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【お薦めの一冊】 投資の世界の不都合な真実 / 「まぐれ - 投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」 ナシーム・ニコラス・タレブ

今まで多くの本を読んできました 。

その中には、私の人生に良い影響を与えてくれた本が沢山あります。

そんな本の感想を書き留めておくことで、私自身の備忘のためにも、また、これを読んで下さった方の本選びにも、少しでもお役に立てればと思っています。

1.投資で利益が出てきた人にこそ読んで欲しい本

本書は、題名に「まぐれ」とあるように、投資家が利益をあげた際に、それが本来であれば運に過ぎないのに、実力と勘違いしてしまう点を指摘したものです。

ウォール街のプロが顧客に最も読ませたくない本」との謳い文句がある通り、本書ではウォール街のトレーダー達を痛烈に皮肉っています。

ただ、この「運を実力と勘違いしてしまう」点は、プロだけではなく、私たち素人にも十分起こり得ます。

色々と投資の勉強をして、ようやく利益が出てきたのであれば、それは運ではなく実力だと思うのも当然です。

私たち素人よりも多くの時間を投資に費やしているプロであれば、私たち以上に、それを実力だと誇示するはずです。

本書でも、やはりそのようなトレーダーが多く登場します。

では、そのように運を実力と勘違いしたトレーダー達に、一体何が起きたのでしょうか。

実は、そのようなトレーダーは皆、ある日、投資で大損をして市場から退場していったのです。

本書は、皆さんが、そのような一人にならないための書籍です。

なお、以下で紹介させて頂いた書籍「投資で一番大切な20の教え 」においても、本書「まぐれ」について、非常に興味深く重要な書物として取り上げられています。

2.著者ナシーム・ニコラス・タレブとは

著者のナシーム・ニコラス・タレブは、本書で、自らを数理系トレーダーと呼んでいる通り、トレーダーとしての経歴は華麗なものです。

主な経歴だけでも、

・UBSの常務取締役兼専任トレーダー
・BNPパリバでの専任トレーダー
・シカゴ・マーカンタイル取引所での独立オプション市場の開発

などがあります。

1999年にトレーダーとして引退した後に、 Empirica LLC という金融ファンドを創設しています。

その後、不確実性をテーマとした文筆業と研究に専念するようになり、大学教授として、マサチューセッツ大学アマースト校での学長専任教授や、ニューヨーク大学での助教授なども務めています。

そんな、トレーダーとしての実務経験もあり、かつ、不確実性を専門に研究している筆者が指摘するだけあって、本書が述べる「トレーダーが運を実力と勘違いする」という点については、非常に納得できる説明がなされています。

本書は、翻訳が少し読みにくい所がありますが、投資の参考としても、また、確率やランダム性を扱った読み物としても非常に面白いものとなっています。

3.なぜ、運を実力と勘違いするのか

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本書には、投資で成功した華々しく儲ける多くのトレーダーが登場します。彼らは、その成功を自身の能力と誇示していました。

一方、筆者は、それを「運がいいだけのバカ」と指摘していました。

そして実際、そういたトレーダー達は、自分には投資の能力があると誇っていたのにもかかわらず、遅かれ早かれ皆市場から吹き飛んで退場したのです。

なぜこのような事態に陥るのでしょうか。

投資の世界では、リスクとリターンには相関関係があり、大きなリターンを得たということは、大きなリスクを負っていたことを意味します。

しかし、このように一度大きな成功を収めたトレーダー達は、その成功を自分の実力と思い込んだだめ、「自分の投資スタイルは完璧であり、これからも、当然に利益をあげ続けられる」と思うようになりました。その果てには、やがて、「自分が大きな損をする可能性などは無い」とまで思い込んでしまったのです。

つまり、彼らが大儲けできたのは、単に大きなリスクを取っていたからに過ぎなにのですが、一方で、その背後にあった大きなリスクに気付かなくなっていたのです。

残念なことに、彼らは、投資における大きなリスクを認識した上で勇敢に取引を行なっていたわけではなかったのです。単にリスクを全く分かっていなかっただけなのです。

つまり、彼らは、本来であればリターンとリスクは表裏一体にもかかわらず、

自分には投資の実力があるので、小さな(又は全くない)リスクで大きなリターンを得られる

と勘違いしていたのです。

冒頭にも述べさせて頂いた通り、このような勘違いは、プロだけでなく、私たち素人にも容易に起こり得ます。

その原因として、

私たちは、リスクの把握、つまり、物事の発生する確率・不確実性・ランダム性を全く理解できていない

という点があります。

皆さんも、これから述べる以下の点に思い当たることはないでしょうか。

もし思い当たる点があれば、あなたも今後、運を実力と勘違いしてしまうかもしれません。

4.あなたも確率が理解できていない?

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早速ですが、皆さんに確率についてのテストをしてみます。以下の問題を考えてみてください。

【平均を上回る確率】

ある国で、国民の年収を調査しました。その結果、国民の50%を上回る個人が、国民の平均年収を上回っていることが分かりました。そのようなことがあり得るでしょうか。
(本書第6章参照)

この問題については、答えが簡単に分かった方が多いかもしれません。

答えは「あり得る」です。

これは、平均値と中央値という観点で、日本の平均年収においてもよく語られています。

日本の国税庁発表の民間給与実態統計調査結果によれば、平成30年の日本人の平均給与は441万円です。

単純に考えれば、年収が441万円の人が日本人のちょうど真ん中に位置して、年収が441万円より高い人が50%、低い人が50%いるように思えます。

しかし、実際は異なります。

日本では、一部の高所得者層の存在により平均年収が引き上げられており、日本人のちょうど真ん中に位置している人の年収は360万円程度です。つまり、年収が360万円より低い人だけで50%もいることになります。

つまり、平均年収である441万円を下回る人は50%以上存在しているのです。

そのため、逆に、’本問のように、平均年収を上回る人が50%いる国も、当然あり得るのです。

本問は簡単だったかもしれませんが、以下の問題はどうでしょうか。

【病気に罹患している確率】

ある病気の検査をしたところ、5%の割合で偽陽性(本当は陰性なのに、陽性の反応が出ること)が出ることが分かりました。人口の1000分の1がこの病気に罹っています。無作為にある人を検査したところ、陽性の反応が出ました。この患者が病気に罹患している確率は何%でしょうか。
(本書11章より)

どうでしょうか。少し複雑になると私たちは確率というものが全く分からなくなってしまいます。

もし、95%と答えたのであれば、やはり確率が分かっていません。確率が分かっていないということは、投資においても、リスクとリターンが見合っていない投資を行っているかもしれません。

その結果、自分で想定している以上のリスクを負い、投資で大損をする可能性もあります。

答えについては、本書11章をご参照下さい。

それでは、さらに問題です。

【平均寿命を踏まえたマネープランニング】

日本人の平均寿命は、2019年の時点で、男性が約81歳、女性が約87歳でとなっています。
これを踏まえて、40歳の男性が、あるファイナンシャルプランナーにマネープランを相談したところ、こんな事を言われました。
「あなたは、今年で40歳になる男性ですので、あと41年生きる可能性が高いです。それを踏まえて貯蓄や資産運用を考えましょう」
果たしてこの考えは正しいのでしょうか。
(本書11章より)

どうでしょうか。

一見すると正しいようですが、実は、確率的には、この男性はあと41年よりも長く生きる可能性が高いのです。むしろ、あと41年しか生きられない可能性は低いです。

なぜ、この男性が平均寿命より長く生きる可能性が高いと言えるのでしょうか。

ヒントは、以下の点を考えてみて下さい。

仮に、85歳の男性が同じファイナシャルプランナーに相談したら、以下のようなことを言うのでしょうか。
「あなたは、今年で85歳になる男性ですので、4年前に死んでいるはずです。」

答えは、本書11章をご参照下さい。

このように、私たちは、身近に存在する平均や確率といった概念でさえ、正確に理解していないことが多いのです。

5.あなたも過去にとらわれている?

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上記の通り、確率を理解していない私たちですが、さらに過去の事象にとらわれ過ぎてしまうという欠点もあります。

まず、次の問題を考えてみて下さい。

【サイコロの確率】

私がサイコロを振って「2」の目が出ました。今、私があなたにサイコロを渡して、サイコロを振って下さいと言います。
さて、あなたがサイコロを振って「2」を出す確率は何分の1でしょうか。

おそらく、ほとんどの方が6分の1と言うはずです。

もちろん正解も6分の1です。

では、次の問題はどうでしょうか。

【サイコロの確率】

私がサイコロを振って「2」の目が出ました。もう一度、私がサイコロを振ったら、また「2」が出ました。
今、私があなたにサイコロを渡して、サイコロを振って下さいと言います。
さて、あなたがサイコロを振って「2」を出す確率は何分の1でしょうか。

やはり、ほとんどの方が6分の1と言うはずです。

しかし、少しずつ、2回連続で「2」が出ているので、次に「2」が出る確率は少ないのではないかと思い始める方もいるかもしれません。

このように、私たちは、サイコロである目が出る確率は常に6分の1と分かっていながら、どうしても過去にどのような目が出ていたかにとらわれてしてしまうのです。

そして、このように過去にとらわれる傾向は、投資の世界ではより顕著になります。

例えば、2021年2月時点では、市場はコロナショックから立ち直り、上昇基調となっています。

そのような中で、今後もしばらくは株価は上昇するはずと思う方も多いはずです。

しかし、冷静になって考えると、なぜ私たちは、今後もしばらくは株価は上昇するはずと思っているのでしょうか。

その根拠は何なのでしょうか。

・「金融緩和が続いているので、株価は上昇するはず」
・「企業の決算も上向いているので、株価は上昇するはず」
・「コロナショックで昨年既に一度暴落しているので、しばらくは株価は上昇するはず。過去に2年続けて暴落があったことはない」

といった点を根拠と考える方もいるかもしれません。

しかし、この根拠のいずれもある共通点があります。

それは、過去の事実に基づいて判断しているということです。

つまり、

・「過去、金融緩和が続いている時には株価は上昇した」
・「過去、企業の決算が上向いている時には株価は上昇した」
・「過去、2年続けて市場が暴落したことはなかった」

という過去の経験に基づいているに過ぎないのです。

過去の経験を参考にすること自体は間違いではありませんし、過去の経験通りに物事が進む場合も多いのは事実です。

しかし、過去の経験は絶対ではないという点は常に意識する必要があります。過去の経験によれば「しばらくは株価は上がり続ける」などと安易に信じ込まないで、常にリスクに備える必要があるはずです。

それにもかかわらず、自分には投資の実力があると思い込んでくると、このような当たり前のことにも気付かなくなってしまうのです。

もう一度、過去にとらわれ過ぎる点の不合理さについて、具体例を挙げておきます。

【過去の事実に基づく寿命判断】

私は、今年100歳を迎えるAさんについて、過去100年間にわたって、毎年の生存確率を調査してきた。
その結果、なんと、過去100年間にわたって、Aさんの毎年の生存確率は100%であることが判明した。
したがって、Aさんが今後も100年生き続ける可能性は100%である。

このような考えは、誰もがおかしいと思うはずです。

しかし、私たちは、市場について、知らず知らずのうちに、このような考えをしてしまうことがあるのです。

本書で出てくるトレーダー達は、市場を退場する際に、誰もが「こんなことは過去に一度も市場では起きなかった」といって去っていたのです。

6.あなたも偶然やランダム性が理解できていない?

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私たちは、投資やFXなどで大きく儲けている人を見ると、何かそこには成功の秘訣がきっとあるはずと考えてしまいます。

株式を始めとした投資の世界は、偶然やランダム性の影響が強いと心のどこかでは思っていても、きっとそこには何か法則性があり、成功者はそれを知っていると信じてしまうことがあります。

しかし、私たちは、そもそも偶然やランダム性についても誤解しています。

そこで、また問題です。

【ランダムとは】

「サイコロの1から6の目はランダムに出る」ということは、皆さんも当然認識していはずです。
では、サイコロを6回振った時、1から6までが1回ずつ出なかった場合、「このサイコロはおかしい。目がランダムに出ていない」と思うでしょうか。

そんなことはないはずです。むしろ、6回振って、1から6までが1回ずつ出たら、むしろ不自然、又は奇跡だと思うはずです。

このように、ランダムとは、私たちが思っている以上に偏りがあり、ランダムだからといって、常に物事は均等に発生するわけではないのです。

市場も同様です。例えば、5日間連続して市場が上昇したからといって、市場の偶然性やランダム性を否定することにはなりません。

むしろ、1日ずつ、上昇と下降を繰り返していた方が不自然なはずです。

それなのに、私たちは、数日上昇や下降が続いただけで、上昇トレンド・下降トレンドといったものがあると考えたり、また逆に、数日上昇や下降が続いたので、そろそろ、反転する動きを見せるはずと安易に信じてしまうのです。

市場の過去の動きに一見法則性があるように見えるからといって、市場には一定の法則があると信じ込んでしまうと、痛い目を見ることになります。

7.あなたも確率とリターン・損失の関係が理解出来ていない?

それでは、最後の問題です。

【市場は上昇すると予想しつつ、下落に賭ける投資家】

本書の筆者は、ある日、アメリカのS&P500株価指数の先物を大量に空売り(S&P500株価指数が下がれば儲かる仕組みの取引)しました。翌日の朝、市場が開く前に、ある同僚が筆者に当日のS&P500の予想を尋ねたら、筆者は「70%くらいの確率で市場は小幅に上昇する」と答えました。
同僚は当然、筆者に対して「君は空売り(=市場が下落すると儲ける取引)をしているではないか。本当に市場が上昇すると思っているのか。」と疑問を投げかけました。
しかし、筆者は自信を持って、「私は空売りをしているが、市場は上昇する確率が高いと信じている」と答えました。
筆者の行動の理由が分かるでしょうか。
(本書第6章より)

決して、筆者がひねくれているわけでもなく、また、自身の信念と異なる行動を取っているわけではありません。

筆者は、あくまで合理的な行動を取っているに過ぎないのです。

この問題の答えがすぐに分かった方は、確率と投資のリターン・損失をしっかり理解できている人です。

一方、筆者の考えが分からなくても自信を無くす必要はありません。筆者の周りにいた実際のプロのトレーダー達も、ほとんどその理由を理解出来なかったのです。

ただし、筆者の周りのトレーダー達は、ほとんど、遅かれ早かれ市場から退場している点も付け加えておきます。

このような、投資のリターン・損失と確率の関係についての理解をしっかり深めたい方は、本書の第6章を参照下さい。そこに本問の答えも載っています。

8.運を実力と勘違いしないために

本書を読むと実感できますが、今後の投資でどれだけ収益を上げられるかは、過去のあなたの投資実績とはほぼ相関性はありません。

なぜなら、例えば私が以下のようなことを言ったら、皆さんはどう思うでしょうか。

私は2018年から株式投資を始め、過去2年間、連続して年率10%のリターンをあげてきた。
そのため、今後も一生、私は年率10%のリターンを上げ続けることは間違いない。

皆さんは、私が頭がおかしくなったと思うでしょう。

他人の言葉であれば、冷静に判断できますが、いざ自分が投資で収益をあげ始めると心の中では上記のような考えが生じてしまうのです。

心当たりのある方もいらっしゃると思います。「自分だけは特別」「自分は冷静に損切りができる」「自分の読みは正しい」「今年も儲かったから、来年も儲かるはず」・・・

しかし、悲しいことに、かなりの確率で、今後も市場には私たちが予想もしなかったことが起こり、私たちがコツコツあげた収益が一瞬で吹っ飛ぶことが起こり得るのです。

私たちは、そのことを絶対に忘れてはいけないのです。

それを忘れた瞬間に、本書に出てくる「運が良いだけのバカ」になってしまうのです。

9.他人が不確実性・ランダム性に騙されるからこそ、そこに大きなチャンスがある

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本書を読むと、私たちが、いかに確率やランダム性を理解していないかが分かります。

そのような確率・ランダム性に対する無自覚から、不合理な行動を私たちは知らず知らずのうちに取っているのです。

実は、ここに私たちが投資で市場平均を上回るチャンスがあります。

以下の書籍でも述べられている通り、市場を上回る利益をあげるためには、市場にいる皆とは異なる行動を取る必要があります。

なぜなら、「皆と同じ行動=市場平均」だからです。

一般的には、人間は合理的な行動を取る以上、市場にいる投資家達も皆、合理的な行動をとり、そのような投資家達を出し抜いて、市場平均を上回るパフォーマンスをあげるのは困難と言われています。

しかし、本書を読めば、人間がいかに不合理な行動を取っているかが分かります。

だからこそ、その不合理さを自覚し、少しでも他人より合理的な行動を取れば、そこに市場平均を上回る利益を上げるチャンスがあるのです。

筆者は、本書で、人間の確率・ランダム性への無理解を鋭く指摘しているにもかかわらず、自分自身についても「とても非合理で、偶然に振り回され、情緒に苦しみやすい」と述べています。

ただ一方で、唯一の強みは、「そのような自分の弱みを知っていること」と述べています。

確率やランダム性といったことは、なかなか簡単には理解できないものですが、まずは本書を読み、いかに自分がそのような点について無自覚であり、知らず知らずのうちに不合理な行動を行っていたかを気付くことが、投資で大きな損をせず、市場を上回る利益をあげるスタートになるはずです。

本書は、あなたをそのようなスタートラインに立たせてくれる一冊です。

本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

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