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100年続く産業を。『城陽ワイナリーへの軌跡』その6

2018年

残された時間がそれほどない感覚でした。

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初夏
父は元気でした。

すっかりとその事が頭から抜け落ちるくらい、
当たり前のようにそこにいるのです。

この夏は、酷い雨が続きました。
各所で豪雨長雨の被害が出ているくらい。
葡萄にとっても過酷な年でした。

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8月
長雨の影響を受けて、畑ではベト病が蔓延し、壊滅的な被害を受けました。それと時を同じくして、
父の癌は徐々に進むスピードを早めました。

9月
それでも。少しでも。この年のワインがどうしても作りたくて。少量だけど葡萄の収穫に挑みました。
体調を崩し、父の姿はそこにはありませんでした。

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11月
ワインはなんとか出来上がりました。
少ない量だったけど、味わい深いものに仕上がりました。
ラベルには、土に落ちた腐った葡萄たちを描きました。

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最初にのんでもらうのは…もちろん。

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僕の料理と父とワイン
この頃、身体のそこいら中が痛かったに違いない父が、嬉しそうに僕の料理とワインをたしなみます。

僕はなんの気無しに尋ねます。
「死ぬ事は、怖くないのか?」

父は答えます
「怖いこともなんにもない。なる様になるし、なる様にしかならん。でもなー。」
と口をつぐんで。
「ワイナリーなぁ…ワイナリー。
見れるんやったら…見てみたいなー。」
少しだけ寂しそうに、
グラスに残ったワインを飲み干しました。

2019年 2月
息も絶え絶え。
酸素ボンベを担ぎながら、畑で挿し技にチャレンジします。 

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2019年3月

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「ちょっと体がしんどいな。畑はどないや?」

どんな時にもスピードを緩めなかった父が、
少しずつ少しずつアクセルを緩めはじめました。


刻一刻とその時は迫り来るのです。

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2019年4月

骨と皮だけに痩せ細り。
遂に言葉がなくなり。
その数日後。
父は静かに息を引き取りました。

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父のいなくなった畑は、それでも当たり前のように新しい芽吹きを迎えます。
凡常たる存在を失っても、自然は時を粛々と刻むのです。美しいほど残酷な時の流れ。

続きます。


追伸

この年は、1年間に渡り、
テレビ番組で、ドキュメンタリーを製作していただきました。KBS京都様、元気な事務所様、ディレクターのE君本当にありがとうございました。父の証を残してくれた事、心より改めて感謝申し上げます。

下記映像リンクです。
もしよろしければご覧ください。

https://youtu.be/y3VTFoS97G0


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