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寺沢弘樹「実践! PPP/PFIを成功させる本」

私が公共資産マネジメントの仕事をしていた時代に師と仰いだ寺沢弘樹氏の2冊目の単独著書、実践!PPP/PFIを成功させる本。ですが、この本には、どこにもノウハウは書かれていません。たくさんの事例が紹介されていて、ちょっとノウハウっぽいことの入り口などは書かれているのですが、あっさりとしていて、むしろマインドについて書かれています。なぜなら、実践のために必要なのは、マインドだから、なのだと思います。
まず公共資産マネジメントについては、寺沢氏の前著を紹介した時にも書いているのですが、人口も経済も右肩あがりに成長していた時代に、そのニーズを補うために作られたたくさんの公共施設の管理が問題になっていているということに端を発しています。
一気に更新の時期を迎え、その全てをとても補うことはできない。ですが、集約しようとしてもそれを必要としている市民(一部だったりするわけですが)もいるわけで、どこをどうしてよいか分からない、というのが現状です。

前著でも少し触れられていますが、公共施設だけを考えても仕方がない、まちにどんな資源があるのか、公共だけでなく、民間についても調べて、全体を見ていかなければいけない、ということを書いています。さらに物理的なことに限定されず、ネットでもできることがある、ということを書いています。
たとえば流山市のマチブック。
市民有志で立ち上げたプロジェクトで、子どもたちが読みたい本をすぐ読めるように、という思いから、アマゾンのウィッシュリスト機能を使って、市民から寄付を募るものです。

この事例から、私は2つのことを学びました。一つは、ネット上の話であるということ。アウトプットとしては、絵本の寄付があり、それを子どもたちが借りて読むことができるということがありますが、仕組みは全てネット上です。仕事の休憩時間に、夜寝る前にちょっと、好きなタイミングでまちに関わることができます。
そしてもう一つは市民有志であるということ。住んでいるところをよくしたい、という思いは多かれ少なかれ、みんな持っているのではないかと思います。まちをつくるのは市だけではありません。こうした市民の思いをプロジェクトにするリーダー的な市民、そしてそれに賛同し、自分のできる範囲で貢献しようとする、市民の力によってもつくられるのです。そして、それを受け止める図書館があって、それが一部の人たちのコミュニティではなく、広く市民が享受できる形になるのだと思います。

私は公マネを離れ、2年目になります。最初はシティプロモーション推進課、プレスリリースなどで公共施設ものがくると、当時のことを思い出しながら、その取り組みの良さを出したいと思いました。特に、市原歴史博物館 という新たな施設がオープンする機会に立ち会うことができて、そのプロモーションは、担当課の方でもかなり積極的に取り組んでいましたが、その後方支援が少しできたのではないかと思います。公共施設で行われる取り組み、その魅力を広く知ってもらい、多くの人に訪れて、そこで何かを得てもらうことも大切だと考えました。
実は公マネ時代前半には、この施設を個人的にはあまりよく思っていませんでした。総合管理計画を作る前に既存の施設を更新と併せてリニューアルオープンすることは決まっていましたが、当初の計画よりも面積が増えたりしたこともあったからです。しかし、徐々に施設の計画が明らかになっていく過程で、「市全体をミュージアムに見立てる」という考え方を知り、これは市原歴史博物館だけでなく、市全体への波及効果も狙うことができるのではないか、と期待する気持ちが出てきました。


オープンして2年目に入りましたが、当初想定したよりも来場者数は多く、また今やっている特別展示(12/24まで!)も、「いちはらのお薬師様ー流行り病と民衆の祈りー」というタイミングを捉えた内容で、座って写真を撮ることができる「なりきり薬師如来」というphotospotもあり、シェアしたくなる仕掛けも準備しています。こまめにSNS発信もしていて、できて完成ではない、ということがすごく意識されているなと思いました。

さらに現在は、障がい者支援課。以前は障害者福祉センターを持っていましたが、それも市内の社会福祉法人に民間移管し、今はその跡地を持っているのみとなります。ですが、全体を見たときに、障がい者福祉というかなり行政的な側面が強いものであっても、市が支給量を決定し、サービスを民間が提供し、報酬を請求し、それを国や行政が負担するという仕組みは、当たり前のようでいて革新的です。なぜこのようなことが始まったのか、もちろん介護保険が先行して、というか一つにまとめられなかったのだとは思いますが、いよいよ行政直営だけでは支えきれなくなることが分かっていたからこそ、民間活力を使う仕組みが構築されたのだと思います。
障がい者福祉には居住系サービスもあります。入所施設を減らしグループホームや自宅での生活を、という地域移行の流れが求められていますが、グループホームであっても施設です。それを社福やNPOだけでなく、最近は株式会社なども多く参入し、報酬請求をして運営しています。それはそれでいろいろな課題も指摘されてはいますが、熱心で、様々なことを考えている株式会社の方もいるわけです。
そう考えていくと、逆に市営住宅はなぜ公共が維持管理しているのだろう、という気もしてきます。
さらに、その他の分野でも公共施設で行えるサービスについて、発想の転換が必要ではないか、と思われてくるのです。表面的に公共資産マネジメント推進課にいる時にも思っていましたが、こうした考え方を身につけた上で他の部署に行ってみると、もっと柔軟にいろんなことができるのではないか、という気がしてきます。
今までこうやってやってきたからこれでいい、というわけではありません。
時代は変化するから先を見据えなければいけない。まして、現状で利用が減ってきたり、様子が変わってきている施設は、このまま見過ごしていて良いわけではなく、何か手立てを考えなければいけないのです。
しかし、何かを変えようとすると、抵抗勢力があるものです。この本ではそのことを指摘した上で、それでもやらなければいけない、みんなやってきたし、ヒヨってもいいからやっていこう、と説いています。
そしてその時に必要となるのは、ノウハウではありません。マインドなのです。他で通用したノウハウが、その組織でも通用するわけではないですし、本に書かれた情報は読む人にとっては二次情報になってしまいます。その組織にいる人が、その組織文化を肌身で知りながら、違う組織文化で達成されたことを踏まえてそれをどう読み解くか、これが本当の一次情報になるのだと思います。
だから寺沢氏は、敢えて、少しだけ情報を出して、詳細はネットを見るなり、さらに教えを乞うなりすればよいということなのだと思います。
寺沢氏に教わったことは、公共資産マネジメントの話かと思っていましたが、それだけにとどまるものではありません。民間とどう連携していうか、また、変えにくい組織の中で、やるべきことをどうやっていくか、ということは、どこの職場にいても必ず持っていなければいけないマインドなのだと思います。

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