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記事コメ:ワクチン接種で症状が“悪化”…20代男性が苦しみ続ける『コロナ後遺症』

今日は下記の記事について考察してみた。

記事では医師のインタビューを中心に新型コロナウイルス後遺症に関する症例を紹介している。基本的には私も過去の記事で紹介している典型的な後遺症の症状を示しているという事だろう。

一方で、あまり例が無いと思われる言及がある。

コロナの後遺症に1年以上苦しむ20代の男性。 去年11月にコロナのワクチンを接種してから症状がまた悪化しました。

*男性(20代)「(ワクチンを)避けていたとしたら、今この状況は終わっていたのかもしれない。11月は(仕事)復帰に向け、すごく調子が良かったので」

その後、病院で後遺症の患者がワクチンを接種すると症状が悪化するケースが多いと聞かされました。

後遺症が発症した状態でワクチンを接種すると症状が悪化するケースが多いという内容だ。これについては論文などを探してみたが、症例報告もあまり見付からなかったので、実際にどの様な症状がどの様に悪化したのかなどは不明であり、考察が難しい。過去に、「ワクチンを打っていても、中枢神経系症状に関する後遺症は防げない」という事は紹介した。

今回のケースは、「何らかの後遺症がある状態でワクチンを打つと悪化する」可能性があるかどうかという議論になる。

仮に後遺症の症状が、末梢でのウイルス残存による障害である場合、ワクチン接種はウイルス除去に寄与して後遺症は改善する事が予想される。つまりこの様なケースでは無いのだろう。

後遺症の症状が、Sタンパク質に起因する障害である場合、同じ抗原であるワクチンを投与することで症状が悪化する可能性は考えられる(但し、この場合は私がいつも言っている核酸ワクチンの危険性とは別問題になるので注意してほしい)。Sタンパク質はACE2やNRP1への結合能を有し、細胞レベルでは直接的な障害をもたらすなどの報告もある。神経や血管系へのSタンパク質による直接障害が後遺症の原因としてあるのだとすれば、そういう可能性も無くは無い。ただこの場合はかなり多数で類似の事例が見られると思うので可能性は低いだろうか。またはSタンパク質に対する抗体が、自己抗原に交差反応する事によって何らかの症状を呈するというケースもあり得る。これは過去に紹介した事があるが、Sタンパク質に対する抗体と自己抗原の交差反応は既に報告されている。これは人によってはそういう現象があり得るし、ワクチンによる悪化にも説明がつく。

もう一つの可能性は後遺症の原因が炎症性の要素に起因する場合である。記事にもある通り、抗炎症性の薬剤(記事ではなぜか抗生物質を使っているが抗生物質は抗ウイルス薬ではない。このケースは多分抗炎症作用があるマクロライド系だろう)が後遺症を減少させるという事がある様だ。中枢神経系における後遺症の原因の一つはウイルス感染にともなう中枢神経系炎症だとも言われており、ワクチン投与による炎症の誘導が後遺症の悪化を引き起こしている可能性がある。

この場合の免疫応答と中枢神経系におけるウイルス感染、免疫機能には複雑な関連があり、考察が難しくなる。通常は末梢の獲得免疫細胞が中枢に侵入する事は無いのだが、ウイルス感染・炎症によってそのバリア機構が破綻している場合、中枢神経系にT細胞などが侵入しての炎症反応を起こす場合もある。仮に新型コロナウイルス後遺症の中にこの様な例がある場合、核酸ワクチンの投与はその症状を悪化させる可能性がある。これが考え得るワーストケースだと思われるが、いずれにしても未知の機序がある可能性は高く、何よりも「感染しない」という前提が重要であることは間違い無い。

簡単にまとめてみると、新型コロナウイルス感染による後遺症が・・・

①シンプルなウイルス感染による末梢組織障害の持続である場合→ワクチンや抗ウイルス薬が後遺症に効く可能性がある

②ウイルスの中枢神経系残存による神経障害である場合→ワクチンは効かない可能性が高く、抗ウイルス薬は中枢移行性が必要

③ウイルス抗原(Sタンパク質)による分子生物学的な組織障害である場合→ワクチンによって悪化する場合がある(但しどんなワクチンでも同じ)

④ウイルスそのものではなく、ウイルス抗原に対する免疫応答や強い炎症反応による場合→ワクチンによって悪化する場合がある(特に核酸ワクチンは高リスク)

という事になるだろうか。もちろん ⑤その他 の可能性がある事は忘れてはならない。

過去にコメントした事があるが、大前提として④にも関連するようにウイルス感染というのはそれ自体が自己免疫疾患や炎症性疾患のリスク要因である。つまり、ウイルス感染を切っ掛けとしてその様な症状が後遺症として現れている場合は当然ながらワクチン接種(特に強い炎症を引き起こす核酸ワクチン)はその悪化を引き起こし得るだろう。その点を十分理解しなければならない。

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