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穂村弘「短歌ください」

ほとんどの五・七・五・七・七の言葉が、読んだだけではそこまで理解できず、穂村氏の解説によって掘り下げされていくところが、まるで、ツアーガイドに案内されているようでした。

読みながら、日常の中で交わされる言葉の中には、その相手にしか分からない、二人の間に記憶として積み重ねられた前提の上に成り立つことがあるのかなと考えました。

相手と特別な関係というようなことだけではなく、仕事の上の話であっても、理解し合えているであろう、同じ考え方であろうことを拠り所に、何か伝わりにくいことや、難しいお願いをする時に、こんなふうに言葉を考えていたような気がしました。
初めて連絡をとる場合も、相手のウェブサイトを見たりして、可能性について考えます。そしてそのことについて言及しながら、メールしたり電話したりするわけです。

どこか少し違う表現を用いたら、伝わらないのではないか、そんな緊張感とともに、言葉を選ぶ。相手にとって必ずやらなければいけないことではないからこそ、やろう、やらなければいけないという気持ちを起こさせなければいけまけん。
でも同時にそれは今までにやったことがないものであり、新しいことであり、可能性を含んでいるからこそ、価値があるのだと思います。

本の話に戻ります。

詠んだひとたちの素晴らしさもあると思うのですが、穂村氏の解説がなければ多分、最後まで読み切ることはできなかったと思います。
詠むひととその相手との間にあるごく個人的な想いと同じくらいの熱量がありつつ、誰しも心の中にしまわれている大事な記憶や感性を引き出す、そんな短歌たちであり、そのことに気づかせてくれるガイドでした。

私も五・七・五・七・七を詠んでみたい、そう思ったのですが、色んな合間にできることでもなく、ふわふわと考えや言葉が浮かんでは消えて、現れては逃げる感じです。
何か思いついたら、追記します。

この本は職場の女子ランチ会でとある方が紹介してくれました。読むまでにだいぶ時間がかかってしまい、長らく借りてしまいました。でも読み始めてからは、言葉の森をめぐる楽しい時間を過ごすことができました。


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