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「”福井と共に”郷土愛と地元風土が紡ぐ越前辛口」常山酒造(福井県福井市)訪問記

2024年3月訪問

はじめに 

常山酒造/福井県福井市

北陸新幹線の開通で盛り上がる福井県。
その中心地でもある福井駅から10分ほど歩いた市街地の中に銘柄「常山(じょうざん)」を醸す常山酒造(とこやましゅぞう)はありました。
趣を感じさせつつもモダンな佇まいの蔵の内部を、九代目蔵元の常山晋平さんにご案内いただきました。

酒蔵正面。銘柄のロゴは福井の書道家「吉川壽一」先生が書いたもの。

蔵の歴史

酒蔵の創業は1804年。福井市の中では最古の蔵元です。
同県の黒龍酒造も同じ年に創業しており、共に200年以上の歴史を持ちます。蔵は福井大空襲、大地震と二度の厄災を経験し、現在の酒蔵は2018年に再建されました。
伝統的な木造建築の風情を残しつつ、製造現場をプレゼンテーションしやすい空間を意識したこだわりの造りです。

「常山(じょうざん)」としてのスタートは1997年。
代々醸してきた「羽二重正宗(はぶたえまさむね)」という銘柄に加え、七代目常山英朗氏の代で現在の「常山」が生まれました。

コンセプト

常山のコンセプトは「越山若水(えつざんじゃくすい )」。

”越前の山々と若狭の清らかな水”を表す言葉で、その言葉には「福井と言えば真っ先に常山を思い浮かべてもらえるような存在感のある蔵を目指す」という大きな目標が秘められています。

その中で常山が自らに課す3つの命題が

・福井県産米100%使用
・地域農業へ貢献する
・常山にしかつくれない純米酒をつくる

というもの。
福井県産米の100%使用は5年前に達成し、挑戦は新たなステージへと進んでいます。福井と共に歩む常山の愛と覚悟が、この命題に凝縮されていました。

四つの調和

常山にはそれぞれ”食””地域””自然””伝統”との調和をテーマにした4つの軸が存在します。

「食との調和」
字の如く食中酒として活躍するシリーズ。
常山らしいシャープで透明感のある飲み心地が感じられます。

「地域との調和」
地元農家とつながり、共に発展することを目指すシリーズ。
特別栽培の酒造好適米を使用した、米の膨らみが感じられます。

「自然との調和」
自然の恵みや季節の移ろいと共に表現されるシリーズ。
季節ごとに異なる表情の豊かさが感じられます。

「伝統との調和」
酒蔵として、人の技術や伝統を継承し深化するシリーズ。
心血を注ぎ作られる常山の芸術性が感じられます。

共通する「常山」ロゴにはシリーズを通して変わらない信念を感じる
(左から”食”、”地域”、”自然”との調和)

醸造について

常山の味わいの特長は淡麗かつ米の膨らみを感じさせる”淡麗旨口”。
”越前辛口”とも呼ばれるキレと旨みの両立は地元を最大限活かして作られていました。

使用するのは白山水系の軟水。

味の決め手は、醪の温度を発酵末期にぐっと下げること。
最後は糖化のみをじっくりと進める事により、キレの中に優しい米の味わいを感じられるスタイルが完成するとのことでした。

冷却がより効果的に行えるよう、最新鋭の”冷却チラー”と”仕込水冷却機”を導入。導入前は3℃までだった温度を1℃まで落とせるようになったそうです。たった2℃の違いのように感じましたが、全体の冷却幅が上がったことで温暖化する環境でも酒造りが対応できるようになり、最も重要な醪末期の冷却も格段に改善したそうです。

”冷却作業は火入れ時も重要”と語る晋平さん。
火入れの冷却に使うプレートヒータを改造し、65℃に熱した酒の冷却幅を35℃から10℃まで改善することに成功。
鮮度や透明感ある香味を格段に残すことが出来るようになりました。

「熱したお酒は人間の火傷と同じ。悪くならないようしっかり冷やしてあげないといけない」

和を醸す

今回の見学でまず印象的だったのは”女性スタッフも多い”ことでした。
醪に蒸米をいれる工程を一部体験させていただきましたが、運ぶ量を小分けにして回数を増やすことで誰でも分担して行える作業にでき、結果的に効率化が図られているようでした。
一つ一つの工程が力に頼らずに作業できるよう工夫が凝らされており、時代に即した酒造りの姿はとても新鮮に感じました。

「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)」=「造り手の和が良い酒を生む」という言葉の意味を深め、関わる人達との親和を醸していく。
蔵の大義として掲げるのは「和を醸す」という言葉。

そこには現代社会において大切にしたい心の持ちようも集約されているような気がします。

蒸米の入ったネットを運ぶクレーン(中央奥)と粗熱を取る放冷機(右手前)
蒸米を醪へ運ぶ工程は2人1組で。小分けにして運ぶことで体への負担を軽減。

今回は常山の各シリーズをテイスティングさせていただきました!
中でも筆者が特に印象深かったものをご紹介します!

テイスティング

・常山 純米辛口 超
ハーブや花のように爽やかな香りがあり、主張しすぎず抜けの良い立ち香に品の良さを感じます。
口に含むと突き抜けるような清涼感があり、ライトなテクスチャの中に米のエキスをしっかりと感じました。
越前蟹のふっくらとした身と芳醇な香りに合わせたくなるような上品さがあり、何倍でも飲めてしまいそうな爽やかさが心地よかったです。

・常山 秘諸白(ひもろはく)
パッションフルーツや梨のような立ち香が静かに香り、通常の常山とは異なる印象を受けます。口に含むと、アタックはエネルギッシュなフルーツ酸と米のエキスを感じますが、アフターにかけて常山らしいシャープなキレへと移り変わり、ストーリー性のある余韻が心地よい。
常山のスタイルを崩さずに新しい可能性を提示するとても魅力的な味わいでした。


9代目蔵元常山晋平氏 未来への展望を熱心に話す様子に引き込まれました。

IMADEYAの役割

常山酒造とIMADEYAはパートナーシップを結んで3年が経ちます。
晋平氏は「互いに課題・宿題を塗りつぶしながら先へ進みたい」と対等な協業関係を築いてくれており、とても人間味に溢れた方だと感じます。

味わいの良さは自然に、確実に飲み手に伝わっていきますが、常山酒造が掲げる郷土愛のポリシーもきっと多くの人から愛されます。
いかに多くの方に「常山」と、「常山酒造」と触れ合ってもらえるかが私達、伝え手に与えられた表現する役割だと思います。

常山酒造の目標を共に追い求めていくパートナーで有りたいと強く感じる訪問でした。

常山酒造さんのお酒一覧


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