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どうもガチっぽい心霊写真

 今回は、「ガチっぽい心霊映像」や「ガチっぽい心霊写真」について調べてみた。私の言う「ガチっぽい」とは「怖がらせることを前提としていないのにも関わらず写り込んだ心霊的なヒトの顔や姿」を指す。言い換えればストーリーの前後関係とは全く無縁なのにも関わらず映ってしまった「異質なモノ」たちである。
 そもそもヒトには人間の顔を素早く見分ける特殊能力が古代からある。これは人間が社会集団で適応するための能力であり、この能力のことをシミュラクラ現象(simulacra)と呼ぶ。これは心理現象の一種で、やや乱暴に言うと点が3ついいバランスに配置されると顔に見えるという一種の錯覚に近い認知プロセスである。

シミュラクラ現象

 それらはパレイドリア(pareidolia)とも呼ばれ「心霊写真」の大半はこの効果により顔に見えている場合が多いのだが、ネットで半ば伝説として殿堂入りしている有名な「ガチっぽい」ものたちを調べてみた。

1976年8月20日放送「あなたのワイドショー」
 「あなたのワイドショー」のコーナー「TV三面記事」では青森県弘前市にある寺院「正傳寺」に伝わる、生首が描かれた掛け軸に纏わる怪奇を紹介していた。
 テレビで紹介された掛け軸は「僧 光惇」と描かれた僧侶の生首と、「渡邊金三郎」と描かれた侍の生首の2つの掛け軸だ。

問題の掛け軸

 怪奇エピソードの放送終了後、「掛け軸の生首の目が開いた」と問い合わせの電話がテレビ局に殺到したらしい。目を開けたのは侍「渡邊金三郎」の掛け軸である。

問題の映像

 この掛け軸の謂れは、1972年に詩人「蘭繁之」と言う人が京都の古書店で買ったものらしい。この掛け軸を箪笥の中にしまっていたのだが、その部屋で寝起きしている母親が「箪笥の中から唸るような声がする」と言い始め、自分もその部屋で寝てみると確かに唸り声が聞こえたそうだ。母親はその後高熱を出して寝込んでしまい、困った蘭繁之が正傳寺に寄贈したらしい。

竹に刺され晒されている

 この掛け軸は「斬首画」と呼ばれるものである。この「渡邊金三郎」は実在の人物で、幕末の京都所司代・西御番組与力で、勤皇派の取り締まりに従事していた侍であった。文久3年に土佐勤王党によって殺され、京都の粟田口刑場に首を晒されたのを幕府方が記録したものだという。この掛け軸の絵には本物の渡邊金三郎の血液を使っているという曰くもある。
 さて、「目が開いた」についてだが虫が目のところに留まったのではないかという説が有力であるが、そうだとしても目のところにピンポイントでついた偶然性はかなり怪奇だ。映像のノイズなどには見えない上にかなりアーカイブが古く、本当に目が開いたかどうかは定かではないのだが、この掛け軸は実際にスタジオに実物を持ち込んだのではなく、写真を何枚か撮ってそれを表示したものである。正傳寺にて撮った写真に虫が映り込んでいた可能性はスタジオよりは高そうだ。

放送中のキャプチャ

 他にも、見える角度により絵が変わるという「からくり画」の可能性も考えられたが、記録用に幕府が書いた絵に細工を施すとは到底思えない。
 この放送によりこの掛け軸はオカルト界隈では有名となり、ネットには撮影した画像が沢山ある。公開もよくされており、ギャラリー森山で開かれた「ゆうれい展」についてはこのような記事がある。

目玉展示の一つで「渡邊金三郎断首図」は幕末に描かれた幽霊画で、テレビ番組の生放送中に閉じているはずの右目が開いたと話題になったことでも知られる。森山さんによると、今回の展示に当たり、定点カメラで24時間監視したところ変化は何もなかったという。

弘前経済新聞 2020年8月4日

 単純に不思議なのは、「この一度だけ」と言うことだ。呪いや残穢のようなものがこの掛け軸に浸潤しているとするなら、常時ではなくとももう一度ぐらい不思議な現象を誰かが知覚してもいいはずだが、所持者だった蘭繁之の母親の謂れ以外はこのテレビ放映のみである。再現度が低いと言うことは偶然の何かの可能性の方が高いのだ。もしくは、たまたまそう見えた写真だけわざと載せたかだ。

「中学生日記 誰にも言えない」2006年7月3日放送
 「中学生日記」はNHK名古屋放送局が作成している1962年から放送している学園ドラマシリーズである。これはBLコミックを読む女子生徒を男子生徒がからかうシーンである。

問題のシーン

 教室風景のシーンで、背後のカバン棚に「生首らしきもの」があるとネット上で話題になった。

問題のシーンのアップ

 確かにリアルで恐ろしげな女性の首が横たわっている。ここには元々何があったのであろうか他のシーンにこの棚が映ってないか見てみると...

あれ?
あれれ?

 どう見ても顔に見えず、トートバッグもしくは紙袋のようにしか見えない。問題のシーンをネットのアーカイブで何度も見たがやはり全く少しも顔に見えない。
 そもそも、これだけはっきり顔が映っているのにも関わらず放送当時には話題になっていないため、ネットに出回ってる画像はおそらく誰かによって加工されている。

2009年「白い春」11話
 関西テレビで放映されたドラマで、最終話に顔が映っていると話題になった。

問題の画像

 確かに登場人物が歩いているシーンで後ろの暖簾の物陰から白い顔が覗き込んでいる。

ものすごいこっち見てる

 かなり怖いが、この看板の「下総屋食堂」を調べてみると同じ顔の従業員さんがいらっしゃった。

この方ですね

 更に調べてみると雑誌の取材で「撮影中に顔を出してしまい慌てて戻った」という話もあった。これはただの人の顔の写り込みである。

2014年8月16日「ほんとにあった怖い話15周年スペシャル 闇への視覚」

問題の映像

 宮崎美子と黒木瞳の工場のロッカールームの会話シーンで宮崎の背後にあったロッカー扉の鏡に顔と思われるものが映り込んでいた。

問題の映像をアップにしてみた

 問題のシーンを何度も見たが、あまりに一瞬すぎて顔が映ってると感じる暇もない早さだった上に何度見ても顔に見えない。

問題のシーンをもう一度見てみる

 これで顔が映ってると言い出した人はコマ送りでワンフレームずつ見ていたのだろうか。そうでないと発見自体が困難なレベルの写り込みであり、加工の臭いしかしない。何度見ても「え?今顔が映った?」とは感じないのだ。

2004年9月19日「田舎に泊まろう!」
 「ぞぉ~っとするような田舎に連れてって!」と蛭子能収氏が青森県大畑町へ向かう放送である。この回では蛭子能収さんが恐山に向かった回である。宿を探すのだが一人暮らしのおばあちゃんの住む家に決める。おばあちゃんの家で作ってもらったラーメンを食べている時に奥に顔が映り込むのだ。

問題の映像

 これはラーメンを食べている時、背後から不気味な顔が覗いているというかなり有名な心霊映像だ。

問題のシーンのアップ

 これ、撮影時に俳優と泊まりにやってきた家のお婆さんだけしかいなかったのなら本物認定なのだろうが、撮影スタッフだけでなくラーメンを作りにきた近所の人もいたらしい。更に、問題の箇所の直前には後ろを歩く赤と黒のボーダーのニットを着た女性が歩いていた。そのボーダーの服の人の影はふっと消える。どうやら奥に隠れたように見える。

問題のシーンの少し前の隠れるボーダーニットの方

 この他の映像を検索したがアーカイブがない。しかしどうもこのボーダーのニットの女性の方が隠れて顔を出してたような気がする。問題の画像をよく見ると赤っぽい服の女性の肩が少し見えている。これも霊ではなく写り込みだ。

2006年に起きた「秋田児童連続殺害事件」
 容疑者宅を写した写真に殺害されたはずの児童が映り込んでいたというものである。この家には立ち入り禁止テープが貼られており、中に人がいるはずがない。この写真が撮影されたのは容疑者が逮捕された6日後のことである。

問題の画像

 これを見た時、被害児童の父親はあの子だ、と言ったらしい。これに関しては、前を取り囲んでいる取材者が映り込んでいたのではないかとする説がある。

拡大とカラー化

 拡大し鮮明に加工した顔を見ると右側に首を傾げるように顔が映っている。そして、あまりにも顔がおっさんで少なくとも7歳の少年の顔には見えない。
 7歳男児の平均身長は123.5cmで、掃き出し窓の平均的なサイズは2.0〜2.2m、中桟の高さは通常の窓であれば1mほどで、このような写り方をしようと思うと正座のような座り方をしていないとおかしい。工藤の計算式で脛腓骨の長さを計算すると7歳男児は22cmほどで、膝をついていると1mほどとなり中桟にちょうど引っかかるはずで、サイズ感が合わないのだ。
 さらに、反射の問題もある。通常窓の中に人間がおり、その窓に何かが映り込むと下の写真のように中のものが見えないはずだ。カラー化された問題の写真を見るとカーテンが閉められているのか室内が全く映っていない、ということは白く見えるのは隣家の外壁であるということだ。

 そして、外壁より前に人間が立って映り込んでいる。ということは、部屋の中にいる訳ではなく、外壁の前にいる人間が映り込んだということになる。

家の隣?前にも同じ家がある

 この家はいくつか同じ作りの家が集合して建てられており、ちょうど問題の写真のように白壁が映り込む。

 さらに、問題の家は四つ端などにはなく、白壁が映り込んでもおかしくない位置関係にある。そして、なぜ首をかしげるようにしているのか、よく見てみると左手で何か支えているようにも見える。

この状態

 おそらくカメラを抱えたまま待機しているのだろう、これも写り込みだ。

新横浜援交 番外編2
 新横浜援交シリーズは本物の中・高校生を出演させた児童ポルノである。この中のシーンで顔が急に写り込んだ事で話題となった。

問題の画像

 青白い顔がベッドの後ろからニュッと出てきている。女優の田中麗奈に似ているということもあり、「霊奈」ちゃんと名付けられていた。

霊奈ちゃん

 あまりに場違いな演出のため本物なのではないかという見方が強かったが、調べてみるとこの番外編2にはもう一人出演者がいた。

もう一人の出演者

 眉毛の形がそっくりである。カメラに表示された撮影日の表示も1/1のまま。しかもどうやら2人の女性を連続して撮影し、一人を室内に待たせていたようだ。これはどうやら心霊ではなく、写り込みのようだ。

 調べてみると、どうも胡散臭いものが多く、後から加工されていたり、不気味に見えるだけで実はただの写り込みだったものも多い。「ガチっぽい」と思ったのに思いのほか「ガチっぽく」なかったという事実であった。

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