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現場のセンス 職人や業者が儲かれば、現場も儲かる

 建設現場を舞台に例えるならば、舞台を用意するのは監督で、演者は職人です。主役は職人です。
 みんなが仕事をしやすい環境をつくること。それには現場のセンスが必要です。

 ゆであがりに陥りがち
 いきなり熱湯に入ると熱くて飛び出してしまうが、徐々に熱くするとわからない。気づいたときには「時すでに遅し」手遅れとなっている状態がゆであがりです。現場は、「時すでに遅し」「いまさらジロー状態」を避けなければなりません。間違いや不具合によって「造っては壊し」を繰り返すほど、不利益なものはないのです。みんなの生活が掛かっていますから。

 職人たちは現場に稼ぎに来ている
 まず、職人たちは現場に稼ぎに来ています。数字は適当ですが、例えば、100㎡100人100万円だとすると1日1㎡の施工で、1万円の単価になります。現場の職人たちはこの数量と単価と歩掛りのシステムで、生産活動をしています。日々の現場ではいかに施工量を増やし単価をあげ、その結果の収入アップを目指すのです。現場に来て仕事にならなければ、職人や業者は食えないわけです。これが前提条件です。

 職人や業者にさせてはいけない 
3つのこと 「手待ち」「手戻り」「手探り」

「手待ち」

「手待ち」:現場において材料不足や前工程の作業が完了していないなど職人が現場にいるにも関わらず、作業ができない状態。また納まり等の細部の決定や色決めが遅れて作業が進められない状況のこと

 こんな時の職人一言
「監督さん。こんなんじゃできないよ。」

 現場がぐちゃぐちゃになる時は大抵、図面が遅れている現場です。
 発注が遅く、外壁のサッシがつかないなど建具の承認、発注が遅れています。また、現場が古い図面で施工され、壊してやり直しが起きています。だからこそ、図面の締切や発注物の管理が、施工前の最重要管理ポイントになります。図面管理のメソッドは前回のnote「拙速スタディで乗り越える」で書いた通りです。

  図面も完璧、発注物も予定通りにも関わらず、職人に「こんなんじゃできないよ」って言われます。そんな時は、だいたい基準墨がない、物だらけで材料の置場がない、加工する場所もない状況です。職人が乗り込む日までに前工程を終わらせ、基準墨の確認、掃き掃除まで終わらせる。その段取りをするのが現場監督の仕事です。

 「はいっどうぞ」の言葉と共に、のびのびと仕事ができる舞台を造ることが思いやりです。重要なのは真っ白な紙に、補助線が引かれたきれいなノートを渡す感覚です。ぐちゃぐちゃ書かれたノートではなく、真っ新な綺麗なノートを渡して思いっきり描いてくださいとリリースできるかです。

 例えば3日後にクロス屋さんが来るのに前工程のボード屋さんに、
 「あと3日で終わりますよね?」の確認は間違いです。
 「あと2日で終わりますよね?」と聞きます。
 なぜなら残りの1日は片付けの日であり、次の業種への段取りの日だからです。

 「はいっどうぞ」の状態をつくる意識を持つことが、日々の工程管理のミソです。
  工種が変わる継ぎ目に、次の業種のスタートラインをきっちりけがける人は、優秀な監督です。

「手戻り」

「手戻り」:間違いや作業手順の誤りによって、完了したはずの工程をまた戻ってやり直すこと

 こんな時の職人一言
 「またぶっ壊しじゃん」

 丁寧に作ったものを壊してやり直し。そんなことはしたくないし、させたくない。
 大事なのは間違う前に、気づくことです。リスクヘッジしかありません。
巡視の精度を上げ、現場で起きている微妙な変化をつかみとるしかありません。
待っていても微妙な変化は、得られません。精度も上がりません。

  だから、あえてわかっていることも、声を掛けるようにしています。
「わかっているだろう」の暗黙知から「あぶねっ。いま、気づいてよかった」を増やすことです。何度も言いますが現場は巡視で決まり、監督の腕は巡視の質です。現場の気づきの量に左右されます。

監督「ここ変更になってけど、大丈夫だよね?」職人「アブねっ忘れてた!」
監督「ここの色、わかってます?」職人「知らない」!」
監督「ここに、スリーブ入りますよね?」職人「材料ないけど!」

 この声掛けは決して批判ではありません。「間違っているかも」や「間違えてしまうかも」という仮説から声掛けにより、答え合わせをしていく検証です。この仮説と検証を繰り返します。それは心配性からくるものです。現場監督は心配性なぐらいが丁度いい。リスクの想像は絶対に損はしません。「答えはあるけど、確認する」そこに気づきを得られれば、ラッキーだからです。

「手探り」

「手探り」:見通しや方針がはっきりせず、様子を見ながら手探り状態で作業すること

 こんな時の職人一言
「全然、進まないんだよね」

 巡視の時間
 所長巡視を待ち望んでいる職人もいます。納まりが悪くどう納めたらいいか、答えが欲しい人。現場の段取りが悪く文句を言いたい人。応援の人員が欲しい人。出来栄えを見てほしい人。千差万別その問いかけは様々です。
 ですから、なるべく定時としています。毎日、同じ時間に現場を巡視すると決めておけば、その時間に職人たちが声を掛けてくれます。所長を探して寄ってきてくれる。逆に、こちらからも声掛けをしていくことで、その方向性や方針を示すことができ、後はやるだけの状態をつくれるはずだと信じています。
 現場との接点も時間を設定しておくことで、現場を歩きながら益を得る確率を上げようとしているのです。

大事なのは最初
 職人が新規で乗り込む初日は、気を付けて欲しいことを現地で説明します。前日にいきなり、伝えたいことをまとめられません。思いつきません。
 図面チェックの時に気づいたことや間違えやすいところをメモしたグラフィックレコードのようなもの、種類の多い複雑なものは色分けをした資料を用意しておきます。その蓄積を机上で出来る限り、やり終えておきます。資料と共に、乗り込み初日にキックオフというかたちで職人にレクチャーするイメージです。
 大事なのは、出来る限り図面で「グラフィックで分かりやすく」がポイントです。口頭での指示は「言った言わない」を引き起こす癌です。口頭はNGです。最初のキックオフをやっているからこそ、職人は方針や気を付けなければいけないことを把握します。あとはシンプルにやるだけの状況こそが、安定材料となるのです。

現場のセンス

 現場をみろ 現場から醸し出す空気を拾え
 させてはいけない「3つのこと」を回避するにはセンスが必要です。
現場のセンスとは、現場の微妙な変化や物事の方向性を悟る働きだとします。現場のセンスは磨かれていくものです。
 その磨き方は与えられるものではありません。現場の気づきの蓄積によって磨かれます。自ら拾いに行くものです。拾い方は人それぞれ、やり方があります。自らのやり方を試行錯誤し、現場で実践し、検証する。それぞれのオリジナルを導いてほしいと願っています。まずは、先輩に金魚のフンのようにくっついて真似から始めても良し、やってみることです。


 反省のないものに成長はない
 なにか問題が起きたときは監督のせい、指示が悪かったと思うこと。「職人が勝手にやった」や「所員がうまく動かない」ではないのです。職人に勝手にやせてしまったこちらの指示ミスや妥協、指導不足、確認不足です。そうやって現場所長は反省し、「次は同じことをやらない」と対策を練り、その積み重ねが所長としてどんどんステップアップします。早い段階で問題に気づき、リスクヘッジにつなげていく。その蓄積が手掛ける建築を、倍々ゲームで良いものしていくだろうと信じています。

 職人や業者が儲かれば、現場も儲かる

 批判ではありません。よりよい建築の創造を目指すための提言です。職人の仕事が延びれば工期は短縮、早くて、きれいで、やすい結果がついてきます。職人の手間は伸び、施工単価が上がり儲かます。現場は綺麗な仕上りと早く工事が完了することで、時間の安定を手に入れることができます。

 職人や業者が儲かれば、現場も儲かります。そうなれば「いまさらジロー」は死語であり、その言葉を現場で使うこともないでしょう。


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