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「地酒とは何か、を追求する酒蔵」 吉田酒造店(石川県白山市)訪問記

2024年3月訪問

はじめに 

吉田酒造店 / 石川県白山市

 2024年3月、私達 IMADEYAは石川県白山市に位置する吉田酒造店を訪ねました。そこで、7代目杜氏の吉田泰之さんに様々なお話を伺ってきました。

7代目杜氏 吉田泰之(やすゆき)さん

代表銘柄「手取川」「吉田蔵u」

「手取川」:創業当初からの銘柄で、地元で愛された味わいを守っていくというコンセプト。味わいを守りながらも年々ブラッシュアップされている。

「吉田蔵u」:2021年誕生。吉田泰之さんの想いの詰まった銘柄。
「u」には、自然、人、料理に優しいお酒の意味の「優」、あなたに届けたいという意味の「you」の2つの意味が込められています。

 手取川も吉田蔵uも、能登杜氏から受け継がれてきた伝統的な山廃仕込で醸しています。特に吉田蔵uは、山廃由来の旨味がありながらも繊細で軽やか。今回は、そんな「吉田蔵u」を中心にお話をお伺いしました。

右5本が「吉田蔵u」。左3本が「手取川」

「吉田蔵u」を構成する3つの主軸

①「地元の水」
 吉田酒造店の酒造りに使われる仕込み水は、標高2700mの雪の多い白山の雪解け水、通称 "百年水"を使用しています。

蔵周辺を流れる手取川は氾濫が多く、山にあった石などを持ってくるので周辺は石の多い土壌になり、その土壌を70年から100年かけて通るのでミネラルが豊富な硬度約110の少し硬めの水となります。

昔は硬度の高い水だと苦味が出るので軟水器を使用してまで軟水に変えていたそうですが、地酒なのに米も水も地元のものを使わないのはおかしいと思い、現在は水を調整せず、個性として生かしています。

②「地元の米」
 吉田さんが蔵に戻った13年前までは県外の酒米が多く、半分以上兵庫県の山田錦や広島県の八反錦などを使っていました。

石川県ではなかなかいいお米が作れず、県外のお米を使って美味しいお酒を作ろうという時代だったからです。ただ、それと同時に地元の農業が衰退してしまいました。

そこで、地元の農業を守ろうという想いから、10年前に酒米振興会を設立し、地元の農家さんに酒米を作っていただき、今では約40軒の契約農家と交流し、使用米の80%を地元の米でまかなえるようになりました。

酒米について語る吉田さん

現在、吉田酒造店で使用する主な酒米は5つ。

山田錦(兵庫):万能、優等生タイプ
石川県産の山田錦も造り始めており、仕上がりは良いそう。
五百万石:ライトな味わいになりやすい 使用量は年々低下
石川門: 2008年誕生の石川県オリジナル米。「出来の悪い米」と称されるほど扱いが難しく数年で使い手は激減したが、丁寧に扱えば優しい甘みが出ることから研究を重ね、一緒に成長してきた愛着のある米。
百万石乃白:2020年誕生。山田錦80%+五百万石20%の交配品種。綺麗でエレガント、独特のミネラル感も。今後の可能性を秘めている期待の米。
巾着(きんちゃく):昨年から実験的に使用。石川の在来種で江戸時代中期に多く作られていた。野性的でなかなかうまく扱えないが、今後の表現が楽しみな米。

巾着。粒にヒゲが生えているのが特徴

③「自然に任せた酒造り」
 かつての日本酒業界は、暑い時期に米を作り、寒い時期に酒を仕込むという自然のサイクルに合わせて酒造りをしていたが、テクノロジーの進化で年間を通して最高の日本酒を造れるようになった。その反面、電気の使用量が多くなってしまい温暖化が加速。日本酒業界は今まで自然のおかげで成り立っていたのに自然とのバランスが崩れてきている事を危惧する吉田さんは、何かを変えなければ、という想いから様々な取り組みを始めました。

趣味のアウトドアが環境問題に目を向ける大きなきっかけだったと語る吉田さん

 まず電気の見える化を行い、蔵人の意識改革を促しながら節電を開始。

 冬の寒い時期の醪部屋では、エアコンを使用せずに部屋の窓を開けて外の冷気を取り込む事で自然に任せた温度管理にシフト。

醪部屋。外気温だけで十分な寒さ

 冷蔵保管しなくても味わいを損なわない品質を目指し、お酒に発酵由来の炭酸ガスを残すようになりました。これにより酸化が防げ、冷蔵保管によるコストの削減が可能に。実際に、過去に筆者が抜栓した「吉田蔵u」は、2ヶ月以上冷蔵庫外で保管しても非常に美味しかったです。

 また、農業をしながら空いたスペースで発電をするソーラーシェアリングを導入。4月から運用予定で20%の電気を賄える想定です。

 更に、「吉田蔵u」1本につき10円を白山市の環境保全活動に寄付も始めました。

垂直型のソーラーパネルなのは、雪が積もるのを防ぐため。この場所で一緒に酒米も作っている

 こうした活動が、まずはお酒好きの方々に伝わって欲しいと吉田さんは話して下さいました。

吉田蔵uとは

 「地酒とは何か?」と今一度考え直し、形にしたお酒であると感じました。石川県で育った酒米と、白山から生まれる百年水の特徴を最大限活かす山廃仕込みと自然に優しいエネルギーに支えられ、ただ美味しいお酒を造るのではなく、地域の人々、自然、そして飲んだあなたを幸せにする。そんな吉田さんの優しさの詰まったお酒だと感じました。

テイスティングコメント

最後に「手取川」「吉田蔵u」のテイスティングをさせて頂きました

「吉田蔵u 石川門」:フレッシュながら素朴な味わい。クリアでやや淡く、吉田さんの仰る、"石川門ならではの優しい甘味"を感じられる。石川門の魅力を引き出した吉田さんの努力が表れた作品。

「吉田蔵u 百万石之白」:フレッシュかつ、舌の中央に伸びるミネラル感が印象的。山廃由来の柔らかいミルキーさもありながら、旨味の余韻は繊細で軽やか。吉田さんのイメージする味わいは、白山の"山の中で感じた空気"だそうです。

「吉田蔵u 巾着 エピソード1」:少し石川門と近い印象。味わいの重心は低いが淡さがあり、硬水の味わいを感じやすい繊細な酒質。巾着を使用した第一弾。今後に大きく期待してしまう。

「手取川 山廃純米」:以前より熟成感のある味わいが抑えられ、穏やかになった印象。手取川も炭酸ガスを残す様になった事で酸化を防ぎ、熟成感が抑えられるようになったとのこと。

「手取川 純米大吟醸」:この中では最も甘味を感じるが、少しフレッシュな微発泡感があり、総じて軽やかで甘味とのバランスが素晴らしい。

最後にみんなで集合写真。吉田酒造店さん、吉田さん、ありがとうございました!

吉田酒造店さんのお酒一覧


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