プロローグ 屋上にて

  桜が満開の時期を終え、散りだした頃。

 相田翔太は、弁当を手に学校の階段を屋上に向かって上っていた。

 新学期が始まって今日は五日目。クラスではまだ緊張した空気が漂いつつも、新しい友人や環境に適応しようとする雰囲気が漂っている。昼の昼食時間でも、近い席の生徒同士で昼食をとる生徒の姿が見えるようになっていた。

 そんな中、翔太は一人階段を上り続ける。

 屋上に続く扉には鍵がかかっていて生徒が出入りできないようになっている。しかしその扉の横に置いてある、今は使われていない掃除用具を入れるロッカーの裏に合いかぎがあるのを翔太はすでに知っていた。二日前、今日と同じように屋上で昼食を取ろうとした時、たまたま見つけたのだ。

 どこのだれがそんな場所にそれをおいたかしらないが、翔太としては願ったりかなったりである。

 翔太は少し気分を沈ませつつも、鍵を取り出そうとロッカーの裏をみた。

 しかし、そこにはあるはずのカギがなかった。

 びっくりしてロッカーの周りを捜しまわる。ロッカーの上、下、さらには中まで捜したが、鍵は一向に見つからなかった。

 意気消沈しながらも、実は扉が開くのではないかと淡い希望をかけてドアノブをひねる。すると、いとも簡単に扉は開き、翔太は扉をあけた。

 実は教師のだれかが清掃か何かのために屋上にいるかもしれない。基本的にここは生徒出入り禁止だから、見つかったら怒られるかもしれない。

 それでも、なぜか翔太は扉を開けるのをやめられなかった。まるで吸い込まれるように、扉を簡単に開けてしまう。

 まぶしい陽光に一瞬目を細め、正面に人影を確認する。教師か、なにかの事務員か。目が光りになれるのを待ちながらそう考えていた翔太は、しかし人影がそのどちらでもないことに気がつく。

 そこには、制服を着た一人の少女がいた。

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