シリーズB 13億円資金調達の裏側
こんにちは。
株式会社IVRyの今西(@IVRy244)です。
以下プレスリリースのとおり、IVRyは2023年3月のシリーズBラウンドにて13.1億円の資金調達を実施しました。
私自身がこれまで制度会計・管理会計を主にやってきた人間でしたので、ファイナンスに関しては門外漢、資金調達も当然ながら未経験という条件でこの資金調達プロジェクトを開始しました。そのせいもあり、投資いただいた株主の皆様はもちろん今回はご縁のなかった企業の皆様にも沢山のご迷惑をお掛けしてしまいましたが、同時に色々なことを学ばせていただきました。
結果的には、10億円を超える資金調達を実施できたので、「事前に知っておければよかった」「ここは苦労した」といった振り返りをまとめてみます。
また、上記のリリースと併せて、資金調達記念ブログリレーとして、CEOをはじめとしてセールス・マーケ・エンジニアなどの各視点から「IVRyはこれから何を目指すのか?どこへ向かっていくのか?」を説明した記事も出しております。IVRyの将来がよくわかる記事となっておりますので、よろしければご覧ください。
アブストラクト(忙しい方向け)
個人的な経験から特に強調したい点を3点に絞ると次の通りです。今回の記事、中には一般的な内容も含まれておりますが、この4点については実際に困った点となります。
1.事前準備フェーズ('22年4〜8月)
着金から逆算すると1年ほど前からシリーズBへ向けたプロジェクトが始まりました。このフェーズにおけるポイントは「後のフェーズをいかに効率的に運営できるか、また、いかに精神的に安心した形で臨めるか」になると考えています。
具体的には以下の6点を実施しました。
1-1. Want:銀行借入の実行
実施できると望ましい項目となりますが、本格的に資金調達の手続きに入るまでに銀行等からの融資を試みるのは以下の2点において有益であると考えています。
aについては、月次で成長していることが多いであろうスタートアップにおいて、資金調達の時期を遅らせることは基本的にはバリュエーションの向上に繋がることが多いと考えられるためです。また、反対に、市況等によっては望むバリュエーションがつきにくいこともあるでしょうから、そういった際にbの保険の効力が増します。
実際、IVRyにおいてもエクイティ調達の本格的な準備に入るまでに銀行2行から融資・追加融資を頂戴することができました。それによってランウェイを伸ばすことができ、結果的には残高的にも精神的にも余裕を持った状態でシリーズBのラウンドを終えることができました。
なお、「DD中など資金調達のプロセス中に大きくB/Sが動くことを快く思わないVCがいる」と聞くこともあるため、VC等と具体的な話を始める前に融資は完了しておけるのが望ましいです。
1-2. Must:事業計画の作成・更新
事業計画の策定は以下の2つの点でMustであると考えます。
具体的な内容やフォーマットは別途お調べいただく方が詳細かと思うので割愛しますが、作成対象とした期間とプロセス・体制については少し詳細に記載します。
作成対象とした期間について
10年分のPL計画、および、その元データ・根拠となるチャネルごとの売上とマーケ投資計画、人員計画、経費計画を作成しました
10年と聞くと長く感じられるかもしれませんが、Jカーブではなくではなく線形に伸びやすいというSaaSの性質もあり、10年ぐらいの計画を作っておいたほうが良いと考えての結果です
プロセス・体制について
次の3つの視点で事業計画を評価しながら作成しました
経営企画視点での計画/フォルム
実担当者視点での計画/フォルム(ボトムアップ)
ビジネス構造が似ている企業のIR視点での計画/フォルム
体制については、経営企画チームで目標とする計画を大枠で決定、同時に、マーケ・セールス・プロダクト等の実務実行者へKPI等を割り振ってボトムアップ計画を作成しました
ボトムアップで計画を立てる理由は、現実的にどのような積み上げが必要なのか?を明確にすることと、実実行者が自ら計画を作ることによって、数値の構造を把握し、数値責任を持つことを意識したためです
1-3. Must:目標とするバリュエーションと調達額の設定
資本政策に関する話です。
1-2.にて少なくとも上場までの期間で必要となる資金が算出されます。よって、ここではその金額をどのように調達するかを検討・決定します。
具体的には、次の2点を検討し、シナリオ立てを行いました。
ここでのポイントは以下のような点を勘案して一貫したストーリーを作成することであると考えています。
上場後も事業価値(時価総額)を拡大し続けるために自分たちはいくらで上場を目指すのか
↓
そこから逆算して今回のラウンドで必要なバリュエーションはいくらか
↓
そのバリュエーションは類似の上場企業や同業他社と比較して妥当か
1-4. Must:ピッチデックの作成・更新
内容は、他社が実際に作成・利用したものが公開されている(公開いただいている方々、本当にありがとうございます!)ので、そちらを参考になさるのがいいかと思います。
コンテンツをどこまでリッチにするか、また、どこまで見た目に綺麗なデックにするかについて悩まれるかもしれないですが、それはピッチデックの位置付けで変わりそうという印象で、企業のフェーズに加え、極端に言うと以下軸で整理できるかと考えております。
当然、先方社内での説明のしやすさ等の点でaの方が投資家にとって望ましいものであるでしょうが、作成する時間と手間とのトレードオフになります。
※弊社における反省
IVRyにおいては、どちらかと言うとbの位置付けで臨み、さまざまな投資家とMTGする中で共通して受けた質問等についてはデックに加えていく形としました。ただ、振り返って考えると、ピッチデックはaとして位置付けて、もっと内容を拡充し、見た目としても綺麗にすべきだったと考えています。
理由としては、一定のバリュエーション規模を超えてくると、ピッチデックのリッチさ・綺麗さによってバリュエーションが数%でも向上すれば、投下した時間や費用がペイするためです。
次回のラウンドでは、この点は意識的に強化したいポイントです。
1-5. Want:バーチャルデータルームの設置
かっこいい名前で言ってますが、DDの際に提出するであろう情報を一箇所にまとめておきましょうという話です。IVRyにおいては、Google Driveで以下のようなフォルダ群を作っておき、投資家の方々とDDに入る際にはまとめて情報をお渡しできるようにしていました。
余談ですが、シリーズAからの既存投資家であるフェムトさんにこの形でパッケージをお渡しした際、『起業のファイナンス』の筆者としても有名な磯崎さんが「ちゃんとした会社っぽく見えますね〜」とおっしゃっていたので、この準備の効果は絶大だと思っています。笑
1-6. 投資家リストの作成
1-3.での検討内容も参考に、投資領域やフェーズ、チケットサイズが合いそうな投資家候補をピックアップします。そのための資料としては、スタタイさんが用意してくださっているスタタイDBやX TECHの古川さんが公開なさっている日本国内ベンチャーキャピタルリストなどを使うのがオススメです。
ここでのポイントは3つあると考えています。
「知っておけば良かった」となりそうなのは c.の"紹介を打診すべし"かと考えます。VCの商習慣かと思うのですが、最初に接触した人が担当として固定されるケースが多いです。その担当者が投資決裁用の資料作成や稟議を上げていくので、業界や市況に詳しい担当についてもらえる方が有利に働くケースが一般的には多いことが想像できます。よって、既存投資家や既に関係性のある信頼できる方から担当者ベースでVCを紹介してもらうことをオススメします。
1-7. 既存投資家からの追加投資意欲のサウンディング
新規の投資家との面談に入る前に、既存投資家には各種資料を共有し、実際にプレゼンも行ってみるのが良いと思います。すると、足りていない要素やアピールすべきポイントをレビューしてもらえるので、より自信を持って新規投資家とのMTGに臨むことができます。
加えて、追加出資の意欲と金額感を聞いておくこともオススメします。ここである程度の金額が見えると精神的に少し落ち着けると同時に、これから会う新規投資家との話し合いにおいてもプラスに働きます。
新規投資家からすれば、投資検討中の会社の内情を自分たちよりよく知っているはずの既存投資家が追加投資をしない場合、「何か良くない材料があるのではないか?」と思って投資意欲が削がれてしまう恐れがあるためです。
幸い、弊社の場合は追加投資に前向きなお返事をいただけたので、良い形で以降のプロセスに入ることができました。
2. 初回面談フェーズ('22年8月〜)
ここまでくるとアポも設定できるので、実際に投資家たちに会っていきます。
2-1. 初回面談
初回面談では、事業側と投資家側、お互いの概要紹介をして質疑応答という流れが多かったです。MTGの冒頭で「本日のアジェンダは○○で、それぞれx分くらいで良いですか?」と言った確認を取るとスムーズに進むと思います。
IVRyからは上で作ったピッチデックをベースに説明しました。
反対に、IVRyからは、以下8点の確認は決まって行うようにしていました。
a. については、1-3.で定めた目標との合致も見ながら後述する3-3.のプロセスにて判断材料となる情報です。
b.については感覚的な話になりますが、議論の内容や受け答えの方法などから"合いそう・合わなさそう"といった何らかの印象は抱くと思います。投資してもらうと、それなりの近さで仕事をすることになる方々なので、そういった印象もMTG後にチーム内ではシェアしておくようにしました。
2-2. NDA締結
初回MTGが終わると、本格的な検討に入るために資料を送付することになります。その際、弊社ではNDAの締結をお願いしておりました。
外資系に多いようですが、NDA締結不可なVCも一部存在します。初回MTGの後にその事実が発覚してしまうとお互いに時間の無駄になってしまうため、会社としてNDA締結を必須としたいのであれば初回MTG前にその確認をしておいてもいいかもしれません。
なお、NDAは自社でも雛形を用意しつつ、先方雛形があるのであればそちらをベースに進める方が先方社内での確認工数を削減できるのでありがたがられます。反対に、自社内においては(いくつもNDAを見ているとパターンが見えてくるので)呑めるレベルを定めておけると手続きがスムーズになります。
この締結が完了したら、1-5.で準備しておいたパッケージを共有します。
※顧問弁護士との相談について
契約が絡んでくると顧問弁護士との相談も発生するかと思います。投資家によっては自社と同じ弁護士事務所と契約しているケースもあり、その場合、弁護士事務所では利益相反の観点から担当者間での調整(数日〜1週間で済むことが大半とは言え)が必要になります。
したがって、コンタクトする投資家が決まればそれとなく弁護士側に伝えておくと、そういった対応が必要な際に少しスムーズになる可能性があります。
3. リード投資家選定フェーズ('22年9月〜)
初回面談・資料共有が終わると本格的な検討フェーズに移ります。その際、2-1-a.の質問にて「リード投資家になれる」と回答してくれた投資家から先行して手続きを実施していくことになります。
リード投資家とは、一般的にはそのラウンドで最も大きな額の出資をしてくれる投資家であるとされ、バリュエーションや契約条件などもその投資家と主に決定していきます。対して、他の投資家(フォロー投資家)は、基本的にリード投資家が定めた条件で投資をする・しないかを決定します。
なお、場合によっては既存投資家がリード投資家としてバリュエーションを決めるケースもあるそうです。弊社においては、既存投資家から追加投資のお約束はいただきつつも、リード投資家を他に見つけようという話になっていたので、リード投資家探しから始めました
このフェーズでは主に以下の2つの手続きを実施します。
ちなみに、この期間中にはSlack、メール、facebookのメッセンジャーなどあらゆるチャネルで多くの投資家と連絡を取り合うことになります。なるべく早期に連絡が取れるように各サービスでの受信に気を配りつつ、各社ごとの進捗や論点などをまとめて確認できるページをnotion等に作っておくことも助けになります。
3-1. DD
DD(Due Deligenceの略。デューデリと呼ばれたりもする)とは、投資家が投資検討するにあたり投資先の事業内容・実態を詳細に調査する手続きです。その内容は企業によって異なりますが、多くの場合は質問表を通じた質疑や追加資料の提出が求められます。加えて、社内のコアメンバーや主要顧客へのインタビューを実施するケースもあります。
このプロセスにおけるポイントは主に2つあると考えています。
1つ目は、経営陣やファイナンス担当のみならず、社内の他職種のメンバーとの協力体制構築です。質問表への回答や顧客インタビューなどはセールスなどの他職種の協力が不可欠です。そのため、プロジェクトの進捗(ピッチの内容や各投資家との交渉状況など)をこまめに共有しておけると、協力が必要な際に背景と目的が理解できている状態から始められるのでスムーズに進むかと思います。
2つ目はスピードです。先方の担当者は、ゆくゆくは我々と一緒に先方社内を説得してくれるパートナーになる方ですので、その方として仕事がしやすいように工夫する必要があります。具体的には、質問票が送られてくればなるべく翌日には回答する、無理な場合も先方の社内決裁スケジュール的にいつまでには必要かを聞いてそれまでに回答をお送りするなど、スピード感を持って進められる方が印象が良くなってくるはずです。
なお、細かい話ですが、質疑については各社から来るものを社内的には1つのスプシ等に集約して残しておくことをオススメします。各社への回答内容に齟齬がないようにしたり、同じような質問には過去の回答をそのまま使えるようになるためです。
3-2. 契約条件の交渉
DDが終わると投資条件の交渉に入ります。その条件は『タームシート』と呼ばれる書類をもって行われることが多いですが、バリュエーションをはじめとして、投資にかかる契約書内の重要な事項に関する条件が記載されてきます。
ここでのポイントは以下の2つだと考えています。
a. 契約書の内容と起こりうるシナリオを理解すること
調べると、株主間契約書や投資契約書において重要な条項は何か?という記事は多く出てきます。対して、それぞれの条項が何を意味しているか、その条件がどうなっていることでどのようなリスクやメリットが会社にとってあるかを理解することは不可欠である反面、法律やファイナンスに明るくない人にとっては難しいです。
よって、顧問契約している弁護士がいればタームシートや各契約書の内容は共有し、それぞれの条項の意味を理解できるまで説明してもらうことをオススメします。
場合によっては1時間以上の時間がかかりますし、料金もかかってしまう手続きになります。しかし、契約で合意した内容は不可逆で、そのために数年後の自分たちが窮地に陥るといった可能性もあるので、リスクを全部排除できないにしても、リスクの内容と影響範囲を把握しておくことが大切になります。
b. 投資家間の調整も必要に応じてアレンジすること
全く初めてのラウンドであれば、交渉は会社&新規投資家の間で行われます。2回目以降のラウンドでもその交渉は引き続き発生するのに加え、既存投資家&新規投資家での交渉も発生します。
清算時の優先分配権や株式売却時のタグアロングなど、投資家間の優先順位がメイン論点である際には、彼らの間で決着してもらえるように話し合いの場を設定してしまうのが早い可能性もあります。
※1 難しい言葉を使ってますが、最初から知っていたわけではなくて今回実際に手続きしていく中で発生したので覚えました。笑 先んじて全論点を理解するのは困難なので、発生ベースで弁護士の知見も借りながら理解してく形で良いと考えています。
※2 と言いつつ、投資契約の概要やその中での個別論点の解説については、BUSINESSV LAWYERSさんが出されている記事が勉強になることが多かったです。以下の記事などは予め読んでおかれても良いかと思います。
3-3. 契約条件とリード投資家の決定
リード候補の各社と契約条件を詰めた後、リード投資家を決定します。複数の投資家が最後まで残った際には共同リードにするといった手もあるようですが、会社としてのスタンスや各社の希望を勘案して決定します。
4. フォロー投資家選定フェーズ('22年12月〜)
実際にはリード投資家との契約条件交渉中などから並行して実施するプロセスではありますが、リード投資家の目処がつくとフォロー投資家とのDDを並行して本格化させます。
DDとして行うこととしては3-1.に記載の内容と同様ですので割愛します。契約条件としても、細かい点で修正要望をもらうことはありますが、基本的にはリード投資家と決めた条件となるので、先述の点は意識しつつリード投資家との交渉よりは軽く済むことが多いです。
フォロー投資家との対応で特に意識すべきポイントとしては以下の2点があると考えています。
a. どのような会社に入ってもらいたいか明確にする
これはリード投資家に対しても言えることですが、投資家と一言で言ってもさまざまなプレーヤーが存在します。VC・CVC・事業会社といった属性の違いもあれば投資のスタンスや金額、得意とするサポート内容も様々です。
初回面談で聞いていた以下内容も参考にしつつ、特にフォロー投資家を検討する上ではそれらの特性を加味しながら自社にとって最適な投資家ポートフォリオを検討します。
また、特に事業会社から出資を受ける場合は事業連携ありきでの検討になることが多いかと思います。そのような際には、以下のような点も加味して決める必要があると考えています。
b. 事前にできることはしておく
リード投資家のケースと同様、フォロー投資家ともNDA締結やDD資料共有は行います。リード候補が決まってからこれらを行っていると余計な時間がかかってしまうため、リードのDD中などに初回面談を済ませ、これらの手続きは完了した状態にしておくと後がスムーズです。
c. リード投資家選定の状況はこまめに共有しておく
フォロー投資家はバリュエーションや契約内容の点でリード投資家が設定した条件をベースに意思決定していくことになります。よって、リード投資家が設定したバリュエーションだとフォローVCの投資スコープから外れてしまうなど、いくら事業が魅力的でも投資できないケースが生じてしまいます。
リード候補の投資家やバリュエーションの規模感は共有しておき、その条件で意欲高く乗ってくれるフォロー投資家と密に話をすることをオススメします。また、リード投資家との契約内容が具体化してきたら、fixしきっていなくても共有し始めても良いかと考えます。
※反対に、リード投資家に対しても「フォローとしてお話しさせていただいている企業リストはこれで、それぞれ確度はどの程度です」といった会話ができていると安心してもらえます
5. 契約締結フェーズ('23年2月〜)
リード投資家とフォロー投資家が確定すると払込期日を確定させるとともに、契約内容のファイナライズと実際の締結手続きへ移っていきます。同時に、プレスリリースの準備も開始していきます。
5-1. 払込期日の確定
以下の点を考慮しながら各当事者と調整して払込期日を確定させます。
b. プレスリリースのタイミングについては、掲載したいメディアの選定や各メディアで掲載可能なタイミング把握を実施しておく必要があります。5-4.でも後述します。
c. 登記手続きについては、増資完了日から2週間以内に登記申請する必要があったり、そこから減資も行う場合には債権者保護手続として個別催告と1ヶ月の異議申し立て期間を設ける必要があったりといった決まりが存在します。協力してもらえる司法書士を見つけて、行わねばならない手続きの内容とスケジュールの関係を整理しておく必要があります。
d〜fについては、各社で事情が異なるのでヒアリングをして把握しておく必要があります。特に、仮に海外投資家が関係してくると、外為法の対応が必要になったり外貨送金によって国内投資家よりも払込にかかるリードタイムが増えたりという可能性もあります。
g. 株主総会決議のタイミングについては、既存投資家との契約において、増資を行う際には株主総会決議が必要という定めがあることが一般的でしょう。その際、株主総会の招集を株主に通知してから決議を行うまでに最短でも1週間(場合によっては2週間)の期間を設けないといけないという決まりになっています。そのリードタイムに加えて、株主によってはその決議を実施できるタイミングが決まっているという可能性もあるので、あらかじめ予定を調整しておく必要があります。
h. 電子締結への対応可否については、これによって締結作業の工数と必要日数が大きく変動する要素となります。弊社のシリーズBラウンドの当事者はみなさん電子締結に対応いただいていたので良かったですが、一社でも電子締結不可な当事者がいると紙締結になりますので事前によく確認してください。
※弊社における反省
もう少し早くこの期日とそれに至るキーマイルストーンの予定を決めて全当事者に共有おくべきだったと考えています。
仮に各社に「12月31日を払込期日で考えています」とコミュニケーションしていたとすると、各社は自社の都合に合わせてそこへ向けたスケジュールを引くのが普通だと思います。対して、例えば今回の当事者に海外投資家が存在する場合、払込までのリードタイムが長くかかる可能性もあることから、契約書の締結を前倒ししておく必要があるかもしれません。その際、そのスケジュールが各社の投資委員会までのスケジュール的に大丈夫か?といった論点が生じます。
今回のラウンド、結果的にはご調整いただいたのですが、上記のような理由からある投資家さんには少しスケジュールを巻いていただきました。可能な限り全当事者が気持ちよく進められることが理想であるため、もっと前もってキーマイルストーンまで期日設定しておくべきだったと考えています。
5-2. 契約内容のファイナライズ
全当事者との間で契約書類を最終化していきます。主要な論点については合意できているものの、細かな点で要望をもらうことも多く、そのような際には当事者の数が増えていることもあって想定よりも工数がかかります。
5-3. 締結手続き
契約書の締結は、先述のとおり、電子締結か物理的な書面締結かによって必要な工数が大きく変わりますのでその確認はよくよくしておいてください。
その上で、電子締結に関する注意点を記載しますと、以下の点を各社の担当者と確認しておく必要があります。
特にb. 依頼の送付先と順番がトリッキーな部分です。
投資家の社内規定などによって押印手順が定められているためでしょう、ある会社では「担当者Aの閲覧の上、押印権者Bが押印する設定でお願いします」となるかと思えば、別の会社では「担当者Aに送付ください。Aから社内の押印担当に転送するので転送許可の設定をお願いします」となります。
極力その要望に則りつつ、使用する電子契約ツールの種類や契約プランによっては希望に添えないケースも存在するので、承認ルートの確認と使用システムでの可否検証は早期に実施しておくことをオススメします。
5-4. プレスリリースの準備
資金調達のニュースはスタートアップが自社を広報する絶好の機会となるため、今後の潜在投資家や採用候補者、ひいてはクライアントやユーザ向けなどの目的に応じてリリースの媒体やタイミングを検討し、そのメリットを最大限享受できるように準備しておくことをオススメします。
PRはファイナンスの担当者とは別にタスクフォースや担当者がつくケースが多いかと思いますが、弊社においてもプレスリリースはPRチームが担当してくれました。
アプローチする媒体の選定や諸々の手配といった社外向けの手続きはもちろんのこと、各媒体のSNSでの拡散方法やリリースの掲載時刻の周知など社内向けにも事細かにディレクションしてくれました。
また、シリーズAの際に書いた記事になりますが、弊社がPRを行う上でやっていることは以下にまとめておりますので、よろしければご覧ください。
※備考
海外投資家がいる場合など、投資額を外国通貨(例えばUSドル)ベースで定めていると為替レートの上下で払込金額が大きく変動してしまう可能性があります。
後述する"祈り"に頼るという方法も取れますが、事前に円転してもらっておくであったり円ベースで払込金額を定めておいたりといった手はこの段階で取れるかもしれないので、必要に応じて検討してみてください。
6. 祈りと祭りのフェーズ('23年3月下旬)
ここまで来れば、あとは各投資家からの払込が無事に実行されることを祈る日々になります。無事の着金確認を挟んだ'23年3月29日にプレスリリースを迎えることができ、今度は社内の全員で拡散とお祝いの祭りをしました。
PRチームによる尽力もあり、日本経済新聞さんやDiamond Signalさん、ForbesさんやBridgeさんに取り上げていただくことができました。
また、PR TIMESでは旬速1位を獲得することもできまして、社内で盛り上がっていました。
まとめ
銀行借入から考えると足掛け1年と比較的長期に渡ったプロジェクトとなりましたが、「スタートアップ冬の時代」とも言われるこのタイミングにおいては良い資金調達ができたのではないかと考えております。
資金調達に関しては自分達でコントロールできない部分が多いですが、結局はコントロールできる部分で最善を目指すしかないと思いますので、①ファイナンス担当としては自社の魅力を伝えつつ手続きをなるべく効率良く・気持ち良く進めること、②それ以外のメンバーについてはこれまで通り粛々と事業成長させることしかできないとも考えています。
そういう意味で、弊社においては(細かいミスはあったものの)投資家の方々含めてチームとして協力して乗り越えつつ、事業側には事業成長に集中してもらうことができたかと考えております。
よって、冒頭にも書きましたが、今回の学びを少しでも活かして還元するためにこの記事を書きました。少しでも多くの人の役に立てれば幸いです。
最後に(採用告知)
今回の調達の結果もあり、IVRyはこれまで以上の事業成長を実現できるチケットを手に入れられたと考えています。実際に、大手企業や、成功したスタートアップでエースを張っていた人材のジョインも増えております。
もし少しでも興味があれば、気軽にカジュアル面談や採用応募をしていただければ喜びますので、何卒よろしくお願いいたします!
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