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『風華雪月のオーパーツハント』第一章 オーパーツ過去探索|愛夢ラノベP

第一部 ムーサの秘宝
第一章 オーパーツ過去探索

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 幼顔のロリ少女が手を振って私を見送っている――十六歳の月輪だ。闇夜を照らす月光のような黄色い長髪が風で乱れている。
 飛行挺ハルピュイアイのハッチを開けると猛烈な風が吹き込む。吹き飛ばされないように取っ手を握りしめる。コックピットから顔を出して、目的地を伺う。
 眼下には荒廃した建物が点在する――その名は網走監獄。火山灰と分厚い雲に覆われた空が太陽光を遮断しているため、世界は全体的にほの暗い灰色だ。

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「ツキワ、いつも通り頼むわよ!」

 操縦席に座る月輪に指示を出す。彼女は三つ子の三姉妹の三女である。黄色を基調としたお洒落な軍服のような洋服が可愛い。
 それを横目に二女の華凛が飛行挺を飛び降りた。桜の花弁を思わせるピンクのショートヘアーの彼女が可憐に大空を舞う。
 桃色を基調としたカジュアルな軍服のような洋服が風で靡いている。食いしん坊で大食らいなのに細身だ――羨ましい。

「カゼ姉さん、分かったわ。クリプティッドには気をつけて!」

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 月輪の声を聞きながら、華凛に追随して私も飛行挺から空へと飛び込む。探索は危険だ。長女である私がしっかりしなければならない。
 私は荒廃した牢獄の上空を急降下する。この遺跡は時代錯誤遺物の一つである。現在の技術では到底作ることができない今の時代にそぐわない物体群――それすなわち時代錯誤遺物(オーパーツ)。
 ここに例のお宝があるとの噂だ。もっとも、風化したボロボロの建物には当然なにもない。
 昔、この遺跡にあったと云われているムーサジュエリーを奪わなければならない。そこで、私たちはタイムトリップを行う。
 現在から独立した過去のある時点を訪れる時間旅行――それすなわち過去探索(タイムトリップ)。

『カゼ姉さん、そろそろパラシュートを開いて!』

 月輪が声を飛ばす魔道具を使って私に指示を出す。たしか、月輪はこの魔道具を無線通信機と呼んでいた。ただ、私は通話の仕組みが理解できないから、それを魔法によるものと信じた。
 月輪の声を聞いて私はパラシュートを開く。体感で高度二千フィート、眼下には朽ち果てた監獄がみえる。
 以前、この辺り一体は北海道という地名だった。私たちは、そんな地域があった島国にいる。
 我々人類はクリプティッド(未確認外来種)によってほとんどが滅ぼされた。私たち三姉妹はその悲惨な歴史を変えるために探索を続けている。
 私たちの野望を叶えるには、ムーサジュエリーのうち二つの秘宝が必要だ――探し求めているものは真理を見抜くタレイアマスクと過去を映すポリュムミラー。

「スズ姉、そろそろ始めるわよ」

 私がスタッと着陸すると、先に降りた華凛が私に声をかける。私の名前は風鈴、それゆえ妹たちは一文字をとってカゼ姉さんとかスズ姉とかと呼ぶ。

「カリンも慣れてきたわね。私も安心よ」

『月輪、シミュレーション開始よ!』

 しまった、妹の華凛に良いところを取られた!
 私よりしっかり者の華凛が月輪に指示を出す。私が悔しがっていると、上空から不思議な光が差す。
 月輪が飛行挺の船底に備え付けられた装置を起動したようだ。失われた世界を投影する装置――それすなわちシミュレーテッド・リアリティ・システム。
 飛行挺の船底から七色のライトが照射される。その光に照らされた場所は繁栄していた当時の姿へと変貌を遂げる。ライトの設定を変更すれば、過去のどの時点へもタイムトリップができる。

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「スズ姉、見てよ。網走監獄が復元されていくわ」

「タイムトリップはいつ見ても荘厳ね。滅亡した都市や街があの日の姿へと甦る」

 みるみるうちに私たちは過去へと潜入する。私たちはこのシステムによって過去と現在を行き来している。
 ちなみに、シミュレーテッド・リアリティ(人工疑似現実世界)はバーチャル・リアリティ(仮想現実)と根本的に違う。
 シミュレーテッド・リアリティは、それ自体がもはや現実である。そこに生きる人々は疑似現実を現実だと信じて止まない(シミュレーション仮説)。
 タイムトリップはそれほど迄に高度に再現された過去世界を探索して、特殊な装置で秘宝を元いた世界へと持ち帰る冒険ともいえる。

「ちょっとスズ姉……スズ姉ってば!」

「えっ、あっ、ごめん。考え事をしていたわ」

「もぅスズ姉、しっかりしてよ。過去探索での怪我は現実にも残るのよ。それに時間もないから行くわよ」

 しっかり者の華凛が私を置いて走り出した。私も情けない顔で追いかける。長女として不甲斐ない。
 目の前には、真っ白な外壁の監獄とそこに生きた人々が復活している。パノプティコン(全展望監視システム)と同様に、中央の監視塔と円環に建設された三百六十度が牢屋の建物だ。
 監視塔から囚人を効率的に管理する構造である。ただし、この時代の監視塔には人がおらず、すべてを監視カメラが見張っている。監獄内部は機械による二十四時間の警護がなされている。

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「(スズ姉……ストップ、警備員がいるわ)」

「(どっ、どうしよう……帰ろうかしら?)」

「(ここまで来て帰れないわよ。これを使って!)」

 華凛は即座にアイテムを生み出す。左手から細長い爆弾のようなものがニョキニョキと生えてくる。
 自身の体内にある物質からモノを生み出す能力――それすなわち華凛の能力【合成】。
 私は受け取ったものを警備員の元へと投げる。無色のガスが吹き出て警備員は地面に突っ伏す。

「さすが華凛ね。睡眠ガスとは考えたわね」

「スズ姉の投擲技術もなかなかのものね」

 私と華凛と月輪は苦手なことが多い。しかし、三姉妹が手を組むことでどんな困難も乗り越えられる――いや乗り越えてきた。
 三人よれば文殊の知恵、いつも三人でいなければならない。それが私たちオーパーツハンター《風華月(ふうかづき)》の決まりだ。

「って……あれ、華凛が消えたわ!」

「スズ姉、ボケッとしていないで、ちゃんとついて来てよ!」

 長女の私は落ち込みながら華凛の元へと走る――情けない。
 外部を巡回する警備員を避けながら、監獄内部への侵入経路を進む。スムーズな探索は月輪の的確な指示のおかげだ。
 ちなみに、私はサボっているわけではない。まだ出番がないだけだ。

「スズ姉、あそこが入り口みたいよ」と華凛が指差す先に白いドアがある。

「たぶん……あの扉にナンチャラ番号が必要だったはずよ」

「困ったわね……暗証ナンチャラなんて知らないわよ」

 そもそも、計画段階の時から番号で扉が開閉する理由が分からない。

「ちょっと待って、あそこを見て」

 私が指を差した先に二人の警備員が談笑をしながら歩いてくる。それを見た華凛は私の意図を察する。

「なるほど、さすがスズ姉、悪知恵が働くわね」

 おいおい、悪知恵じゃない、機転が利くのよ。
 そんな事を思っていると、その警備員が何か板みたいな物で扉を開けてくれた。
 おりゃっと先ほどの睡眠ガス爆弾を放り投げる。入り口付近でドアを開けたまま警備員は寝息を立てた。

「スズ姉、ナイスコントロール!」

「開けられない扉は誰かに開けてもらえばいい作戦、成功ね!」

 私たちは二人の男を飛び越えて牢獄に侵入する。
 おっ! ちょっと待てよ、と私は男の元に駆け寄って例の板を盗……拝借した。さすが私、機転が利く。

「スズ姉、はやくはやく」と華凛に急かされるので、サーと真っ白な廊下を走り抜ける。
 そのまま真っ直ぐ進むと開けた場所に出る。目の前にリンゴ飴みたいな塔が現れる――美味しそう。
 その塔は棒状の支えとその先端に真っ赤な球体が付いている。

「華凛、たぶんあれが監視塔よ」と私が告げると、「何となくそうだと思ったわ」と華凛が塔の根本へと全力疾走している。

 意外と簡単に潜入できたわね。このまま秘宝もゲットできちゃうかも、と私はこの後の災難を知らないため、楽観主義的な考えに耽っていた。

「スズ姉、どうしよう……扉が開かないわ!」

 大丈夫よ華凛、やっと長女の私の出番ね。

「これを使うときが来たようね」と私は先ほど奪っ……拝借した小型の板を扉にかざす。しかし、扉は動かない。

「スズ姉……そんな板で開くわけないでしょ」

 ナゼだ? 何でさっきは扉が開いたのに今は開かないんだ。そうか、もしやあの警備員たちは古から伝わる魔法をこの板で発動させているのかもしれない。

『二人とも……今、ハッキングでエレベーターを起動するから、そのまま乗って』

 たしかに白金豚でえれぇバターは美味しそうだが、なぜか月輪の言う通り扉が開いた。たぶん魔法によるものだろう。
 そのまま部屋に入ると、華凛が手当たり次第に壁のボタンを押す。

「ちょっと華凛……適当に触ったら危ないわよ」

「大丈夫、大丈夫、何とかなるわよ」

 すると、扉が締まって何となく上に飛ぶ感じがする。そして、再び扉が開くと別の場所にいた――たぶん転送魔法だ。

「ほら、ちゃんと着いたわよ。スズ姉は心配性なのよ」

 それは結果論だ。たまたま転送魔法が上手く発動しただけである。

「いいからこの場所を探しましょう」と私はふてくされながらも部屋を捜索する。そして、華凛と二人で驚く。

「「この部屋、お宝が無いじゃない!」」

 まるで嵐が吹き荒れた後のように散らかった部屋で肩を落とす。収穫がないのは辛い。

「スズ姉、諦めて戻りましょう」

「そうね、長居は無用よ。いつ死大魔獣や五大災害に巻き込ま……あれ、あそこで何か光ってない?」

「事前の情報では牢屋には何もないと……本当だ、ピカピカと輝いてるわね」

 そして、私と華凛は目を合わせる。

「「お宝はあそこにある!」」

 ドカーン、ビービービー。突然、爆発が起きて慌ただしい音が轟く。

『二人とも聞いて。同業者が爆弾を使ってブザーが鳴ったわ。はやく逃げて』

 ブター(豚)が鳴くのはどうでもいいが、同業者に先を越されるわけにはいかない。
 この世界でオーパーツハンターをしているのは私たちだけではない。他にもいる同業者とは常に早い者勝ちの競争をしている。

「スズ姉、どうしよう? 諦める?」

「華凛、答えは出ているでしょ?」

「「私たちの獲物は譲らないわ」」

 そう答える頃には、先ほど使った不思議な部屋で地上に送られ、光が輝いていた場所へと一目散に向かった。

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「スズ姉、場所は覚えているわよね?」

「えぇ、一度みれば大体の位置関係は把握できるわ。私についてきて!」

 華凛はしっかり者だが、方向音痴なところがある。真っ直ぐな道でも迷う事があるほどだ。だから、誰かが導かなければならない。
 私は正確な位置関係を頼りに階段を上る。そして、四階に辿り着くと光源があった牢屋に向かう。
 そこで、一人の男と出会った。
 そいつは白銀のゲレンデを彷彿させるシルバーブロンドの長髪の少女を脇に抱えている――おそらく十歳くらいだ。
 その少女の手に朽ち果てた黄土色の杖が握られている。その先端から太陽のような白光が煌めく。

「ちょっと、その子を離しなさい。このロリコン変態クソ野郎!」

「はぁ? 誰がイケメンモテモテ美男子だ!」

 私は直感で理解した――面倒な男と出会ってしまったと。彼は短い金髪で、赤いマントをはためかせ、青銅の鎧でその身を守っている。
 バンと後方で銃声が響く。振り向くと華凛が拳銃をぶっぱなしていた――【合成】で生み出したのだろう。
 その乾いた発砲音で先ほどの男の言葉も吹き飛びスッキリする。

「ナイスショット、華凛!」

 男は「うわっ」と右膝を折る。右足が真っ赤に染まっている。華凛の見事な銃撃で右の踝を撃ち抜かれたようだ。ここで遂に私の出番だ!

「スズ姉、奴を拘束して!」という華凛の号令に合わせて、私は右手の五指から五本の白い糸を出す。
 指の先端から糸を紡いでその糸を自由自在に操る能力――それすなわち私の能力【糸】。
 白くて細い糸を巧みに操って男を捕らえようとする。しかし、男は少女を抱いてサッと四階の窓から飛び降りる。ドサッと地面に衝突した男を追いかけようと、私が天井に糸を巻き付けた時であった。

「スズ姉、待って!」と華凛の声に驚き前を見る。

「まずい! 形天(けいてん)だわ」

 両翼を広げると二十メートルはあろうかという首の無い巨鳥――それすなわち形天。邪神ムーサの切り落とされた右腕から生まれ出でたと語り継がれる死大魔獣の一匹である。

「スズ姉、逃げよう! 形天は危険よ」

「ここまで来て引き下がるわけにはいかないのよ」と私は右手の五指から糸を出す。それで地上に横たわる少女を巻き付ける。
 一気に右腕を引くも、少女の重さに「重たい!」と声が漏れる。およそ十歳の女の子とは思えぬ体重だ。

「もぅ、長女だからって一人で無茶しないでよ。私もいるんだからね!」

 私の右腕を華凛が握る。そして、二人で一気に糸を手繰り寄せた。白銀の少女がバッと空に浮かび上がる。

「「こっちにおいで!」」

 私たちは声を揃えて再び糸を引いた。先端が輝く杖を持った少女が私たちの腕へと飛び込んでくる。
 その女の子を抱き抱え、華凛と共に「おわぁー」と床に倒れた。

「スズ姉、逃げよう」と華凛が叫んだとき、地上から「助けてくれ」と男の声がした。私は迷った。しかし、咄嗟に体が動く。

「ちょっと……もぅスズ姉はお人好しなんだから!」

 私は四階から飛び降りて男の元へと走った。形天の鋭い鉤爪が彼を襲うその瞬間、右手の五指から糸を出して攻撃をカキーンと受ける。そのままその糸で男を縛り上げる。
 そして、左手の五指から出した糸を牢獄の四階に巻き付ける。

「おりゃ、二度と私たちの邪魔をするな!」と私は怒鳴ると、左手の糸を巻き取って四階へと宙吊りになる。その反動で右手を振って、糸を結びつけた男をできる限り遠くに投げ飛ばす。
 こうして私は四階へ、男は――まぁほら、どこか遠くへ消えた。

『二人とも何をしているの? 形天がいるから、ピックアップポイントを変更するわ』

 その後、私たちは月輪の示した地図のポイントまで隠れながら逃げた。そして、飛行挺から垂らされた紐に体を結び、そのまま吊り上げられた。

「スズ姉、大変。女の子が消えかけているわ」

「この子……透明人間なんだわ!」

「透明人間って何ですか?」と白銀の少女は幼い声で尋ねてくる。
 シミュレーテッド・リアリティ(人工疑似現実世界)の住人――それすなわち透明人間。

「華凛、あれを出して!」と指示を出すと、華凛が「はい」とあれを手渡してくる。

「透明人間というのは、光の照射が終わると見えなくなる人のことよ。でも、このヴィジュアライザーを付ければ、光の外でも存在を保てるのよ」

 シミュレーテッド・リアリティ(人工疑似現実世界)のモノを持ち帰るための装置――それすなわちヴィジュアライザー(可視化装置)。

 白銀の少女の首にペンダント型の装置をつける。これで光の照射が終わって現実に戻っても、彼女が消える事はない。
 一段落が着いたとき、私は少し驚いた。落ち着いて白銀の少女の顔をみると、その子は不思議な顔立ちをしていた。
 そして、この子との数奇な出会いから危険なタイムトリップが始まり、私たち三姉妹の仲に亀裂が入っていくのだが――そんな事を私は露程も知らない。





【筆者から一言】

 最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
 本作は、オーパーツを巡り、過去の遺産をハントする少女たちの物語です。
 ただ、数年前に執筆したため、筆者自身も読み返してみると、読みにくい箇所や分かりにくい表現が多いです。かろうじて風華月は書き分けているが、能力の詳細や世界観の説明、風景描写の稚拙さなど目に余る箇所が目立ちます。
 そのため、この作品は1次通過すらしていません。正直、世の中に出す事を控えようとも思いました。でも、この作品の経験も今後に繋がるのだから、公開しておこうと考えたのです。
 失敗をしない人間など存在しない、そんな教訓になればと思います。
 この物語の結末は、順次、メンバーシップに公開していきます。ただ、今はファンタジアやMFの準備があるので、少しお待ち下さい。




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