見出し画像

久保田崇「官僚が学んだ究極の組織内サバイバル術」

組織とサバイバル、という言葉は、悲しいけれど、似合う言葉だ。何かをするための組織は、本来ならば、それぞれの力を最大限に発揮して、作り上げていくのが理想だと思う。そういう理想の組織においては、サバイバル、という言葉は違和感を覚える。けれど、現実には、どちらかといえば、毎日が戦いだったりするのかもしれない。
ただ、比較的、理想的な組織であったとしても、どうしてもサバイバル、という言葉がぴったりとあてはまることがあると思う。それは、何かを変えようとしている時だ。変えようとしている方向がとても正しいことであったとしても、理解を得て、共感してもらい、協力してもらうためには、かなり大変な思いをしなければいけない。
久保田氏は官僚として10年程度務めた後、陸前高田市の副市長となる。その後、大学教授となり、出身の掛川市で副市長を務めた後、2021年より市長となった方である。この間、官僚として勤めていたのは半分だけれど、そこで学んだことを、副市長として、さらには市長として活かしているという。
本の帯には、”霞が関流”サバイバル術7か条として次のことが掲げられている。
その1 人間関係でもっと注意を払うべきは直属の上司
その2 「内なる人脈」をつくれ
その3 敵を作ってはいけない
その4 正攻法がダメなときに使う「空中戦スキル」を身につけよ
その5 部下の仕事を奪ってはならない
その6 大きな壁に当たったときこそチャンスだと知れ
その7 ブラックな職場から自分の身を守れ
ここに書かれていることのほとんどは私が苦手なことばかりだった。「内なる人脈」とかは、情報を得たり、様々な考え方を知りたいから大事だと思う。また「部下の仕事を奪ってはならない」については、そういう「俺がやった方がうまくできる」的な上司にあたり、嫌な想いをしたことがあるから気を付けている。けれど、それ以外は苦手なことがいっぱいだ。というか、むしろやりたくない。直属の上司に注意を払えって、私のお客は上司じゃない。上司の方なんか向いて仕事はできない。敵を作ってはいけないとか、何かを変えようとしたらどうしても敵と感じる人はたくさん出てくるし、でもその代わりに味方を作りたいとは思う。「空中戦スキル」とか、そんな器用なことはできない。大きな壁に当たったら、テンパってしまい、それどころじゃない。
何かを変えたいと思ったら、ここまで自分を押し殺していろいろやらなければいけないのか、と思った。久保田氏は最初から、そういう人だったんじゃないだろうか、もちろん官僚時代にたくさんの学びはあっただろうけれど、その素地はあったのではないか、と感じた。
ところが読み進めていくうちに、天性の性質ではなかったということが分かった。例えば、人前で話すのは手が冷たくなってガチガチになるほど緊張したというし、一方で、学生時代は人を論破するのが好きで先輩なども言い負かし、スカッとしたこともあったけれど、人が離れていったという経験もあるという。様々な人との出会いで、変わっていったのだという。
書かれている久保田氏の経験を読んでいくと、なるほど、と思わされる。失敗したこと、そこから学習し、行動を変えたこと、それによりどんな風になったか、ということが書かれている。さらに、どう考えても問題のあるような上司からも、学びを得ている。敵を作らないということはこういうことなのか。静かにゆるぎない情熱を持って何かを変えたいと思えば、自分の衝動的な感情に左右されることなく、自分の行動を律することができるということなのだろうと思った。
またもう一つ大切なことが書かれていた。組織の問題について、職場改革がなされなければ、何も変わらないという考えにとどまっていてはいけないということだ。働く側からも変えていくことができる。もちろんブラック職場でどうしようもない時もあるけれど、それでも自分を守るために何をすればよいか、ということはある。働き方改革は、組織と働く側の両方から変えていかなければいけないということ。この考え方が、この本に書かれたサバイバル術の根底にある。
一朝一夕で身につけられるものではないけれど、小さなことから取り組んでいきたい。まずは、ものすごく苦手と感じている人に対しても、挨拶をするということから始めてみようか。

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,135件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?