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ヨーグルトと新型コロナウイルスワクチン抗体価

今日は表題の様な記事を見掛けたので紹介しよう。ヨーグルトと免疫系の関連は昔から色んな事が言われているのだが、その一環として新型コロナウイルスワクチンに関する研究も行われている。

上記はこの研究のプレスリリースになるのだが、見てもらえば分かる通り製造する側の企業が中心の共同研究であるため利益相反は存在するし、どの様なヨーグルトを使えばいいのかは不明であり、相対値のグラフしか無いので得られた結果についての正しい解釈は難しい(※補足を参照)。一方で記事中にもある通りインフルエンザワクチンに関する研究は以前から行われているし、ヨーグルトと免疫系の関連は様々な示唆がなされており、考察すべき点は多い分野だ。

そもそもヨーグルトと免疫系の関連は、腸内環境と免疫系の関連に帰結される。腸内には大量の腸内細菌が常在しており、腸内細菌叢を形成している訳だが、それらは常に免疫細胞と相互に作用しながら共存している。腸内細菌についてはよく善玉菌や悪玉菌という言い方をされる事がある。これらは厳密な分類というよりは、結果として人間に有益かどうかという観点で考えられている。善玉菌の代表として乳酸菌があるが、これは病原性を持たず結果としてその機能が生体に有益だからである。機能の中には病原性を持つ細菌の増殖を抑えたり、組織の状態を良くしたりと様々なものがある。免疫系に対する作用もよく研究されている。

過去に自然免疫や獲得免疫の項で説明した通り、免疫細胞は細菌などが持つ特定のパターンなどを認識して活性化する。乳酸菌も細菌であるから、免疫系を活性化する作用はある。これはインフルエンザワクチンなどの分野でヨーグルトと関連する研究としてよく調べられており、特定の乳酸菌株はTh1反応などを効率良く促進するという研究もある。他方で、乳酸菌が免疫抑制性のTregを促進するということも研究されており、常に言っている通り免疫のバランスも整えられているのだ。腸内細菌は種類や機能も膨大で未知の部分も多く、それによる免疫系の制御は極めて複雑かつ解析が難し分野でもある。イメージの話をするなら、無害な細菌によって免疫が「トレーニング」されることで免疫力が高くなると同時に、強過ぎる免疫応答が起こらない様に抑制性の免疫細胞も同時にトレーニングされてバランスはそのまま保たれるという感じだろうか。

また、免疫のバランスという観点で言えば、Th1とTh2のバランスもアレルギー分野で重要となっている。上記の通り細菌によるTh1反応促進はTh2反応やそれに伴うアレルギー反応を抑えてくれる可能性もある。Tregとの関連も考察に含める必要があるが、ヨーグルトとアレルギー反応抑制に関する研究もよく行われている様だ。まだまだ分かっていない事は多いが、腸内細菌と免疫応答の関りは非常に重要な要素を含んでいることに疑いは無い。腸内環境を整える事は免疫において重要だということはよく覚えておこう。余談だが私は毎朝ヨーグルトを食べている。

※補足:グラフが対象群に対するヨーグルト群の増加率で示されており、およそ1.5倍の値になっている事が分かるが、この研究が正しい結果を得ているかどうかは絶対値も見ないと何とも言えない。というか、この手の対応の無い二群比較でわざわざ相対値をグラフにする意味はよく分からない。おそらく絶対値が不都合なほど低いなどの理由であろうと推測される。抗体価にしろT細胞の割合にしろ、1.5倍程度増えても意味のない低い値で解析していれば意味のある研究と言えないし、絶対値が低い程、少ない数字の変動で相対値が大きく動く事になる。イメージの話をすれば100%の内の0.1が0.2になってもあまり意味が無いと思われるが、40が80になれば大きな変化と思える。相対的な変動が同じであっても絶対値の差が重要というのはそういうことだ。

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