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拙速スタディで乗り越える

 建築は未知なるものの二つとないもの。答えのない問題に答えを出す作業です。一発で出来ない。現場は生ものなのです。

拙速スタディ

 現場巡視の質は、図面チェックによって、レベルが上がる。図面チェックをしているから、現場をみれるといっても過言ではありません。また図面チェックは現場を、思い通りに掌握できる武器であり、現場のごちゃごちゃした問題から開放してくれる安定剤となります。なぜなら、図面チェックから得た多様な課題と共に、建築の完成形のイメージが頭の中にあるからです。
 では、どのように施工図をチェックしていくかです。本屋さんに行けば、施工図チェックの仕方などのマニュアル的な教科書はあります。ただし、チェックは出来ますが、時間は掛かるし、読めば現場が全てうまくいく訳ではないのです。建設中の現場や引き渡し後に起きる問題点を、洗い出す作業が図面チェックです。その洗い出し方は一辺倒のマニュアルで、表現できるものではないのです。一撃でチェックの仕方や方法論を伝えられないですが、狙いや思いは伝えられるかもしれません。

 そもそも施工図の作成やチェックは完璧なものを、一発で出来ません。じっくり考えて、段階的に精査し、PDCAをぐるぐる回しながら最終形に到達する必要があります。

 施工図といっても平面詳細図や躯体図、総合プロット図、製作図など多岐にわたりますし、そのチェックの項目は法規、構造、機能性、など細かな条件を満たしているか確認する必要があります。とにかく施工図はすべての確認が終わって、初めて完成します。

 施工図を現場に発行するまでは拙速的にスタディを重ね、完璧につなげていくことを目指します。ここでのスタディは勉学をするではなく、新しい工夫や方向性を示し、精査、検証することを意味します。建築は世界に一つしかない構造物を創造する作業です。基本的なスタンスはどんどん絵を描いて、形にしていきます。

「拙速は巧遅に勝る」です。 完璧なものを期限ギリギリで出すよりも、たたき台を作って、多方面にまず確認してもらう。方向性があっていればそのまま突っ走ればいいけれど、間違っていたら、すぐさま修正すればいいのです。最後までまとめて全然違うものを作ってしまって、一からやり直しより、よっぽど生産的です。現場は生ものです。モタモタしているうちに賞味期限が切れて、取り返しがつかなくなります。停滞は癌です。進められるものは進める。早いことに越したことはないのです。

 もしも現場に図面を発行し、その後変更となったらどうなるか?
 発行した図面からの変更は、すべてお金かかります。現場に発行しているということは変更前で職方がすでに施工し、メーカーが製作に取り掛かっているからです。現場に図面を発行する前に、机上で想定できる問題点はすべて解決しておく。解いておくことです。

 施工者側の勘違いも恐い
 施工者側だけが「完璧だ」と思っていても、設計や施主が同じように「完璧だ」と感じていただけるとは限らず、独りよがりになる危険性があるということです。「そこまでの付加価値は求めていない」とか、「それだとコストが掛かり過ぎている」とか、施主の求めているニーズとズレが生じることがあるからです。そうしたリスクを回避するには、とにかくスピードをもって確認してもらうことです。

 建築は未知なるものの二つとないもの。答えのない問題に答えを出す作業です。図面チェックもその答えを出す作業の一端であり、目的をもってチェックする。その折に、自分が大事にしていることを4つにまとめると次のようになります。

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think before:~する前によく考える:共通項を探す

 「よく考えてチェックしろ」とか「先を見てやれ」と言われても何をどうしたらいいいかわからない。
 そんな時は共通項を探し、考える種類を減らし整理をすることです。工種を絞って色分けし、シンプルにまとめていきます。白黒の図面では、どんな仕上げなのかパッと見て分からない。色を付け、識別し、パッと見で理解することが単純化のミソです。
 例えば平面、立面、断面図を使って、アスファルト防水は赤とか、塗膜防水は黄とか、塗膜防水でもX-1とX-2は色を変えるとか、防水は防水でも種類毎に分けておきます。設計図に表現されていない防水範囲やその他断熱範囲、樋のルートなどをパッと見でわかるようにしていきます。
 建物機能の根幹にある工種の範囲は、確定しておきたいのです。業者別、工種別に色分けをしてみて、建物の機能を満足しているか、機能していない点、納まっていない点を監理者や設計者に質疑及び施工的な見地を合わせた提示が必要です。
 まずは設計図が、どうなっているか?変更する必要があるかどうか、VEも含めて提案できる要素を探しておくことです。
 なぜならそこが違うとなれば、納まりがすべて変わってくるからです。アスファルト防水ではアゴつきにするとか、端部の押え金物が必要になってくるなど躯体形状や取合いの納まりが変わってくるからです。それら工種の範囲図のような色分け図は、のちに業者への取極め資料になり、職人への指示書にも使用します。

  また、共通ルールというか、共通納まりも整理しておく必要があります。サッシの抱き寸法や枠のチリ寸法などの納まりも、共通事項として最初に押さえておきます。そこが変更になれば、絡む図面の全てを修正しなければならないからです。これらは施工図を作成、チェックするための前段取りです。まずは、整理と準備をやるべきです。

pass & go:全ては同時進行

 常に同時進行を、心掛けたい。何かやっている時に、別の何かをやる。自分しかできないことはなにか?代わりに誰かにやってもらうことはないか?大量の業務量を減らし、ちょっとでも前に進める。チェックしたもの、修正が必要なものは、机の上で、埃をかぶらせるわけにはいかない。とっとと図面屋さんや業者へ流し、修正を期日を設け依頼し、次のチェックに取り掛かりたい。机の上には残務がない状態。誰かにボールをパスしておきたい。ラップしながらの同時進行で、設計図を具現化する段取りをしていきます。

look around:周り[辺り・前後]を見回す:取り合いを確認する

 一つ動かせば上や下、右や左など、接するもの全てが変わっていく。変わったら、取合いは、整合性を全て確認する必要があります。サッシの位置を動かせば、躯体も動く、接している間仕切りも動く。修正しなければならない図面は、サッシ図、額縁図、躯体図、平面詳細図、天井伏せ図などたったサッシ1枚の移動でこれだけの図面修正が必要です。移動したら移動したで、スイッチやコンセントが納まっているか、打込金物が納まっているかなど不具合のないことを、確認しなければならないのです。

 また、製作図と施工図はすべてリンクさせる。施工図を一つ変更となれば、紐づき感覚で、製作図も同時に修正を加える。リアルタイムでやらなければ、絶対忘れてしまうからです。なぜなら、製作図と施工図の不一致は現場において混乱の芽となります。実際に施工した時に、不一致に気づけば、そこで再確認作業が発生します。その作業自体、無意味です。図面で整合を取っておけば済む問題です。図面チェックにとって重要なファクターは整合性です。

bird's-eye:俯瞰的に見直し

 いよいよ全ての項目のチェックも終わり、施工図が完成へと近づいた時に、俯瞰的に図面を眺めます。もうこの段階では、反省会というか今までのチェックを、走馬灯のように思い返し、見直しをしていきます。
見返しの意識は4大不具合にあります。技術屋として、「割れる」「はがれる「落ちる」「漏れる」 ものはつくらないと心に決めています。そのような不具合が発生することを、机上でわかっていながら施工することはナンセンスです。なので、この4大不具合が起きそうにないことを、最後に確認していきます。この見直しは、勿論チェック段階でも意識しています。最後にもう一回見直しです。
 「納まり上厳しくて、何とか納まっているけど、施工誤差で雨漏れになりそう」というところは、施工段階で実際に、その部位を現場で対物確認します。このポイントが現場巡視の質を上げることにつながります。

 実は、図面チェックの段階で難儀した不具合が起きそうなところ、チェックに手間が掛かったところは案の定、現場で問題が起きています。ですからその点が、現場巡視で確認するポイントになります。試行錯誤したチェックは記憶として、脳に蓄積されています。そのコトが図面を見なくても現場をみれるスキルへとつながっています。

 最後の最後に施工図が出来たーって段階で、そのような思いを巡らせながら、まだ確認不足はないか?忘れているところはないかを、俯瞰的に見直しをしています。

本当の本当の最後に

 職人は紙の図面をみて、仕事をします。実際に、紙に出力して、職人にどう伝わっているかを確認します。文字や寸法が小さくなりすぎていないか、通り芯から寸法を追えるようになっているかを確認します。寸法が読めなければ、職人も読めません。そこで仕事が止まってしまいます。
 職人は「図面が読めない」と監督に言い、監督は図面を修正し、再発行する。もうこれで、1日が過ぎていきます。もう無駄しかありません。紙の状態で最終確認し、準備万端に整えて、施工をスタートさせるのです。

現場監督のスキル

 このように拙速スタディで得たチェックの集合が、施工図として完成され、建築を具現化する元となります。図面チェックにおいて試行錯誤のチャレンジは、思考力の鍛錬となり、現場を正解へと導きます。それは単に時間の浪費ではなく、結局、現場で起きる問題に直面する前の、準備であり段取りなのです。

 拙速的スタディを重ねていき机上で、「大丈夫だ」という確信を得て施工する。この当たり前の真の原則のなかに、現場を歩くだけで、益を持たらす現場監督のスキルが隠れているのです。

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