【特別支援教育】お母さんが大好きな、ASDのヨウタくん
今は昔。私が支援学校小学部の教員をしていた20年以上前のお話しです。
ASDで重度の知的障がいのあるヨウタくんは、支援学校小学部の6年生でした。「お母さん」と「ぷーさん」が大好きです。
言葉が話せないので、自分の思いが伝わらず、たたいたり蹴ったりしてしまいます。
小学6年生ですが、大人の私と身長は同じくらい、体重の1.5倍くらいあります。力もとても強いので、たたいたり蹴ったりすると大変なことになります。
大変なことになるたびに、お母さんは謝ります。小6になるまで、数えきれないくらい謝ってきました。
お母さんはひとりでヨウタくんを育てています。体が弱いのに、一日中働いて、そして、ヨウタくんを育てています。
お母さんはもう疲れ切ってしまって、辛くて辛くてヨウタくんを厳しく叱ってしまいます。叱ってしまったあと、お母さんは長い間泣き続けます。
私は、ヨウタくんも、必死に頑張るヨウタくんのお母さんも大好きです。
ヨウタくんが言える言葉が2つあります。
ひとつは、「はい」ということば。けれども、その「はい」の意味は「YES」ではありません。「ごめんなさい。もうしません。」という意味です。
もうひとつは、「ぷーさん」という言葉。プーさんが大好きなのです。
私は、ヨウタくんに、小学部を卒業するまでに、あと2つのコトバを教えたいと思いました。
ひとつは、「ください」というコトバ。(両方の手のひらを重ねる動作)
もうひとつは、「おかあさん」の言葉。
「ください」を理解するのはとても大変です。
たとえばお茶を飲みたいときに、「ください」をしなければ渡さない、ということをします。「ください」ができたらすぐに、お茶を渡します。
「ください」をしたら、すぐにお茶を渡してもらえることを、ヨウタくんはすぐに覚えました。
けれども、それだけではお茶が欲しい時にしか使えません。
他のものが欲しい時にも「ください」が使えるように、写真カードをたくさん作りました。初めは、お茶、靴下、かばん、タオル、トイレ、ブランコなど、ヨウタくんがよく使うものだけ。カードを指さして「ください」をすればやりたいことや欲しいものを伝えることができます。
しかし、そのカードが使えるようになるには、その写真と実物が同じものだということが理解できなければなりません。ヨウタくんにとっては難しいことです。けれども何度も繰り返すうちに、使える場面が増えてきました。
その他、大好きな「ぷーさん」のカードも作ってみました。ヨウタくんは、やはり「ぷーさん」のカードを持って、「ぷーさん!」と発音して嬉しそうでした。
そして、「おかあさん」の写真もはりました。私が、「おかあさんどれ?」というと、指さしてくれるようになりました。
そして次第に、自分で「おかあさん」と言って指さすようになりました。
ある日、ヨウタくんのお母さんからの連絡帳に、
と書かれていました。
小学部の卒業式の日、ヨウタくんはずっと私からはなれませんでした。私も、明日からヨウタくんと一緒じゃないと思うと、寂しくて仕方ありませんでした。
卒業式が終わって、私はお母さんと二人で泣きました。私たちは同志でした。
ヨウタくん、今は35才ぐらいでしょうか。どうしているのかな…
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