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河村昌美・中川悦宏「公民共創の教科書」

「公」と「民」とは、「悪代官」と「豪商」でもなく、「税金泥棒」と「ブラック企業」でもない。「公務員」と「サラリーマン」でもないと思う。もちろん一般的に意味するところは、公的機関と民間企業ということなのだろうけれど、その役割を考えた時に、本当に公的機関が「公」で民間企業が「公でない」というわけではない。例えば、朝目覚めてから、夜眠りにつくまで、様々なものにお世話になって生活しているけれど、それは公的機関によるものではなくて、民間企業が作って販売して、それを購入したものだ。となると、「公」とか「民」が切り分けられるものではなくて、性質というか、徐々に色が変わっていくような、公寄りか、民寄りかという切れ目のない社会の中で、私たちは毎日を生きているということになるのだと思う。
20世紀ならば、社会課題があれば、それを国が研究し、制度化し、自治体に下りてきてその通りにやるという流れになっていたのだと思う。でも今は違う。まず何を社会課題として認識するか、そしてそれをどう解決するか、ということも地方自治体に委ねられている。
公民連携についても、色んな自治体が先進的に始めていて、そのトップランナーともいうべき横浜市の公民連携の窓口である共創推進室の創成期から在籍していた河村氏と、2016年から配属された中川氏によって書かれたのがこの本。実践者ならではの内容であるだけでなく、お二人はそれぞれ事業構想大学院大学の客員教授、客員フェローであり、ノウハウだけではなく、その根底にある考え方についても丁寧に説明されている。
公民連携と一口にいっても、入札で選んだ事業者との事業も公民連携ともいえるし、公募型プロポーザルで内容から選定した事業はもちろん、包括連携協定といったお金にからまない事業を指すこともあり、横浜市が実践している「公民共創」という、新たな社会課題に対して本当に新しい手法を作り上げていく方法までさまざまである。その規模も小さいものから大きいものまでいろいろ。
でも最初のアイデアから連携相手の選定方法、事業化までの対話、ローンチしてからの連携について、考えなければいけない基本的なところは、意外とシンプルで、どれも変わらないのではないかと思った。つまり、市民と行政と民間の全てにとってメリットがあること、そのバランスが保たれていること、そして、それにより課題が解決したり、新たな価値が生まれたりすること。具体的にどのようなモデルで考えていけばよいかということが、本の中では丁寧に説明されている。
公民連携というと、なんとなく、事業化するまでが大事なことのように考えていた。事業化してから、それがどのような効果があったかについて、検証しなければいけないということも、ぼんやりとはイメージしていたけれど、とても大切なことというのが分かった。本書の中で使用している事業化のための検証ツールでは、効果測定・測定方法という欄があり、そこも考えなければいけないということが組み込まれていた。
印象的な部分について引用したい。

最初は小さくとも成功事例を積み重ねることも必要でしょう。組織風土研究の第一人者であるエドガー・H・シャイン氏は、「組織文化の変容を促すには、心理的安心感を創り出さなければならない」と述べています。
当初から組織全体で未開の地を目指す、というのは現実的に難しいですが、少数でも先に未開の地へ行ってその地の快適さを知り組織にフィードバックできれば、徐々に組織風土にも変化が訪れます。

これから公民連携に取り組む人には、少しずつやってみたいという勇気を与えてくれる本だし、既に取り組んでいる人には、考え方を整理できるとともに、やり方のブラッシュアップができる本ではないかと思う。
やはり公側の人間が書いたものなので、公的機関にいる人にとっての方が親しみやすく感じるかもしれないが、でも、民の人たちにとっては、公の人はこんな風に考えていたのか、と対話のヒントとして使えるのかもしれない。
途中のコラムで教授と学生A・Bのちょっと面白いやりとりがほほえましい。教科書なので、ちゃんと演習課題もある。きちんとやってみたい。


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