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【海外事例紹介】テレワーク × 地方創生 アメリカ編~2,000名の移住を成功させた事例とは~

※本記事は2023年2月に執筆し、株式会社イマクリエの会社ホームページに掲載していた記事をnoteに移管しています。


政府は、2022年12月に閣議決定した「デジタル田園都市国家構想総合戦略」で、首都圏から地方への移住者を5年後に年間1万人に増やす目標を掲げています。その一環として、東京圏から地方に移住する世帯について、世帯ごとの最高100万円に加え、子供1人あたり100万円の移住支援金が支給されることになります。

地方への移住者にこのような支援金を支払う政策を取っているのは、実は日本に限ったことではありません。アメリカでは、新しい働き方であるリモートワークに目をつけ、特にテレワーカーの移住誘致施策を行っている地域が国内に30以上あるそうです。

今回は、その中から3つのプログラムを取り上げてご紹介します。

砂漠に囲まれた街アリゾナ州ツーソンの取り組み

アリゾナ州ツーソン

メキシコとの国境に近いアリゾナ州のツーソンのNPO団体Startup Tucsonは、地元の経済を活性化し、ツーソンを「働き、遊び、暮らすのに最高の街」としてアメリカ全土に知ってもらうことを目標に掲げ、2021年「リモート ツーソン プログラム」(*1)を実行しました。

このプログラムは、ツーソン以外の地域に居住しているフルタイム リモート ワーカーにツーソンへ移住してもらい、引き続きこれまでと同じ仕事をテレワークで継続してもらうというもので、移住者には総額 9,000ドル(約110万円)相当の様々な特典が支給されます。

プログラムの募集開始前に、運営団体のStartup Tucsonは150件の応募を集めることを目標としていましたが、蓋を開けてみると、なんと600以上もの応募がありました。

このプログラムへの主な応募条件
・18歳以上の米国市民あるいは米国で就業可能な資格を有すること
・ツーソン以外の地域に住んでいること
・プログラム参加後、最低1年間はツーソンに居住すること
・ツーソン以外の地域にある企業でフルタイムの職に就いていて、
 ツーソン移住後もその仕事をフルリモートワークで継続できること
・年収 65,000ドル以上

厳正なる審査の結果、10家族の移住が決まりました。
選ばれた家族の多くは、カリフォルニア、ワシントン、ニューヨークからの移住者で、平均世帯年収は128,000ドル(約1,600万円以上)。半数は、かつてツーソンに住んでいたことがある人たちのUターン移住です。

移住者のプロフィール例
34歳男性 アリゾナ出身 スポーツエージェンシーのPR
妻、子二人とロサンゼルスから家族で移住
プログラムを知ったきっかけ:アリゾナに住む家族からの紹介

50才男性 ヘルスケア業界のブランドプランナー
ニューヨークから移住 
プログラムを知ったきっかけ:インターネット

移住者たちは、移住を決めたツーソンの魅力として、生活費の安さ、アウトドアを楽しめる雄大な自然、近郊に週末旅行を楽しめるエリアが多数あることなどをあげています。

2,000人以上のテレワーカーが移住したオクラホマ州タルサの事例

オクラホマ州タルサ

アメリカ国内にはテレワーカーのための拠点都市になることを目的に、同様の取り組みを行っている地域が他にもありますが、もっとも多くの応募者を集めているプログラムはオクラホマ州北東部の街タルサの「タルサ リモート」です。

このプログラムは、アメリカ有数の大富豪であり、地元タルサの実業家でもあるジョージカイザーの『ジョージカイザーファミリー基金』がスポンサーとなって進められています。

移住者には 10,000ドル(約130万円)が現金で支給されるということもあり、非常に多くの応募が集まっており、プログラムが始まった2018年からの4年間で2,000人以上のテレワーカーが移住しました。

このプログラムの主な応募条件
・18歳以上の米国市民あるいは米国で就業可能な資格を有すること
・オクラホマ州以外の地域に住んでいること
・オクラホマ州以外の地域にある企業でフルタイムの職に就いていて、
 タルサ移住後もその仕事をフルリモートワークで継続できること

移住者のプロフィール例
女性(年齢不明)
夫、子供二人とウィスコンシン州マディソンから家族で移住
プログラムを知ったきっかけ:先に同プログラムに応募した友人の口コミ

タルサの魅力は、大都市に比べて生活費が安いこと。また小さな街でありながら、音楽、劇場、アート、スポーツ、外食、買い物などの点で不自由することがない点もテレワーカーが移住を決めるために背中を後押しする要因となりました。

調査によると、タルサの移住者たちの多くは、移住前よりも生活水準が上がったことを喜んでいるようです。また新しい地元のコミュニティにしっかりと根ざしており、その多くがこのままタルサで暮らす予定でいると言います。移住誘致では、移住者が地元に定着せずに地域外に再流出していってしまうことを課題に感じている地域が多いと言われるため、「タルサ リモート」はこれまでのところ成功している好事例と言ってもよいでしょう。

最後に「タルサリモート」プログラムが、地元の経済に与えた影響を見てみましょう。
「タルサリモート」は2021年に6,200万ドル(約80億円)の地元収益をもたらしたと見積もられており、移住者の人数のみならず、経済面でも大きな成功を収めていることが分かります。新たな収益6,200万ドルのうち5,100万ドルは、移住してきたテレワーカー達により直接もたらされたもの、残りの1,100万ドルは人口増により新たに地域に生み出された雇用によるものです。

アウトドア好きを魅了するウエスト・バージニア州のケース

ウェスト・バージニア州

ウエスト・バージニア州の「アセンド ウエスト・バージニア」プログラム(*6)は、Intuite社の元CEOであるブラッド・D・スミス氏と妻のアリスさんが私財から寄付した2,500万ドル(約32億円)を元手として運営されています。

ウエスト・バージニア州にある4つの地域(モーガンタウン、グリーンブライア、イースタン・パンハンドル、グレーター・エルキンズ)のいずれかに移住したテレワーカーに、引越資金12,000ドル(約156万円)が支給されるこのプログラムは、金銭的な魅力が非常に大きいのですが、加えてもう一つ、多くの移住者を引き付ける理由があります。

それが、山の多い地域であるウエスト・バージニア州の大自然とアウトドアです。移住者へは引越資金に加えて、アウトドアアクティビティで使える年間パスが支給されるのですが、これが人気を博しています。

このプログラムの主な応募条件
・18歳以上の米国市民あるいは米国で就業可能な資格を有すること
・ウエスト・バージニア州以外の地域に住んでいること
・ウエスト・バージニア州以外の地域にある企業でフルタイムの職に
 就いていて、移住後もその仕事をフルリモートワークで継続できること
・アウトドア好きであること

「アセンド ウエスト・バージニア」プログラムは、2021年の開始以来、20,000人以上の応募を集めており、2023年1月時点では、モーガンタウンにはすでに87家族、グリーンブライアには37家族が移住しています。
応募数に対して、移住者の数が少ないと思われたでしょうか?
実はこのプログラムでは、ハーバード大学やイェール大学などのアメリカの名門大学に入るのと同じくらい厳しい選抜が行われていて、全応募者のうち、わずか1%の選ばれし人たちだけが移住の権利を得ることができるのです。

これまでの移住者は、主にシスコ(世界最大のコンピュータネットワーク機器開発会社)、ADP(大手ソフトウェア会社)、KPMGやDeloitte(いずれも世界4大会計事務所)、Verizon(大手電気通信事業者)等の超大手有名企業で働くエリートが中心で、その平均年収は125,937ドル(約1,630万円)です。

移住者のプロフィール例
40歳男性 ウエブサイト制作
妻と4歳の娘と共に、ノースダコタから家族で移住
プログラムを知ったきっかけ:雑誌

「アセンド ウエスト・バージニア」プログラムのもう一つの特徴として、移住者を受け入れる側の地元住民が、プログラムに対してとても好意的であり、新たな隣人たちを熱烈に歓迎していることがあげられます。
移住者たちは、地元住民からの温かい歓迎を受け、すぐにコミュニティに溶け込んでいくことができ、移住が一時的なものではなく、長きにわたり定着する礎となっているのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
人口減少の課題を抱えている多くの自治体では、どのように移住者誘致を進めていくか頭を悩ませておられることと思います。
今回の記事が、テレワークを活用した移住誘致施策を考える際の参考となれば幸いです。

https://www.imacrea.co.jp/corporate/tw_diagnosis/

出典