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i.lab社内R&D 「Voice Mask」プロジェクト:連載12 インタビューからの考えたこと

こんにちは、i.labです。

特許取得を機に活動を再開したi.lab社内の取り組み「Voice Mask」プロジェクト。連載第12回目の今日は、 前回までに実施した4名に対するユーザーインタビューからの示唆まとめになります。

前回までに実施したインタビュー4件の記事はこちら↓

インタビュー対象者4名について

4名のインタビュー対象者の方について、簡単に一覧にしてみました。詳細については、それぞれのインタビュー掲載ページでご確認ください。

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インタビューを通じて考えたこと(仮説のOXチェック)

ここからがインタビューを通じて考えたことになります。インタビュー前の仮説が、インタビューを通してどのように変わったのかをわかりやすくするために、「OX△」で表現してみました。

A. 利用シーンの仮説 1  オープンスペース / カフェ

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「オープンスペース」や「カフェ」での利用に関しては、在宅に加えてコワーキングスペースでも働いている山本さん、オフィスの設計・コワーキングスペースの運営をしていて、自社のオープンスペースのオフィスで仕事をしている、山口さん、カフェで仕事をすることがある池田さんからお話を伺いました。3名からは、周囲の人の声がオンラインミーティングに入ってしまうことや、そのための個室確保の必要性など、インタビュー前から想定通りの課題感に関するお話を伺えました。

次に「情報漏洩」に関する課題について。インタビュー前は、オープンスペースにおける課題の一番は「情報漏洩」なのではないだろうと考えておりました。しかしインタビューしてみると、「情報漏洩を気にしていない」訳ではないものの「周囲の人への迷惑」に関する課題の方が多く聞かれました。池田さんからは、オンラインミーティングはモスバーガーの店内では周囲の目が気になるからテラス席で実施している旨、山本さんからも、オープンスペースは避けテラス席で行っている旨をそれぞれ伺いました。また二人ともオープンスペースでしても漏洩リスクが低い内容のミーティングに限っているようでした。つまり、オープンスペースでのミーティングは「大前提として情報漏洩リスクの低いものに限られている」ので、相対的に課題感は「周囲への迷惑」の方が大きくなる、ということのようです。

また、周囲への迷惑を気にすることによる二次的な影響があることもわかりました。山本さんは声のトーンを落とすことで「口数が減る」とか「トークが乗らない」とか「ファシリテーションがうまくいかない」ことがあるそうです。これは発言を伺って納得感がありましたが、オンラインミーティング経験のある人なら一度は経験があるのではないでしょうか。

オフィス設計を手掛けられている山口さんからは、近年のオフィスのトレンドやwithコロナでの対応などお話を伺えました。なるべく部屋を区切らないオープンスペースのオフィスが、コミュニケーションや活気のを醸成する上で良いということで近年増えていたが、オンラインミーティングへの対応として個室やブースのリクエストが増えてきているそうです。一方で、個室は施工コストの増加や、オープンスペースで実現できていたコミュニケーションの減退にもつながるので、デメリットもあるようです。


以下が該当するインタビューの重要事実カードです。

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A. 利用シーンの仮説 2  在宅ワーク

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在宅ワークでの利用については、現在ご夫婦でフルリモートワーク中の遠藤さん池田さんにお話を伺いました。

インタビュー前に考えていたことは、Voice Maskは、個室がない共働き家庭のテレワークに良いのではないかということでした。これに該当するのは遠藤さんです。話を伺うと、テレワーク開始後数日はダイニングでご夫婦で同時に作業していたそうですが、すぐに相互のオンラインミーティングで支障が出て、それ以降寝室(夫)とダイニング(遠藤さん)に別れて仕事をしているとのことでした。遠藤さんが特に静かにミーティングしたい時には代わってもらうそうです。ダイニングで仕事をしていると、冷蔵庫の開閉音など家族が出す騒音など課題があるようですが、ミーティング前に飲み物を取るように伝えるなど、工夫できている部分はあるようでした。一方の池田さんは、物置を仕事部屋に変えて個室を確保できたことで、家庭内の音に関しては特別な困りごとがないようでした。

Voice Maskの特徴は自分の喋り声が周囲に聞こえないことですが、「家族に聞かれたくない話がある」という仮説に対して遠藤さんからは「ネガティブな話を子供に聞かせたくない」というコメントをいただきました。不穏な空気を察してお子さんが部屋を出て行くそうです。この辺りは仮説通りだなと思う一方で、内容が深刻な際は寝室を利用するなど工夫はされており、強いニーズではないと思います。

遠藤さんから聞かれた在宅ワークでの課題の中では、冷蔵庫の開閉や掃除機の音など「家族が出す音」の問題が一番強いように感じました。「Voice Maskによってこれらのノイズがミーティング相手に聞こえないと良い」と言ったコメントもいただきました。一方で、池田さんがノイズを低減するアプリを用いて赤ちゃんの声を消していたり、zoomにノイズキャンセル機能が追加されていたりなど、すでにあるソフトウェアやハードウェアで対応できることでもあります。自分の発話をマスクするというVoice Maskの一番の特性とは少しずれているかもしれません。


以下が該当するインタビューの重要事実カードです。

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A. 利用シーンの仮説 3  移動中

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「移動中」の利用シーン仮説に「新幹線」について、遠藤さん池田さんは「ありそう」なコメントをいただきました。特に遠藤さんは、「通勤電車でも使いたい」とか、「出張の際にミーティングしながら前入りできる」とか、かなり評価いただいている印象でした。 一方で山本さんは、ネットが不安定だから無理とのことでした。山本さんは今回のインタビュー対象者4名の中でも最も公共空間でのミーティングを経験しているので、発言にリアリティを感じられます。東海道新幹線はトンネルが多い区間あるし、電波が入らないとVoice Mask単体では解決できません。新幹線の車内wifiもあるようですが、通信速度が十分ではないようです。将来的に通信環境が整えられてた時には、利用シーンとしとなり得るのだと思います。

駅のホームなどに関しても、山本さんの「そもそも好んでやる場所ではないからVoice Maskがあるから頻度が上がることはない」という発言がありました。 Voice Maskがあると、そういった場所での「緊急」のミーティングの品質は上がる可能性はあるが、非積極的なシーンであることに変わりはない、ということだと考えられます。

外出先シーン全体に関するコメントを総括してみると、Voice Maskがあることによって音に関するミーティングの品質を上げることはできるけれども、机・椅子・電源・通信環境・のぞき見・周囲の騒音など、音以外の要因から、そもそもミーティングに適していない場所である、ということいえます。Voice Maskによって、外出先でのミーティング頻度が大きく増えることはなさそうです。とはいえ緊急時のお守りにはなるかもしれません。


以下が該当するインタビューの重要事実カードです。

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A. 利用シーンの仮説 4  空間提供者がレンタルする

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池田さんからは、インタビュー前に全く想定していなかった利用シーンに関する示唆をいただけました。

そもそも池田さんにインタビューを依頼したきっかけはFacebook上での「ADDressで利用したい」という、池田さんの携わる事業を想定したコメントでした。コメントを拝見した際には、「ADDressの社員で利用したい」という意味だと誤解していたのですが、インタビューで詳細伺ったところ「ADDressが提供する部屋で個室の代替としてユーザーに提供したい」ということだったことがわかりました。ユーザーのテレワークニーズに応えようとすると、個室を設ける必要があるがコストがかかる。その際個室の代替になるのではないかという意見でした。

同様にカフェが利用者にレンタルする、というアイデアもご提案いただきました。考えてみると、カフェ、ファーストフード、ファミレスなどにはwifiやコンセントなど、今まで提供されていなかったサービスが年々増えていっています。そういったものの延長線でVoice Maskが貸し出される、そのようなシーンが登場しても不思議ではありません。カフェのカウンター席などに電源が設けられた席が最近多いですが、同じようにVoice Maskが設置されたオンラインミーティング席のようなものができるかもしれません。また、カフェに限らず、ネットカフェやコワークングスペースといったより専門性に特化した空間、空間の提供者がサービスとして客に貸与するはありそうです。


以下が該当するインタビューの重要事実カードです。

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B. モノの仮説

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モノに関しては、紙資料のCGと3Dプリントした簡単なモックを用いてインタビューを行いました。

モノの見た目の印象に関しては、「スマートな印象」や「シンプルなデザイン」など、4名全体的に肯定的な意見がいただけました。特に新しい概念のプロダクトなので、カフェで利用する際などに悪目立ちしない方がいいとのことでした。

次に携帯性に関して、インタビュー前は折りたためれば良いだろうぐらいに考えていました。ところが、山本さんから「普段使っているリュックだと問題ないが、会社に行く際の薄型のビジネスバッグだと入りづらいかもしれない」というコメントをいただきました。実は今回プロトタイプ を作成したデザイナーの佐藤は「スーツを着てオフィスに出社する」といった多くの社会人がしていることを経験したことがなく、従ってビジネスバッグに触れたことがありませんでした。ユーザーインタビューの価値、想定していたこと(自分の常識)が崩される瞬間はこういうところにあります。ビジネスパーソンにとっての携帯性とは薄く折りたためることである、ということがインタビューを通してわかりました。

それから、長時間つけても疲れないフィット感が重要だというコメントも多く聞かれました。今回インタビューをした4名は、みなさん仕事時間の半分はミーティングをされているような方々でした。1日に3-4時間も装着することを考えると、フィット感や軽量性は重要になってくるのでしょう。一方で、プロジェクトの現段階のプロトタイプでは、重量とか、人間工学的なフィット感とか、ユーザーごとの身体特性に合わせられるアジャスターとか、そういったディティールを細かく検証できるフェーズではありません。ですから、具体的な改善点については現段階では出せませんでした。


最後に、山本さんから「カナル型イヤフォンの方がちゃんと音が聞こえそう」というコメントもいただきました。この辺りは好みだと思うので、ユーザーに選択の余地が作れるといいかもしれません。

以下が該当するインタビューの重要事実カードです。

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まとめ

以上がユーザーインタビューを通じて考えたことになります。最後にこれらを「アイデアの幹と枝葉」のフレームワークでまとめたのが下記の図になります。これは、木の根幹となる「幹」と、その周囲に生えている「枝葉」になぞらえたもので、アイデアの幹を決め、木を剪定するように枝葉の要素を加減してアイデアを洗練させて行くフレームワークです。

:アイデアの根幹となる要素
プラスの枝葉:インタビューを通じて加えたプラスアルファの要素
マイナスの枝葉:インタビューを通じて除いたマイナスの要素

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いかがでしたでしょうか?本エントリーでは、ユーザーインタビューから考えたことについてお話しました。次回がいよいよ本連載の最終回です。更新もぜひお楽しみに!

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問い合わせ先
メール:h-suzuki<at>ilab-inc.jp
担当者:i.lab ビジネスデザイナー 鈴木斉