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実務者向け原産地規則講座

我が国との二国間貿易のみならず、第三国間のFTAの活用を視野に入れた日・米・欧・アジア太平洋地域の原産地規則について、EPA、FTA、GSP、非特恵の各分野での税関当局実務責任者… もっと読む
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実務者向け原産地規則講座 目次

2022年4月1日配信開始 米国の経済安全保障における原産地規則の役割序章  経済安全保障に関連する貿易制限措置 第1章 ウイグル強制労働防止法(2021年12月成立) 推定に対して米国税関が輸入者に求める反証 米国政府から企業者への警告 ポリシリコンに係るサプライチェーン・トレースを行う上での注意点 ウイグル強制労働防止法上の推定への反証と原産地規則が果たす役割 第2章 米国の制裁措置の全体像と経済制裁 第1節 米国の制裁措置の全体像とその権限 (1) 大統

経済安全保障における原産地規則の役割(総論+各論)

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特集:米国の電気自動車に関する原産国判断

 今回は、通商法第301条適用の可否を問う電気自動車事案を米国税関の事前教示事例検索サイト 「CROSS」 (https://rulings.cbp.gov/home) から数例を取り出してガソリンエンジン車事例とも比較しつつ検証します (事例の翻訳は筆者による仮訳)。  また、今回の事例検証を通じて輸出入業務に従事する方々への警鐘となる事実も指摘しておきます。事前教示制度は輸入国税関における関税分類・原産地などの判断を事前に知ることができる簡便かつ信頼度の高い行政サービスで

7.プリンター製造における実質的変更(2024年2月更新)

 米国のプリンター製造における実質的変更判断には、概ね三つのパターンがあるようです。今回は、具体的事例として、事例8(日本で設計・開発されたファームウェアと日本製のPCBアッセンブリー、ベトナムで組み立てられた他のユニットを米国で生産した場合の原産国)及び事例9(プリント基板アッセンブリーを除くほぼ全ての部品を中国から輸入し、メキシコにおいて組立工程及びフィリピン・米国で開発されたファームウェアのダウンロードを行った場合の原産国)の詳細と関連する米国税関事前教示事例の概要を掲

5. プログラミングを実質的変更とする判例を受けた半導体関連機器の原産国判断

 最初に米国税関職員Monika R. Brenner氏 (Chief、Valuation and Special Programs Branch: 2023年8月現在) の論文 (2019年11月18日に米国国際貿易裁判所が主催した「第20回 司法カンファレンス」の資料として同裁判所ウェブサイトに掲載)の一部を引用します (以下、翻訳は筆者による仮訳)。事前教示において実質的変更を判断する立場からプログラミングに係る米国税関の対応について言及しています。

特集:米国の半導体関連製品に関する原産国判断の推移

 米国税関の事前教示事例検索サイト 「CROSS」 から、半導体関連製品に係る実質的変更判断が組立加工を行う「後工程」から拡散工程などを行う「前工程」に変更されたことについて、本稿では基幹部品としてのトランジスタ、集積回路を、次回はその他の半導体関連製品を追ってみます。なお、CROSS掲載事例の翻訳は、筆者による仮訳です。 1. トランジスタなどの半導体デバイスの原産国判断基準を「組立工程」としていた当初事例事例1:【当初事例】 トランジスタの原産国は、「組立て」を行った国

第5章:米国の原産国決定事例 (事例3-4)

 米国税関の事前教示事例検索サイト 「CROSS」 から、中国原産の部材と第三国 (メキシコ) 原産の部材を使用して当該第三国 (メキシコ) で加工・組立てを行った最終製品の原産国が第三国 (メキシコ) とされた事例3と、中国原産の部材を一部使用して中国で組み立てられた最終製品の原産国が最終組立国 (中国) ではなく主要部品の原産国 (日本) とされた事例4を掲載します。なお、CROSS掲載事例の翻訳は、筆者による仮訳です。 事例3: 中国原産部品とメキシコ原産部品をメキシ

第5章: 米国の原産国決定事例

 第5章では、米中間の緊張の高まりの中で、現実的な問題として中国の生産拠点の一部をアセアン諸国又はNAFTAの後継貿易協定である米国・メキシコ・カナダ協定 (USMCA) の活用を意図したメキシコ・カナダなどの第三国に移転させ、単なる迂回ではない最終製造工程を伴った「第三国製品」の米国への輸出を模索する日系企業の参考となるよう、米国通商法第301条の適用に際して適用される原産地規則に焦点を当て、米国判例及び米国税関の事前教示事例の概要を掲載します。  可能な限り材料輸出国が

米国の対中国追加関税措置と原産地規則

 「経済安全保障における原産地規則の役割」と題して日米欧の経済安全保障法制の概要と実務について述べてきましたが、本稿では原産地規則の観点から、米国の対中国追加関税措置に代表される1974年通商法第301条 (以下「第301条」) に基づく措置ついて考察します。トランプ政権によって採られた本措置 (通常関税に加えて25%の関税上乗せ)は、過去の政権の対中協調による共存政策から米国の覇権をかけた敵対的な政策への転換の象徴となるものでした。「経済安全保障」 の定義にもよりますが、自

第3章 米国の半導体製造及び貿易をめぐる政策転換

 本稿において、米国は、ウイグル強制労働防止法 (2021年12月成立) に従って、新疆ウイグル自治区で強制労働によって全体的又は部分的に作られた製品を輸入しないように、2022 年 6 月 21 日以降、米国税関が、同法の適用対象となる貨物を留置、除外又は差押、没収すること (第1章)、また同法が主対象としている中国製の結晶シリコン太陽光発電(CSPV)用の電池及びパネルに賦課されているダンピング防止税及び相殺関税措置を回避するために中国製の部品やコンポーネントを使用して

EUの経済安全保障戦略

 今回は、欧州委員会及び外務・安全保障政策上級代表が2023年6月20日に発表した「欧州経済安全保障戦略」に関する欧州議会、欧州理事会及びEU理事会 (注1) に対する共同コミュニケーション[1] (以下、便宜的に「戦略ペーパー」という。) について、その概要をお伝えします (関連記事を含め、翻訳はすべて筆者による仮訳です)。欧州委員会のウェブサイトでは、戦略ペーパーの概要をまとめた「経済安全保障を強化するためのEUのアプローチ」と題したプレスリリース[2]が掲載され、同時に

原産地規則基礎講座(PDF 統合版) 2023年6月増補

原産地規則の執務参考資料として、これまでに個々に掲載してきた記事をまとめて統合版(PDF版)を作成いたしました(2023年4月)。今後、著者の「教科書的な」記事は統合版で都度アップデート、増補することとしています。今般、第1回目の増補として、第1部、第2章、第4節「付加価値による実質的変更判断」に新たに(7)から(9)の項目を追加し、第1部、第3章、第6節「その他の技術的規定」を全面的に詳細な説明へと書き改めています。 第1部、第2章、第4節「付加価値による実質的変更判断」

第2章 米国の制裁措置の全体像と経済制裁

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米国の経済安全保障における原産地規則の役割

序章今回の連載では、「米国の経済安全保障における原産地規則の役割」と題した小論を連載します。はじめに経済安全保障の全体像を掴みつつ、貿易に従事する事業者にとってこれまで以上に負担となる立証作業などに焦点を当て、原産地規則との関わりについて考察します。昨年、ウクライナ情勢が悪化する中で日本においても経済安全保障推進法が施行され、事業者の意識が着実に安全保障に向けられるようになっていることを感じます。内閣府のHPに掲載された経済安全保障に関する「基本方針[1]」では、政府の認識を