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屋上の少女

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2015年4月の記事一覧

五 入部テスト

その日の放課後、翔太はいつも通り部活へと向かった。更衣室をあけると、良平が一足先に着替えているところに出くわす。

「よお、翔太やんか」

「よ、良平」

 だいぶ慣れてきたこともあり軽く挨拶をかわす。翔太も荷物の中から着替えを取り出して、着替え始めた。

「さて、いよいよ明日は登録日やな。翔太結局どないするん?」

 良平にはまだ卓球部に入ろうと思っていることを教えていない。初めて仮入部に来た時

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四 できつつある日常

入学してから三週間もすると、新しい環境にも慣れ、学校には日常というありきたりな空気が流れ始める。

 翔太にとっても、それは当てはまることだった。

 クラスでは依然友人はいない。たまにクラスメイトとかわす言葉も、事務的な者しかなかった。

 それでも翔太は、学校で居場所を見つけつつあった。

 昼食の時間になれば屋上へ行き、楓と一緒に弁当を広げる。相変わらず会話は少なく、座る距離もすこし縮んだだ

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三 部活動

 春というのは、部活動においての勧誘の時期である。

 学校の掲示板などには新入生歓迎の文字が書かれた勧誘のポスターが貼られ、下校時刻には一人でも多くの新入生を自分の部活動に引っ張っていこうと待ち構える上級生の姿が見える。熱心な部などは、昼の休み時間などに、校内の廊下を部の宣伝をしながら歩くところもあるほどだ。

 そんな勧誘の嵐の中、部活動に入らないと決めている翔太は何とか下校しようと毎日四苦八

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二 視線の先

 次の日以降も、翔太は屋上へと行き続けた。

 楓はそこにいつもいたし、いつも一人で昼食を取っていた。

 翔太が行くと必ずこちらを無言で見るのだが、楓から声をかけてくることはなかった。昼食を取っていいか翔太が訪ね、楓が無言で首肯する。そんなお決まりのパターンで、お昼の時間はいつも始まった。

 初めのほうはおどおどして何も話しかけられなかった翔太だったが、楓と知り合って早一週間。その間にかわした

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一 出会い

  少女は、屋上に座り込み、昼食をとっていた。

 髪の毛は長く、おそらく背中の中ほどまで伸びている。翔太の立っている位置からは、少女の横顔しか見えなかったが、日本人にしては高めの鼻と大きめの目から、整った顔立ちであることが容易に知れた。

 しかし、それは翔太が今まで見てきた「かわいい」という顔とはどこか違っていた。今にも消えてしまいそうな、触れば崩れてしまいそうな、そんな繊細な雰囲気が彼女の周

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プロローグ 屋上にて

  桜が満開の時期を終え、散りだした頃。

 相田翔太は、弁当を手に学校の階段を屋上に向かって上っていた。

 新学期が始まって今日は五日目。クラスではまだ緊張した空気が漂いつつも、新しい友人や環境に適応しようとする雰囲気が漂っている。昼の昼食時間でも、近い席の生徒同士で昼食をとる生徒の姿が見えるようになっていた。

 そんな中、翔太は一人階段を上り続ける。

 屋上に続く扉には鍵がかかっていて生

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