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彼とはどこかでまた会えると思ってた



突然の再会


22時の山手線は、静かだ

帰宅ラッシュと終電前の間          この時間帯は乗客が少ない上に、遊びに行く学生も酔っ払った人達もいなくてシーンとしている

仕事が繁忙期に入ると
大体この時間帯に帰宅をしていた

「疲れたなぁ…」
思わず声に出して言ってしまうほど
社会人3年目になっても
このハードさには慣れなかった

私と同じように疲れ果てた顔の
サラリーマンがまばらに座っている

斜め前に座っているサラリーマンの
欠伸がうつって、私も大きな欠伸をした
オフモードになった身体は
一気に眠気が襲ってくる

絶対に寝過ごしたくない…
と眠たい目を擦っていると
携帯が鳴った


「今度の日曜日、久しぶりに集まろう!」

元バイト先の友達からのLINEだった

皆んなが大学生の頃
居酒屋のバイト先で仲良くなった男女5人

バイト終わりに朝までカラオケをしたり
缶ビールを買って公園で語り合ったり
バイトを卒業する時は男友達も
泣き出してしまうほど
毎日一緒にいた5人だった

卒業してからは何度か誘いはあったものの
私は仕事で予定が全く合わず
卒業以来、5人で集まっていなかった


久しぶりの誘いに物凄いスピードで
動いていくグループLINE

ブーブーとずっと携帯が鳴り続けている

そのみんなの反応の速さは
当時と全く変わっていなくて
私はホッとした

さっきまでの眠気も一気に飛び
懐かしいやりとりに胸が高鳴っていた

だけどすぐに返事はできなかった

続いていくLINEの会話の中に
彼が発言してくれるのを待っていたから


私達は3年前付き合っていた


バイト仲間の5人で良く話すようになった頃
私と彼は付き合っていた

そのことを皆んなに報告した時は
とても喜んでくれて
いつも応援してくれていた

記念日には皆んなでお祝いしたり
喧嘩した時には話を聞いてくれて
仲直りできるように動いてくれたり
私たちのことを支えてくれていた

でも社会人になっていくと共に
見ている未来が違うからと
私達は別れてしまった

別れてからはお互い連絡も取らず
どこかで偶然会うこともなかった

「私が行っても大丈夫かな…」
そう思いつつ、もう一度LINEを見る

彼からの発言は何もなかった

私は、少し迷ったあと
「行く!」と返事をした

すぐに既読はついて
また会話は盛り上がっていく

それでも発言をしない彼もまた
当時と変わっていなかった

元々LINEを返さないタイプの人だとは
知っていたけど、今回は返事してくれるかと
どこかで期待をしていた

「よし!じゃ、あいつは強制参加で!」

一気に決まった集まりは
消えかけていた彼との思い出を蘇らせ
私はそれから当日までちゃんと眠れなかった


全てが楽しかったあの頃


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私はお気に入りのブラウスに袖を通して
少し高めのヒールを履いた
玄関前の鏡で服装をチェックする

デートじゃないんだから…
身なりを何度も確認する自分に
そうツッコミたくなるほど
久しぶりの再会に緊張していた

あの頃、皆んなで働いていた
居酒屋で待ち合わせることになった

私は品川駅を降り、京急線の改札へ向かう

この沿線を使うのもあの頃以来だった

1番のりば「普通 金沢文庫」
ホームに設置されている発車標を見上げて
電車に乗り込む

当時と変わらない景色に懐かしさが蘇った

京急線沿いに住んでいた私達は
バイト先も遊ぶ場所も全てが
京急線の周辺だった

バイトを終えた後は
近くに住んでいた彼への家へ
皆んなでよく遊びに行っていた

社会人になり、お金を貯め
私は離れた街へ引っ越して
ここに来ることはなくなった

彼と最後に会った日も
私の家の近くのカフェだった

「引っ越しおめでとう、綺麗な街だね。
ちゃんとお金貯めて頑張ってて偉いよ!」

と彼が褒めてくれたことが嬉しかった

そんなことを思い出しながら
しばらく電車に揺られていた

窓から夕焼けが差し込んで
がらんと空いた赤い座席を
少しずつ暖めていく

ふと窓の外を見ると
彼が住んでいた街の景色が広がっていた

久しぶりに見た景色に
胸の奥がぎゅっと締め付けられる

あの頃、まだ学生だった私達は
お金もなくてちゃんとしたデートも
できなかった

近くの小さな公園にお弁当を持って
ピクニック気分を味わったり
終電を逃した日には2人で何時間も
かけて家まで歩いたこともあった

深夜までバイトが続いた時は
お疲れ様という2人のご褒美に
近くの日高屋に行った
1本の瓶ビールを彼と分け合って
無くならないようにゆっくり飲み合う
あの時間が堪らなく幸せだった

あれから私は社会人になり
彼は夢だった美容師として働き始めた

始発と終電を繰り返す彼の生活に
出かけることなんて無くなったけど
それでもあの頃は彼といるだけで楽しかった

別れてからも時々
夢に向かって頑張る彼の姿を
思い出しては、勇気付けられていた

今日彼に会えたらなんて話そう
あの頃と変わってないといいな

当時を思い出しながら
少し高鳴る胸を押さえて
待ち合わせ場所の最寄駅に降りた


変わらない街に手を振った


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白い暖簾をかき分けて居酒屋に入る

カウンターに並んだ焼酎も
煮込みのいい香り漂う店内も
バイトをしていた頃と同じだった

「お〜!!久しぶり!こっちこっち!!」

奥の個室から顔を出し
友達が大きく手を振っていた

私は早くなる鼓動を落ち着かせるように
小さく深呼吸をして席に向かった

皆んながいる席を覗くと

「会いたかった〜!」

と女友達が抱きついてきた

嬉しさと懐かしい皆んなの顔ぶれに
自然に口元が緩んでしまう

だけど、彼の姿はなかった

先に頼まれていたビールを持って
久しぶりの再会に私達は乾杯をした

「あいつ来るって言ってたけど、多分仕事が終わってないんじゃないかなぁ…。」

そう男友達が話しているのを聞いて
私は少しホッとした気持ちと寂しさを感じた

そこから私達は近状報告をし合ったり
バイトの頃の懐かしい話で盛り上がった

だんだん終電に近づいていく時間に
彼と会える希望も小さくなっていった

私達は終電前にお店を出て解散をした

「またね〜!」

とぶんぶん大きく手を振る
皆んなが子供のように見えて
笑ってしまう

私は駅の改札へ向かって電車を待っていた

お気に入りのブラウスも
集まりが決まってから
よく眠れなかったことも
今日彼が来なかったことによって
何の意味もなさなかった

どこかで期待していた私も馬鹿だったなぁ〜
と何だか恥ずかしくなった

冷たい夜風が袖を通り
快速電車のドアが開いた


何となくあの頃と同じ電車に
乗りたくなり
歩きそうになった足を止めて
私は普通電車を待った

ゆったりと到着した赤い電車に乗り込み
静かな車内の中、ぼーっと窓を眺めた

外に流れる懐かしい景色を後ろに
あの頃より髪が伸び化粧も薄くなった私が
窓に映っていた

大人になったんだなぁ…
時の流れの速さに自分でも驚くほど
あの頃思い描いていた今は
もっと遠くにあると思っていた

彼とはもう会わないかもしれないけど
あの頃より成長したねと
お互いが笑い合えるように
私なりに今を精一杯頑張っていこうと思った


「各駅停車」

懐かしい景色を思い出させてくれるこの曲

耳から流れるメロディに
私は上京してきた頃に過ごしていた
懐かしい街の景色を思い浮かべました

何も無かったけどいつも全力だったあの頃
バイトも恋も夢も全てがガムシャラでした

皆さんの中でも
そんな青春時代を思い出す曲に
なってくれたら良いなと思います


・各種配信サイトへ

・3rd mini album「いまさら、君に」


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saki(secondrate)

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20
secondrateというバンドで歌をうたってます。 ここでは歌の元となったエッセイを公開中。 あなたの心に残りますように