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「氷見で何かしたい、一心に土地を見つめ続けて17年」SAYS FARM(富山県氷見市)訪問記

2024年3月訪問

はじめに

SAYS FARM 看板

SAYS FARM(富山県氷見市)について

葡萄畑を抜け、富山湾を一望できる丘の上にある富山県氷見市のワイナリー。2007年に「氷見で何かをしたい!」というオーナーの思いから欧州系品種の葡萄の木を購入・栽培を始めたことからワイナリーが動き出しました。

現在年間約4.5万本のワインを醸造しており、将来的には約10万本のワインの製造量を目標にしています。そのため2024年の夏には、10万本のワインを保存できるセラーが建てられるそうです。


セラーの建築予定地。植わっている葡萄樹は移植予定。


セラーの半地下がワインの保存場所。そして「印象に残ることをしないと、次にワインを飲む世代に繋がらない」という想いのもと、氷見湾を一望できる2階は景色を眺めながらワインと食事を楽しめるスペースとなるそうです。


氷見の町と富山湾を一望できる丘


葡萄栽培について【歴史】

国の事業の一環で山の傾斜が段々畑として削られており、以前はお茶畑として使われていたものの耕作放棄されていた土地で、葡萄を栽培しています。

2007年にシャルドネを3,000本とカベルネ・ソーヴィニヨンを1,000本、2008年にソーヴィニヨン・ブランを2,000本とメルローを1,000本購入し、現在の葡萄畑に植えたそうです。
 
当時は、マイナー品種でワインを作っても、お客様に知っていただくには時間がかかってしまうこと、日本のワイナリーも有名な品種を植えていっていることもあり、皆が知っているであろう有名な上記4品種類の葡萄で栽培を開始しました。当時、ビオ・垣根栽培でのワイン用葡萄の栽培は氷見ではまだ行われておらず、未知の取り組みでもあったため多くの方にサポートしてもらいながらのスタートとなりました。

栽培する品種を増やしていく中で「プティ・マンサン」や「カベルネ・フラン」・「シラー」などの品種も考えたそうですが、氷見は港町であり、氷見の食材や市のイメージを考えた際にこれらの葡萄の個性とマッチしなかったため、栽培は行いませんでした。

葡萄畑の前にある、味のある看板

葡萄栽培について【アルバリーニョ】


栽培する品種を増やしていく中で、氷見の気候にマッチしているかもしれないとなったのが「アルバリーニョ」。
当時から交流のあった新潟のワイナリー「フェルミエ」の本多氏、「カーブドッチ」の掛川氏と氷見の気候にあった品種はなにかと議論している中で、新潟の気候で「アルバリーニョ」が非常に良い結果がでていたこともあり2012年から栽培を開始しました。ファーストリリースは2015年で、葡萄の出来としても非常によかったそうです。
 

アルバリーニョの畑


Says Farmの「アルバリーニョ」の栽培で特徴的なのは、リラ仕立て(葡萄の木がV時になっている)に近い栽培方法になっていることです。
両側に長梢を2本仕立てており、長さを長くするのではなく本数を増やす栽培方法となっています。この栽培方法は樹勢調整ができるだけでなく、V字になっているので上からの日光がよく当たり、間を風がぬけていくので病気に強くなる点がメリットです。
また氷見は雨の多い地域ですが、この仕立て方で1本の樹につける葡萄の量を制限することで、凝縮した魅力を出すことができます。
 

リラ仕立てのアルバリーニョ

元々は長梢2本の仕立てで栽培していましたが、アルバリーニョは樹勢が強く実がつきにくい上粒が非常に小さく、収穫量が伸びにくい品種のため、栽培がとても大変でした。なんと、1本の樹に数房しかつかない年もあったそうです。

このまま長梢2本で栽培していくと、ワインを作った際にワイン1本あたりが非常に高価になり続けていくのが難しいと判断し、現在のリラ仕立てでの
栽培になりました。※現在、この栽培方法を行っているのは「アルバリーニョ」のみですが、「シャルドネ」でも挑戦中。

葡萄栽培について【栽培品種】

 現在、白葡萄は「シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョ」、黒葡萄は「カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール」などを欧州系品種のみ栽培をおこなっています。
※日本固有の国際品種でもある「甲州」や「マスカット・ベーリーA」は栽培はしていません。
 
また「Says Farm」では白葡萄の栽培をする際に収量制限を行っていません。
理由は一房になる粒の個数を抑えることで葡萄の凝縮度は上がりますが、同時に酸度が下がっていき、ワインを飲んだ際に余韻にある「伸びていく酸」がなくなってしまうからです。
対して、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンなどの黒葡萄は収量制限を行うことでワインになったときの凝縮度を高めるようにしています。

醸造について【歴史】

2009年に初めての収穫を行い、2009年・2010年の葡萄を長野県にある「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」に持ち込み委託醸造でワイン造りが開始されました。
2011年には自社の醸造設備が整い、栽培から醸造まで一貫して氷見で行うことができるようになり、氷見のワイン造りが始まりました。

栽培・醸造責任者の田向さん

 日本ワイン文化が広がっていなかった当時、日本ワインを知っている人でも山梨県や長野県のイメージが強く、富山県のワインというのは未知数でした。
そこで生産本数を多くするのではなく、氷見の土地にしっかり向き合うことを大切にし、2万本程の生産本数でワイン造りをスタートました。
 

醸造について【醸造方法】

醸造棟

畑ごとの葡萄でワインを仕込み、最終的に味わいを確認しブレンドする醸造方法。同じ品種でも畑が違うと成熟度合いが異なるため、葡萄のピークを把握しワインを造るためこの方法をとっています。
ここまでできるのは自社畑の葡萄のみで醸造しているからであり、「Says Farm」ではここにこだわってワインを造っています。そのため醸造用タンクも大きいものはなく、1つの畑のみの葡萄が入るサイズになっています。


醸造用のステンレスタンク


基本的に、フレンチオークの小樽かステンレスタンクで熟成をさせていますが、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョの白ワインは大樽でも熟成させてます。ちなみにこの3種類をブレンドしたのが地元・余川のテロワールを表現している「余川ブラン」です。
 
現在は40t程度のワイン造りではありますが、飲みたいときに飲むことができるように葡萄の栽培量を増やし、ワインの量も増やしていく予定。
また現在は自社畑の葡萄のみですが、ワイン用葡萄を栽培しようという地元の方も出てきているため、これまでとは違った味わいのワインも今後作られるかもしれません。
 
現在作られているワインは「白:赤:ロゼ=5:2:3」の比率。最近はロゼワインの醸造も増えてきていますが、それでも白ワインが全体の半数を占める比率の高さです。

ワインについて


ワインのボトル

醸造所の地下セラーでは、いくつかティスティングをさせていただきました。

◆シャルドネ プライベート・プリザーブ 2021
フレンチオーク樽熟成由来のバニラやナッツの香りが強く出ているものの、それに負けない果実味・酸味がありバランスが非常に取れている1本。テクスチャーは非常に柔らかけれど、味わいに深みがある1本。
 
◆アルバリーニョ 2021
白桃やアプリコットの香りが広がり、アフターは程よい酸で締めてくれる。
アルバリーニョの特徴が、注いだ瞬間からグラスから伝わってくるほど香りが良い。氷見の食材とも合わせやすく、特にブリなどの刺し身と合わせても生臭さが際立ってしまうことがなかった。
このアルバリーニョは生魚と合わせることができる白ワイン。
 
◆メルロー ロゼ スパークリング 2022
赤ワイン品種単一だからこそ生み出せるしっかりとした骨格とメルローのシルキーな感じを併せ持つロゼスパークリング。
前菜からメインまで幅広い料理と楽しめそうな1本である。

貯蔵樽

今回ワイナリーを訪問してみて

千葉から出発し、標高の高い富山の丘に降りると当然はっきりと寒暖差を感じました。それでも、2,3年前と比べると暖かくなっており、驚くほど雪も降らなくなったそうです。
そんな環境の変化もある中で17年間氷見の土地と向き合い続け、その間の変化にも対応し続けてきた田向さんとSAYS FARMの強さを感じました。
また結婚式場や宿泊施設、レストランやショップ&ギャラリーなどが併設されたワイナリーの佇まいからは、「氷見でなにかしたい」という氷見への想いがひしひしと伝わってきます。
氷見の情景をワインという形で各地に運んでくれるSAYS FARMの想いを受け止め、しっかりと皆さんにお伝えして参ります!


ワイナリーをイノシシから守る「まいこちゃん」

IMADEYA ONLINE STORE
SAYS FARM紹介ページ

少量生産のため、ワインは完売となっていることが多いですが、絶品のシードルもぜひお試しください。

地元富山県産の「ふじ」を使用した微発泡タイプのシードル。「ふじ」の甘さと酸味のバランスがとれ、林檎の香りがしっかりと感じられます。

自社畑で栽培した林檎3種類をブレンドしています。青林檎と赤林檎の両方を使っているため、青林檎の綺麗で伸びがある酸、赤林檎の蜜感を楽しめる辛口のシードルです。

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