いまぶみ

いまぶみ

最近の記事

寧 静(ねいせい)

旅に出かけると、その場所ごとに空気やにおいが違うのを感じる。 私はその空気やにおいの好みで、その場所が好きになったり、苦手になったりすることがある。 沖縄は、ふっと肩の力が抜ける感じが心地よくて、始めて訪れたときから、一目ぼれだ。 特に好きなのが、夜明け前の海のにおい。 砂浜に向かっていくと、ハイビスカスやブーゲンビリアが、薄暗い中で赤く浮き上がり、南国にいることを教えてくれる。 海に向かって、大きく伸びをしながら深呼吸。 なまぬるい風とにおいが、なんとも心を落ち

    • 色節(いろふし)

      参道のうどんの看板を横目で見つつ、石段を上がる。 思っていたより、傾斜がきつい狭い階段を緊張しながら、どんどん上っていく。上がるというより、登っていく感じだ。 金毘羅さんに来たのは3回目。 2度目の新婚旅行では、途中の御本宮までしか行けなかった。 あれから25年がたって、今回は一番奥の奥社まで行こうとやってきた。 体が傾きそうになる石段を、主人と汗を拭きながらハアハア登っていく。 1368段の頂上から、讃岐富士が霞んで見えた。 息を整えながら、おみくじを引いてみ

      • 萌芽(ほうが)

        はじめて一人旅をしたのは18歳の時。北海道の叔母さんの所へ行った。 1人も初めてだが、飛行機も初めてだったので、不安でいっぱいだった。 女満別空港行はプロペラ機だった。座席に座るとドキドキが、くすぐったいようなワクワクに変わっていた。 無事空港に着くと、おばさんとおじさんが車で迎えに来てくれていた。 空港出口のドアが開くと、ヒヤッと空気の冷たさが頬に張り付いた。 空の青さも大きさも、雲の白さも、なんか違う。ほうっと体の力が抜けたのを覚えている。 今、思えばあの時が

        • 弥立つ(いやたつ)

          羽田空港に来ると、何か始まりを感じて、途端に華やかな気持ちになる。 何度訪れても、ワクワクが溢れるが、私にとって心を奮い立たせる特別な場所でもあった。 集合時間よりだいぶ早く行って、参加者名簿を何度もチェックする。まだお客さまが現れるわけもないが、不安と期待でドキドキが止まらない。 しばらくして、初めてのお客さまに「おはようございます」と声をかけると、お客さまの表情が緩んで、私の気持ちも落ち着き、一気に仕事モードになる。 無事ツアーが終わり、空港に1人になる頃には、心

        寧 静(ねいせい)

          催花雨春(さいかう)

          小学校までの通学路は大きな上り坂、大きな下り坂があって、子どもたちは6年間で自然と鍛えられる。 私も学校行事や保護者会に出かける時は、運動ついでに歩いていくのだが、帰りはさすがに、友人の車に乗せてもらったりした。 そんなきつい道の楽しみは、美しい街路樹だ。 下り坂が始まるあたりから桜並木に変わるので、春先は次々に咲く桜をしばらく楽しめる。 4月の入学式に間に合うかな?早すぎないかな?3月の終わりころから桜の状態が気になってしまうのだ。 自分の子供の入学の時も気になっ

          催花雨春(さいかう)

          喉鼓(のどづつみ)

          そんなに大食いでもなく、食べることにこだわりがない私でも、千歳空港に降り立つと、とたんにおなかが空いてくる。 北海道には何度も来ているし、おいしい物もたくさん食べてきたのに、毎回、ツンと冷たい風に当たると、グングン食欲がわいてくるのだ。 ラーメン、海鮮、肉、カレー、スイーツ、しょっぱいの甘いの、お腹と相談しながらミッションをこなしていく。 帰りの飛行機では、丸くなったお腹と顏。ちょっとだけ反省するが、心も丸くなってホクホクしながら帰る。 そうだ、家に着いたら、風呂上り

          喉鼓(のどづつみ)

          睦ぶ(むつぶ)

          新婚旅行は、今までで一番良かった場所に行く! そう決めていたので、ハネムーンは迷わず四国に。 面白そうと選んだバスツアーに、一緒に参加していた ある老夫婦が、今でも心に残っている。 パリッとスーツを着た旦那さんは、バスの中でちょいちょいお酒を口に運んでいた。昼食にもビールを頼んでいたので、お酒が好きそうだ。 奥様がたしなめても、聞かない様子。 私の旦那さんはお酒が弱くてよかった・・ふと奥様が気の毒になった。 お土産コーナーで民芸品のざるを手にする奥様に話しかける

          睦ぶ(むつぶ)

          已己巳己(いこみき)

          「これから旅行はあんたと行くことにする !」 そう私に言った友人は、社交的でつきあいも幅広いので、一緒に出かける人に不自由はないはずだ。 性格も雰囲気も真逆と言っていいくらいの私たちだが、何度か一緒に出掛けるうちに、私たちに共通することに気づいた。 それは「もの < 思い出」ということ。 ハワイに行っても、ブランド品やお土産を選ぶことより、街並みやローカルなお店に入ったり、その場所の空気やおもしろさを感じることに時間を使う。 会社や友人へのお土産は時々は買うが、自分

          已己巳己(いこみき)

          気散じ(きさんじ)

          横浜は坂が多い。 街中もアップダウンが激しく、自転車は電動機付きでないと厳しい。 平らに見える道も、なだらかな勾配が続くので、年配の方のスニーカー率が高い気がする。 ただ高低差があるので眺めがいいところが多く、街中でも遠くの山の稜線が見えたり、景色を楽しめる。 観光スポットには、そんなには行かないが、時々、横浜を感じたくなると、ふらりと行くことがある。 桜木町駅から、赤レンガ倉庫、山下公園、元町、港の見える丘公園などまわると、結構な運動量だ。 公園やベンチなど、ち

          気散じ(きさんじ)