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僕が旅に出る理由は

都市を離れ、西へ、西へと向かった。
長い間電車に揺られながら、変わりゆく景色を眺め、ふと随分遠くに来たことを実感した。
それと同時に、自分が今までに失くしてきた物や人を想った。

知らない町に降りると、人がまばらになる。
彼らは散り散りになり、それぞれの場所に向かう。

地元の人間が好みそうな居酒屋に入る。
寡黙な店主と些細な会話を交わし、店内を舐めるように見回した後、生ぬるくなり始めたビールを飲み干す。
帰り際に店主から「またこっちに遊び来てな」と声をかけられる。

確かに、都会の外には何もなかった。
しかし、そこには「何もない」がある。

何もないからこそ、人の暮らしに指先で触れるような想いに浸ることができる。

都会では、皆がいつしか名前を失い、記号と化すことが常なのかもしれない。

だからこうして、何もない人の暮らしがとてつもなく愛おしくなる。

良かったら話しかけてください