見出し画像

寺沢弘樹「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」

なぜ、このタイトルなんだろう。
著者は主に公共資産マネジメントやまちづくりに関して、自治体向けのアドバイザーや講師をされている方です。私の仕事のこれまではほとんど全てこの寺沢氏(とその仲間たちのおかげ)です。本を出すというお知らせを受けた時に、なぜ公共資産マネジメントとまちづくり、とかではなく、このタイトルなんだろう、と疑問に思っていました。
著者と編集者には申し訳ないのですが、生意気な発言をしますと、このタイトルで、必要な人に届くのか、と正直思ったのです。
これから話すことは、どこかの特殊な地域の話ではありません。日本中のほとんどすべての自治体で、抱えている課題です。少し長くなってしまいますが、お付き合いください。
昭和40年から50年にかけて、多くの自治体では、人口の増加に合わせて、たくさんの公共施設が作られました。当時は経済も右肩上がりで、税収も同じように上がっていきました。建物を持っていれば、維持管理費や、修繕、改修などのお金が必要になりますが、その頃はその費用を賄うだけの十分な税収がありました。けれど、人口増加はいつまでも続きませんでした。高度成長期は終わり、財政状況は悪化し、修繕が難しい状況になってきました。だましだまし使いながら、何とか乗り切っています。
これはどこかの財政状況が特に苦しい自治体の話ではなくて、ほとんどどこの自治体でも抱えている課題とされています。国も、地方自治体がこの問題に真剣に取り組むように、公共資産をどう管理していくか、ということについて、計画を策定するようにしました。まずはそのために、各部署がそれぞれの行政サービスのために持っていた施設のデータを集めたり、今後どれだけお金がかかるのかの費用推計を試算したりしました。さらに、それぞれの施設について理論的な推計ではなく、実際の施設を調査した上で、より正確に近い今後の費用見込みを調べ、施設分野ごとの計画を作るようにという指示も出ました。それを作って、今後公共資産全体でかかる費用を足し合わせたところ、今まで公共施設の改修や修繕にかけていた金額ではとうてい賄えないくらいに、今後費用がかかることが分かったのです。
ではどうすればいいか、あまり使われていない施設から壊していけばいい。とてもシンプルですが、そうもいきません。
あまり利用されていない施設だと思っても、一部の利用者は頻繁に利用していたりします。そういう人たちが声を挙げます。市全体で比較して使われてないところを、と思っても、他の場所が廃止されないのに、なぜうちのところがという話になります。そもそも少しずつ人が減っている地域というのもあり、ますます賑わいがなくなるということも気になります。
もし無事にクローズできたとして、維持管理費は下げられるものの、敷地の草刈りや治安の悪化を防ぐための警備や、必要最低限の維持管理費がかかります。もともと公共施設は人の集まりやすい場所に作られるから、そうしたところに廃墟があるのは、あまりよいものではありません。それなら、壊したり、売ったりすればいい。でも、そうも簡単には行きません。公共施設を建てるときには国の補助金が投入されていて、いい加減な施設が立てられないように、補助された時期から当面の間は壊したり、民間に売ったりすることができないのです。もし壊す場合には、補助金を国に返さなければいけないといった決まりがあります。
こうした課題を解決するのは、公共資産マネジメントに関する部署になります。著者の寺沢氏が取り組んでいるのも、公共資産マネジメントという難しい課題をどのように解決していくか、という話なのです。
この本のタイトルにある、PPPとは、行政と民間が協力して公共サービスを効率的に運営することを指します。また、PFIというのは、Private Finance Initiative(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)のことで、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法です。私の職場でも、複数の公共施設の類似した機能を集約し、シナジー効果を生み出すとともに床面積を縮減するため、複合施設を計画していますが、公設公営で作るよりも費用が縮減できるように、PFI事業を検討しています。もちろん、それだけのものではなく、経営感覚にすぐれ、自由な発想を持つ民間事業者の発想を取り入れることで、施設単体ですればよいわけではなく、まちの魅力をつなぐようなものにできたらと担当としては考えています。さらに、その場所を利用する人が、自分のやりたいこと、やらなければいけないことを見つけて、実践し、それを広めていくことで、まちに生かされている感じではなく、まちに暮らすことをポジティブにとらえられるようになればすばらしいと思います。
公共施設は単にそこで行政サービスを提供するだけのものではない、ということを教えてくれたのは、寺沢氏です。学校は授業を学ぶだけのところではない。図書館は、本を予約して借りる、あるいは勉強するだけの場所ではないのです。単に金銭的な負担がほとんどない形でサービスを受けられる場所というわけではありません。そこのまちならではのコンテンツで、利用者の暮らしを、人生を変えるようなものでなければいけません。
まちは公共施設だけで成り立っているわけではありません。ひとの暮らしも公共施設だけで成り立っているわけではありません。だから私たちが見るべきは、公共施設だけではないのです。まち全体を見なければいけないのです。
そう考えると、そもそも行政サービスは、PPPやPFIといった手法が出てくる前から、当たり前のように民間と公共の間で行われてきたことに気付きます。民間で提供できないから、公共で作らなければいけない。民間で提供されているものは、わざわざ公共が提供する必要はない。その間に補助金によって民間事業者の行動を促進したりということもあります。極端な例ですが、食料がものすごくなかった時代には、配給という仕組みがあったけれど、今はそういうのは必要ないわけです。本来は民間で供給されれば、不要と判断されてなくなっていくものかもしれません。介護だって、障がい者支援だって、昔は直営で行われてきたものが民間事業者のサービスによって提供される形に変わってきました。
だからこそ、公共資産マネジメント、という言葉を、タイトルに掲げたくなかったのだと思います。どうしてもそこに注目すると、視野が狭くなり、何をすべきかということが見えにくくなり、しまいには、どこから手をつけてよいか分からなくなってしまう。できることからやろう、公民連携でどんどん実践していこう、というのが著者の訴えたかったことだと思います。

著者は元流山市の職員であるため、自治体特有の組織文化についても詳しく、記載されている内容は、具体的で実感のわくものとなっています。様々な自治体の事例も取り上げられていて、参考になることがたくさんあります。研修等で聞いた内容もかなり含まれていましたが、改めて読むと気付きもあり、読みながら色んなアイデアが湧いてきました。同時に元気も出てきました。
公共資産マネジメント担当にとって、実務的にも、精神的にも、とても助けられる本だと思います。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?