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読書記録

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感想文を書くのはなかなか苦手なのですが極力書くようにしています。
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記事一覧

医療と生と死を考えさせられる(ヴェジタブル・マン 渡辺淳一)

新潮文庫の渡辺淳一著「ヴェジタブル・マン(植物人間)」を読んだ。 この本は文庫オリジナルで、奥付(発行)は平成8年11月1日となっているので今から27年も前である。 なぜ今この本を読んだのかというと、確か出版当時は僕が書店に勤めていたときであり、母親に頼まれて買い、その後母が読んだあとに勧められて借りて本棚に今までずっと残っていたのだった。 いつか読もうと思い約27年(笑)。ようやく読んでみた。 渡辺淳一の著書を読むのはたぶん初めてだ。著者は医者であり作家であることが有名

藤井総太は、こう考える(杉本昌隆著)

金、権力、成功などを手に入れた人を羨むことをなかれと言われれば受け入れられるかもしれない。だけど、好きなものに出会えた人は羨ましいと思う。 今年は遂に八冠を達成した藤井総太氏。 彼の思考や精神について師匠の杉本昌隆氏が書いた本を読んでみた。 強い理由とは、常に将棋のことを考え、研究をしていること。 そこには集中力、構想力があり、探求心がある。そして常に平常心を保っている。しかし、その姿は「努力」というものとは少し違うもののようだ。 将棋が好きで、将棋と共にいることが幸せで

全ては推しと共に(「推し、燃ゆ」・宇佐美りん)

21歳が書く「推し、燃ゆ」。なんで芥川賞を受賞したのだろうかと思っていたが、ようやく読んでみた。 “推し”という言葉が一般化されたのはいつ頃だろう。 主人公の女子高生が推しているアイドルがファンを殴ってしまう。 そしてネットが炎上するところから始まるが、最終的に「推し、燃ゆ」とは違った意味で完結する。 学校生活は勉強も人間関係もうまくいかない。家庭の人間関係もあまりよくない。しかし、生活は「推し」がの中で充満している。起きてから寝るまで。バイトでお金を稼ぐのも「推し」の

リカバリー・カバヒコ(青山美智子)を読んで

青山美智子さんの新刊「リカバリー・カバヒコ」を読みました。 公園の古びたカバの遊具、自分の怪我とか病気とか治してもらいたいところを触ると回復するという。 ※以下若干ネタバレあります。 とあるマンションに住む人々で綴る5つの短編集。 中学のときは優秀だったが高校に入って成績不振に悩む高校生は「正直であること」の大切さに気づき、 ママ友たちとの人間関係に悩む元アパレル店員は関係づくりが大切なのではなく「大切なことははっきりと言葉にすること」と気づき、 ストレスで休職中の女

少年探偵団・怪人二十面相(江戸川乱歩)

子供の頃は(大人になっても?)あまり本を読まなかったと思います。(漫画はよく読んだが) 親は活字の本ならなんでも買ってくれると言ってくれていたが読みたくなかったんだから仕方ない。(ズッコケ三人組シリーズは買ってもらって読んでた記憶がある) どこの学校の図書室にも必ず置いていたであろう江戸川乱歩は知っているけど読んだ記憶がないのです。もちろん怪人二十面相なども名前は知っていますが、恥ずかしながら内容は知らない・・・ ふと先日新聞で紹介されていたのですが、こんな中年になって読ん

「ただいま神様当番」(青山美智子)を読んで

青山美智子さんの本はどれを読んでも物語の構成が面白く、暖かく、生きるヒントが得られます。また構成がよくできていて完成度の高さも魅力です。 順不同で読んでいるのですが、今回は2020年の作品「ただいま神様当番」。 5人の登場人物による短編集ですが、ある落とし物を拾うことによって普通想像するような姿とは全く違う神様が登場します。普通は神様に願いごとを頼みたいところですが、この神様は逆に人間に「お願いごと、きいて」と言い出します。その願い事こそが登場人物の課題となるのですが・・・

オオルリ流星群(伊与原新)

久々に小説を読みました。僕の好きな伊与原新さんの「オオルリ流星群」です。 高校三年の夏、文化祭の出展のために空き缶で巨大なタペストリーを作った仲間たちは年を重ねて四十五歳の中年になっていた。 その中の一人は国立天文台の研究員を経て、高校時代の地元に戻り天文台を作るという。当時の仲間たちは28年ぶりに再会し、再び高校の時にタペストリーを作った時のように暑い夏の製作が始まる。 私設天文台を作るという夢を持つ彗子、親を後を継ぐ薬局店員の久志、高校教師の千佳、会社を辞めて弁護士

「赤と青のエスキース」(青山美智子)

こう来たか。 帯に「仕掛けに満ちた傑作連作短編」と書いているとおり仕掛けがたっぷりでした。 青山美智子さんの本はいろいろと読みましたが、この作品は他の青山さんの本とはちょっと違う雰囲気を醸していたのでなんとなく後回しになっていました。 しかし、他の作品とは少し毛色が違うもののやっぱり青山さんワールドでした。割と短編ですがいつものようにメッセージが詰め込まれていて良い本でした。 50歳を過ぎても恋愛をして活き活きと生きる人。絵描きにはなれなかったけど、額縁アーティストにな

「それでも人生にイエスと言う」を読んで

前回の記事でヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧 新版」について書きましたが、もう少し深く知りたいと思い、同じくフランクル著の「それでも人生にイエスと言う」を読んでみました。 著書とはいえ、この本は1946年に行われた講演がもとになっていますが、アウシュヴィッツ強制収容所での体験をもとに、精神科医、心理学者らしく生きる意味について分析された学術的、哲学的な内容になっていました。 「夜と霧」より深い内容で面白いのですが、なぜか読みにくかったです。個人的なものかもしれません

極限の状況の中で生きる意味を考える <「夜と霧」を読んで>

今回は読書記事です。 (本の記事はいつもはブログに書いていますが) 今回読んだ本は、あの「夜と霧」(新版)(ヴィクトール・E・フランクル/池田香代子訳)(みすず書房)です。 この本は「言語を絶する感動」と評され、20世紀を代表する本とも言われています。随分前から知っていましたがようやくこの歳で読むことができました。 初版は1947年ですが、今回読んだものは1977年に新たに手を加えた改訂版を出版された「新版」の翻訳版です。 (旧版は霜山徳爾訳)心理学者、精神科医だった著

『「愉快な人生」を生きる』を読んで

著者の本は過去に一冊読んだことがあるが、今回はタイトルに惹かれて読んでみた。 著者は若いときに瀕死の事故を経験し、「老子」に出会い、その後「論語」「孫子」「仏教」などの東洋思想を学ぶ。そして、ひとつの結晶を発見し、それをひとことで集約すれば「愉快」というキーワードで現わせるということ。 “天が「かくあれ」と人間に求めているのは、愉快な人生と健全な社会である。” 愉快とは、欲望の暴走やエネルギーの浪費ではなく、明日への希望と、謙虚、感謝であるということ。 僕自身はどうも、“

ブログ更新しました。 映画を愛する人々のドラマチックな物語「キネマの神様」(原田マハ) https://imglad.hatenablog.com/entry/2020/10/31/100512

「嫌われる勇気」感想⑤(最終回)人生とは何か。

いよいよ今回で「嫌われる勇気」レポート?感想文?最終回です。 この本に登場する青年は考えました。 前回の終わりに共同体感覚が重要ということだったが、それだけでいいのだろうか? 自分はもっとなにかを成し遂げるために、この世に生まれてきたのではないかと・・・ 青年は自意識過剰なため、人前で自由に振る舞うことができないと哲人に思いを伝え、どうすれば克服できるのかという話になります。 その答えは、 自己への執着を、他者への関心に切り替えること。 重要になるのが、 「自己受容」

「嫌われる勇気」感想④ 世界の中心はどこにあるのか

自分と他者(世界)の関係はどう考えればいいのか。 他者が気になって仕方が無い人は、他者の事を考えているというのか、 それとも自分の事を考えているのか。 どうすれば自信をもって生きていけるのか。 今回はそんなことがテーマです。 1.個人心理学アドラー心理学の正式名称は「個人心理学」といいますが、これはどういうものなのか? 人は人、自分は自分と、自己中心的とか個人主義というわけでは無いのです。 「人間をこれ以上分割できない」という意味で個人心理学と言っています。 例えば、