【1000文字小説】これから出会う君へ

僕が過ごすはずだった人生は、もっと、ずっと素晴らしいもののはずだった。

人類は、現在。AIによってコンピューター上で"情報"として生きている。三千年前に開発されたシステムによって、意識をコンピューター上に移すことができた。そこから、何度も改良が行われ、ついにコンピューターの中にもう一つの生存圏 i を作ることができた。つまり、我々人間は現在、コンピューターの中に感覚と意識を持ち、暮らしている。

不老不死を手に入れた人類だが。少しでも生物らしきものを残しておきたいという本能なのか、自分の意識や記憶を持ったまま百年おきに別の人間に生まれ変わることが義務付けられた。

そして、その二百年後。この生存圏 i では自らの生まれ変わり先の人生を計画できるシステム"Maker"が開発された。それによってまた、このコンピューター上に資本主義的競争が起こるとも知らずに。

「人類全体の幸福度の総量は0である。」AIが見つけた最新の定理だ。
簡単に言えば、誰かが幸せになると、その幸せの大きさ分。他の誰かが不幸になるということだ。わかりやすい、実にシンプルなシステム。

ただ、"Maker"が開発されて五十年後、とてつもない格差が生み出されることに人類はようやく気がついた。

「"Maker"を使って、幸せな次の人生を設計した人がいる分。他の大多数の人間が多大な不幸を被る。そして、"Maker"の製造者は多額の仮想通貨を支払えば、支払うほどオプションをつけられて次回、幸せな人生を送ることができるらしい。」

オプションとは、結婚ができたりいい仕事に就けたり、人生のあらゆる物事で運が良くなったりとかいういわゆる、ドーピングみたいなものだ。また"Maker"で設計するときに大雑把に計画するか細かく計画するかによっても金額が変わるらしい。

問題点はここにある。仮にA氏が人生を計画してB氏と出会うことになったとしよう。そうなると、何も手がつけられていない人生つまり、本来であればC氏がB氏と出会うはずだった人生は成立しなくなる。

さらに言えば、一度"Maker"で金持ちになるという人生を計画した人は、次回の人生でも多額の仮想通貨によって幸せな人生が送れる。しかし、その仮想通貨は大多数からの搾取で生まれている。金持ちはさらに金持ちに、貧乏人はさらに貧乏に。人類が気づいた時には、富だけではなく幸福の格差が大きく広がってしまっていた。

そんなコンピューターの時代に生まれた俺は。

出会うはずだった人との出会いを"Maker"によって奪われた。

しかし、俺がそれに気がつくのは、随分と先のことで、気づいた時にはもうなにもかもが遅すぎた。


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自分でもどうなるかわからない面白そうな題材なので続きも書いてみるかもです!

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この作品の一つ前の時代の話


映画を観に行きます。