it…」。
ストーリーをどれだけ明かしても本作を語り尽くしたことにはならない。映像として浴びてナンボである。何かを得る名目で観るのは違う。デトックス。口をポカーンと開けっぱなしにして、だらーんと観るべきである。
きょう挙げた5作品でいちばん廉価ゆえ、気軽に購入できる、はず。おすすめ。

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I.M.O.文庫から書物を1冊、ご紹介。 📚 東方綺譚/ユルスナール(多田智満子訳)