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天空に隠れそびえる修道院

人間の手が、到底届くことのできない天空に、世界遺産が隠れています。

足が震えそうな険しい奇岩群は、6000万年前頃から海底に堆積した砂岩が隆起してできたものだと言われ、平均高さは300m、一番高い奇岩は600mを超えます。平原に巨大な岩の柱が絶壁を形成してる様子は、圧倒的な存在感を誇っております。まるで、いくつもの東京タワー(333m)とスカイツリー(634m)が群をなしているという事でしょうか?

ここは、ギリシャテッサリア地方。ピンドス山脈を背景に肥沃な平原が、青い空に届くかのように遠くに広がっており、ピンドス山脈を源流に持つピネオス川が流れています。平原には巨大な岩が、深く険しい峡谷を作っているように奇岩群が並んでいます。

1988年に世界複合遺産として登録された

メテオラ

世界自然遺産ではなく世界複合遺産として。
もちろん、圧倒的な存在感を誇る奇岩群だけでも十分な景観をなしてますが、複合遺産としての登録にこそ、人々を魅了し有名になった理由が隠されています。

メテオラ(メテオロス)は、ギリシャ語で「宙に浮かぶ」という意味で、この一帯にそびえ立つ奇岩群と、その上に建つ修道院群の総称です。

メテオラの険しい地形は、俗世との関わりを断って、祈りや瞑想など修行するのに理想の環境と見なされ、この奇岩群に自然と形成された洞窟や岩の裂け目に、9世紀ごろから単独で修業する修道士、隠修士が住むようになりました。

隠修士が単独で修業するようになってから、約500年後の14世紀。今のギリシャの一部を支配していた、ビザンティン帝国(東ローマ帝国)における修道院の中心は、エーゲ海に面しているアトス半島にあるアトス山でしたが、セルビア王国の勢力が拡大してセルビア領となり、セルビアは修道院の活動を奨励し多大な保護を与えるものの、多くの修道士は戦禍を避けて南下しメテオラへ来ます。その中の一人、アサナシオスによって、修道士達が共同で修業できる修道院が建てられます。

14世紀末の1393年にオスマン朝がテッサリア地方を併合すると、一旦はメテオラから修道士が離れますが、オスマン朝が他宗教に寛容で活動が保証されたため、修道士は戻り、次々と奇岩群の上に修道院が建て続けられ、最盛期の16世紀には24の修道院まで増えました。

現在も6つの修道院が残っており、活動を続けてます。

聖ニコラオス・アナパフサス修道院

聖ニコラオス・アナパフサス修道院
通称ニコラス修道院と略称され、14世紀に聖ディオニシオスにより創建。クレタ出身のセオファニスというクレタ派画家の壁画「最後の審判」が有名です。

聖ステファノス修道院

聖ステファノス修道院
1192年には隠修士がいたとされ、1367年に共住の修道院として創建され、現在は、女子修道院となっており、ハラランボスの聖遺物が安置されています。

ルサヌ修道院

ルサヌ修道院
垂直に切り立った岩に張り付いたように三層建ての修道院を1545年に創建。聖女ヴァルヴァラに捧げて建てられ、1950年以降女子修道院となっています。

ヴァルアラム修道院

ヴァルアラム修道院
14世紀にヴァルアラム隠修士が絶壁で隠修生活をしていた近くに、1541年セオファニスとネクタリオスの修道士兄弟が建てました。内部には、クレタ派の画家フランゴス・カテラノスによるフレスコ画があります。ヴァルアラム隠修士の名前が由来とされております。

アギア・トリアダ修道院

アギア・トリアダ修道院
1475年にドメティオスによって創建され、父と子と聖霊の三位一体の神を示す至聖三者に捧げられた修道院です。完全な断崖絶壁に建てられており、上るのが一番難しい修道院で、1925年までは縄梯子か滑車付きの巻き上げ機でしか上れませんでした。映画「007」シリーズ第12作「For Your Eyes Only」のロケ地としても有名です。

大メテオロン修道院

大メテオロン修道院
メテオラの由来にもなっており、メテオラ最大の修道院。標高616mの岩の上に建てられ、同名のメテオロン主聖堂もあります。壁画は1483~1552年に作成されたフレスコ画やイコンがあり、東方正教会やビザンティン美術の宝庫でもあります。

1387年にアサナシオスによって、救世主の変容修道院として建てられたことから、メタモルフォシスとも呼ばれます。
1490年には、メテオラのすべての修道院を統括する存在となり、巨大なメテオロンとしてメガロメテオロン(大メテオロン)と呼ばれるようになりました。

メテオラの6つの修道院は、今もなお変わらず、修道士の厳粛な修行と生活が続いてます。ビザンティン帝国、セルビア王国、オスマン朝の時代を経て、現在のギリシャの時代でも変わらず、神への献身が作りだした聖地として。隠修士の修行から数えると1,000年を超える崇高な歴史。

争乱を生き抜いたメテオラに平和な時代の新たな問題が。観光地化が急速に進む昨今、本来の世俗を避ける修道生活に観光客などによる弊害が生じてます。

長い歳月、自然と調和して守り抜いてきた歴史のように、これからも修道士の崇高な修行活動と東方正教の聖地が、文化と伝統を守っていけることを期待したいですね!

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